株式会社BlanketKAIGO HR FARM外国人従業員への日本語教育支援。必要性は7割、しかし未実施が6割という現状から見えること

外国人従業員への日本語教育支援。必要性は7割、しかし未実施が6割という現状から見えること

公開日:2025/12/22 更新日:2025/12/22

介護・福祉の人事・組織づくりを支援するコンサルタント・太田が、話題のニュースやトレンドから、現場で役立つヒントを読み解く連載コラム。今回の“ひとさじ”は、「必要だと分かっているのに進まない」外国人職員への日本語支援を、介護・福祉の現場の視点から読み解きます。


三菱UFJリサーチ&コンサルティングが2025年11月に公表した調査(※)によると、外国人従業員を雇用している企業のうち、日本語学習支援を「実施していない」と回答した割合は62.0%にのぼりました。一方で、72.7%の企業は日本語教育の必要性を感じており、「必要性は理解しているものの、具体的な取り組みには至っていない」というギャップが浮き彫りになっています。

また、「今後取り組みたい支援」として最も多く挙がったのが「オンライン日本語教育の受講」(24.7%)です。企業として、より取り組みやすい方法を模索している様子がうかがえます。

こうした傾向は介護・福祉の現場にも深く関係します。介護・福祉分野でも外国人職員が多く働くようになっていますが、利用者への言葉がけ、家族への説明、記録や申し送り、緊急対応、医療との連携など、日々の業務の多くが日本語でのコミュニケーションを前提としています。日本語力が十分でない状態で働くことは、本人の不安や負担を強めやすく、結果として安全性やサービスの質にも影響が出やすくなります。

※ 三菱UFJリサーチ&コンサルティング「育成就労制度を見据えた外国人従業員への日本語教育に関する企業等アンケート調査

日本語支援が必要だと分かっていても進みにくい背景

調査結果を詳しく見ると、日本語教育に取り組めていない背景には、現場ならではの事情があることが分かります。企業からは、次のような理由が多く挙げられています。

・日本語を教えられる人材が社内にいない。
・教材や学習方法が分からない。
・日常業務が忙しく、学習時間を確保できない。

人手に余裕がない職場ほど、「必要性は感じているが、どう始めればよいのか分からない」という状況に陥りやすいといえます。また、すでに何らかの支援を行っている企業でも、教科書の配布や日本語検定の受験料補助など、本人の自主学習に委ねる形が中心となっており、業務に結びつく形での学習支援まで踏み込めていない実情も示されています。

オンライン学習に関心が集まっている理由

オンライン日本語教育が「今後取り組みたい支援」として多く選ばれた背景には、現場の負担を増やさずに導入しやすい点が評価されていることがあります。業種を問わず、時間や人手に制約がある中でも取り入れやすい手段として注目されていると考えられます。

多様な勤務形態でも学習を続けやすい

シフト制や不規則な勤務がある職場では、決まった時間に集まる研修は参加が難しくなりがちです。

オンライン学習であれば、スマートフォンやタブレットを使って都合のよい時間に学べるほか、短時間のレッスンを積み重ねることも可能です。日本語レベルに応じて内容を選びやすい点も、継続しやすさにつながります。

日本語教育の専門性を外部に委ねられる

日本語指導には、教材選びや教え方の工夫など一定の専門性が求められます。

オンライン日本語教育を活用することで、教材の準備や指導内容の設計、学習の進行管理といった部分を専門の外部サービスに任せることができます。そのため、事業所側は「学ぶ環境を整えること」に注力しやすくなり、「誰が教えるのか」という課題も軽減されます。

育成就労制度に向けて、日本語力はさらに重要に

調査報告書では、2027年度に開始される育成就労制度についても触れられています。育成就労から特定技能1号・2号へと進むキャリアの道筋が整理される中で、日本語能力はキャリア形成の前提として、これまで以上に重視されることが示されています。

介護・福祉分野では、記録の正確性や申し送りの質、緊急時の対応、医療・看護との連携など、日本語力が現場の安全性や業務の円滑さを左右する場面が少なくありません。制度が始まってから対応を考えるのではなく、今のうちから日本語育成をどのように支えるかを整理しておくことが、現場の安定につながります。

介護・福祉現場で取り入れやすい日本語支援のヒント

日本語教育というと大がかりな仕組みを想像しがちですが、日々の業務の中で取り入れられる工夫も多くあります。ここでは、現場で実践しやすいポイントをいくつか紹介します。

1.「伝わりやすさ」を意識した資料や説明にする

マニュアルや研修資料を短い文でまとめ、専門用語には簡単な補足を添えるだけでも理解度は高まります。写真や図を使うことで、言葉だけでは伝わりにくい内容も補いやすくなります。

2.現場で使う言葉や伝え方を整理する

日常業務の中で使われる言葉や指示の出し方が人によって異なると、理解に時間がかかります。申し送りや声かけの際によく使う表現を共有し、伝え方をある程度そろえておくことで、外国人職員にとっても状況を把握しやすくなります。

3.指導を担う職員の負担を軽くする

外国人職員のサポートを任された職員が一人で抱え込まないよう、指導のポイントを共有したり、教える側も学べる機会を設けたりすることが重要です。教える側が安心して関われる体制づくりは、支援の継続にもつながります。

日本語教育は「外国人のため」だけではなく、職場を整える取り組み

今回の調査からは、日本語教育の必要性を感じながらも、日々の業務に追われる中で、なかなか実践まで踏み出せていない企業の姿が浮かび上がってきます。

介護・福祉の現場でも、「必要だとは分かっているけれど、後回しになっている」という感覚を持つ事業所は少なくないのではないでしょうか。

日本語支援は、外国人職員のためだけの特別な施策ではありません。

伝わりやすい資料や、分かりやすい言葉でのやり取りを整えていくことは、職員同士の理解を深め、日々の仕事を少し楽にすることにもつながります。そうした積み重ねが、結果として職場全体の働きやすさを底上げしていきます。

制度の動きをきっかけに、まずは身近なところから一つ手をつけてみる。そうした取り組みを重ねていくことで、日本語支援のあり方を整理し、職員が安心して働ける環境づくりにもつながっていくのではないでしょうか。


外国人人材の受け入れを進めるうえで押さえておきたい視点や、現場での工夫については、こちらの記事で詳しく紹介しています。

【この記事を書いた人】
太田 高貴
株式会社Blanket採用コンサルタント / 社会福祉士 / 一般社団法人総合経営管理協会 認定採用コンサルタント

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