介護・福祉人材の確保に向けて。厚労省委員会「議論の整理」が示すこれからの方向性
公開日:2025/12/08 更新日:2025/12/08
介護・福祉の人事・組織づくりを支援するコンサルタント・太田が、話題のニュースやトレンドから、現場で役立つヒントを読み解く連載コラム。今回の“ひとさじ”は、厚労省が示した人材確保の新たな方向性を手がかりに、これからの介護・福祉業界が押さえておきたい“人材を迎え、育て、定着させる基本”を整理します。
なぜいま「人材確保」が大きなテーマなのか
厚生労働省の福祉人材確保専門委員会が公表した「議論の整理」では、今後の日本が直面する介護ニーズの増大と、担い手不足の深刻化が改めて示されています。
高齢者人口はこれからも増え続け、特に85歳以上の増加により、認知症ケアや見守りの強化、医療との連携など、求められる支援の質と量はさらに高まっていきます。一方で、生産年齢人口は減少しており、介護を支える人材の確保がこれまで以上に難しくなると予測されています。
将来的には大幅な人材増が必要となる可能性があり、「個々の事業所の努力では限界がある」という認識から、地域全体で取り組むための枠組みづくりが求められています。
地域ぐるみで取り組む「地域プラットフォーム」という考え方
今回の議論の整理の中心にあるのが、都道府県を主体とした「地域プラットフォーム」の制度化です。
これは、地域の関係機関が連携し合い、介護人材に関する情報や課題を共有しながら実践的に取り組みを進めていく仕組みです。
報告書では、市町村、ハローワーク、福祉人材センター、介護労働安定センター、介護事業者、介護福祉士養成施設、職能団体など、地域の人材確保に関わる幅広い機関が参画することが示されています。地域ごとに異なる課題や状況を踏まえながら協力し、人材の確保・育成・定着に向けた取り組みを共に進めていくことが期待されています。
都市部では採用競争の激化、地方では応募そのものが少ないといったように、地域が抱える課題はさまざまです。養成施設が近くにない地域や、住宅事情から働き手が集まりにくい地域もあります。プラットフォームはこうした地域差に応じた柔軟な計画づくりや取り組みを可能にする点が大きな特徴です。
さらに、情報の収集・共有、課題の設定、実践、振り返りを地域として継続的に行うことで、人材確保に関する取り組みを“地域の仕組み”として育てていくことが目指されています。
3つの人材層に応じたアプローチ
議論の整理では、介護人材を「中核的介護人材」「若者・高齢者・未経験者」「外国人介護人材」の三つの層に分け、それぞれの特徴に応じた取り組みが示されています。
中核的介護人材
中核的介護人材は、現場の専門性やサービスの質を支える中心的な存在です。
報告書では、この層が将来を描きながら働けるよう、キャリアパスの明確化、中堅・リーダー向け研修の整備、管理職を目指す人向けの育成ステップの充実、評価基準の透明性向上など、いくつかの方向性が整理されています。
こうした取り組みが進むことで、中核人材が自身の成長をイメージしやすくなり、結果として組織の安定にもつながっていくと考えられます。
若者・高齢者・未経験者など、多様な人材
介護分野への参入者はこれから一層多様化していきます。
若い世代、シニア層、異業種出身者、家庭と仕事の両立を希望する人など、求める働き方や条件は人によって大きく異なります。
報告書では、職場見学や体験の機会を広げること、短時間勤務や段階的な業務配置を取り入れること、入職後の数か月を特に丁寧に支える体制をつくることなどが示されています。
とくに未経験者は「自分にできるだろうか」という不安を抱きやすく、最初の数か月を安心して過ごせるような環境が整っていることで、結果として離職リスクを下げる効果も期待できます。
外国人介護人材
外国人材は、今後の介護現場にとって重要な力となる存在です。
報告書では、受け入れ前から就業後まで、一貫した支援体制が必要だとされています。
日本語学習や専門用語の理解支援、生活面での相談窓口、既存職員とのコミュニケーションをサポートする仕組みなど、文化や制度の違いを踏まえた配慮が欠かせません。また、支援が特定の職員に偏らないよう、チームで関わることで、双方の負担を軽減しながら働きやすい状態に近づけることが期待されています。
外国人人材の受け入れについては、ただ「採用する」だけではなく、受け入れる側の「組織づくり」が定着と活躍の鍵になります。詳しくはこちらの記事も合わせてご覧ください。
事業所として今から取り組めること
国の方向性は大きな枠組みですが、事業所レベルで活かせる視点もたくさんあります。
・育成の流れを整理して共有する
新人から中堅、ベテランまでの育成ステップを明確にし、フォローの役割分担を共有しておくことで、育成のばらつきを防ぎ、職員が安心して働けるようになります。
・多様な働き方に配慮する
短時間勤務や業務の切り出し、ペア配置、相談しやすい雰囲気づくりなど、働く側の事情に合わせた柔軟な工夫が、定着につながります。“入れる仕組み”と同じくらい、“続けられる環境”を整えることが大切です。
・外国人材をチームで支える
日本語や生活面のフォローを複数人で担う体制をつくることで、受け入れる側・働く側どちらにも無理が生じにくく、日々のやり取りがスムーズになります。
・地域とのつながりを活用する
福祉人材センターや養成施設、ハローワークなど外部の機関とつながることで、採用や育成、定着に役立つ情報にアクセスしやすくなります。地域プラットフォームの整備が進むことで、こうした連携はさらに強まり、人材対策の幅が広がります。
これからの人材確保に求められる視点
介護・福祉の仕事は、人との関わりを通じてやりがいや手ごたえを感じられる場面が多い仕事です。
だからこそ、人材を迎え入れ、育て、働き続けられる環境を整えるという一連の流れが、人材確保の重要な基盤になるといえます。
地域プラットフォームの制度化は、こうした取り組みを地域全体で支える大きな一歩だと思います。
事業所としてできることを一つずつ積み重ねながら、地域との協力を広げていくことで、未来の介護人材を支える基盤づくりにつながっていくのではないでしょうか。
