理念重視のSNS運用で共感を生む“ふさえさん” 総フォロワー10万超のベストリハが教える発信術
公開日:2026/01/20 更新日:2026/01/20
介護・福祉業界の新たな魅力発信ツールとして、SNSの活用が盛んになっています。そのなかで、ひときわ注目を集めているのが、チャーミングな笑顔に白髪のショートヘア、“デイサービスの看板娘”としてSNSに登場する「ふさえ/令和のアイドル88歳」さんです。
ベストリハ株式会社のデイサービスに通うふさえさんは、2023年にSNSを始めて以来、Instagramフォロワー5.9万人、TikTokフォロワー4.78万人(2026年1月時点)を誇る人気インフルエンサーです。
なぜ、ふさえさんの発信はここまで多くの共感を集めるのか。人気の裏には、介護現場のリアルを伝える工夫と、継続して発信するための運用体制がありました。
今回は、KAIGO HR FARMを運営する株式会社Blanketコンサルタント松川が、アカウント運用を担当するベストリハ株式会社 管理本部の峯美月さんと尾﨑理子さんに、SNS運用にかける想いを伺いました。SNS運用にお悩みの担当者、事業所のみなさまへヒントをお届けします。


ベストリハ株式会社
管理本部 人事・総務課
峯 美月さん(左)
ベストリハ株式会社
管理本部 人事・総務課 人事担当 尾﨑 理子さん(右)
広報から採用へ。ベストリハの「ケアの価値観」を届けたい
Instagramに並ぶ「ふさえ(88歳)」と書かれた投稿には、デイサービスでの過ごし方や散歩をする様子、さらにはクイズに挑戦したり、「選挙に行った?」と問いかけたり、さまざまな発信がされています。

アカウントの運営を行うのは、「不自由な世界を変える」をビジョンに、ヘルスケアソリューションやLMCA(Local Medical Care Alliance:地域医療介護連携)プラットフォーム事業を展開するベストリハ株式会社。
SNS運用を始めたきっかけは、法人認知の拡大と広報活動だったと尾﨑さんは話します。
「2023年頃に、当社を知ってもらう広報戦略の1つとして、SNS運用の検討を始めました。介護業界に対するネガティブなイメージは、まだ根強くあります。そのため、新しい人材の参入や、会社を知ってもらう機会が限られていると感じていたんです。
そのなかで、会社のことをただ一方的に発信するのではなく、ユーザーに興味・関心を持ってもらえるきっかけとして、スタッフと利用者様に出演してもらおうと社内で出演依頼を行いました」(尾﨑さん)
何名かのスタッフ・利用者に声がかけられ、出演依頼に応えたのがデイサービスの利用者だったふさえさん、そして当時介護士を務めていた峯さんでした。
「部長から打診をいただいたときは驚きましたね。ただ、新しいことは『やってみたい』と前向きに捉えるタイプなので、今回も『ぜひ!』と引き受けました。
ふさえさんも、以前会社のパンフレットに出演した経験もあったため、顔合わせのときからとても前向きで(笑)。ふさえさんのご家族からも許可をいただけたことで、二人三脚で発信していくことが決まりました」(峯さん)

立ち上げ当初は、峯さんとふさえさんの姿から「最幸の2人」というアカウント名だったそう。しかし、立ち上げからしばらくして峯さんが産休を取得することになり、他スタッフのサポートのもとふさえさんがメインで出演するように。以来、ふさえさんを中心に据えた現在の形になりました。
現在は、法人認知の拡大と広報活動から発展し、採用広報としても活用。ふさえさん自身も「介護の仕事に興味を持つ人を増やしたい」という目的を持って撮影に臨んでいるといいます。
「介護士という仕事は楽しいことも多い一方で、世間では『きつい』『大変』といった印象も根強く、ふさえさんのもとへ『仕事を続けるか悩んでいる』という現役介護士さんからの相談が届くこともあります。
ふさえさんはそうした声に『自分がこうして楽しく過ごせているのは介護士さんのおかげ。介護の魅力をもっと伝えたい』と、“世界最高齢のインフルエンサー”として発信を続けてくれているんです。
ただ、私たちはSNSで拡散されることだけを目的にはしていません。運用の核は、ベストリハの理念である『不自由な世界を変える』や、『あなたのやりたいを叶えるデイサービス』『こころが動けば身体も動く』という私たちの価値観を伝えることにあります。この軸はぶらさず、発信を行っています」(尾﨑さん)

利用者第一で無理なく続ける。ベストリハ流のSNS運用
現在は週2回ほどショート動画の投稿を中心に行い、月1回まとめて撮影を実施。企画から撮影・編集までを外部パートナーと連携し、無理なく続けられる体制を整えています。
動画に出演する利用者とスタッフが映る際には、本人や家族に許可をとることはもちろん、利用者の生活を最優先に考え、現場の負担を増やさない事にも気を配っているといいます。
運用当初の様子を尋ねると、「ふさえさんも私も、カメラを前にした撮影に緊張しっぱなしでした」と峯さんは振り返ります。

「『撮影されている!』と思うと、どうしても緊張してしまって。すると外部パートナーさんが、『まずは自然に会話している場面を記録しましょうか』と提案してくださったことがあります。普段のふさえさんと雑談する様子や、笑い合っている瞬間を切り取ってもらうことで、『身構えなくても大丈夫なんだ』と思え、徐々にカメラの存在に慣れていきましたね。
ふさえさんについては、カメラ慣れが圧倒的なんです。撮影の回数を重ねるなかで、カメラを目の前にしても、パッと自然に表情が変わるんです。まるで女優さんみたいに。元々美容師さんだったこともあり、いつもおしゃれにされていて、さらに見てくださる方に寄り添う姿勢や楽しそうに過ごされる姿も印象的です。毎回の撮影が本当に楽しそうで、次の撮影を楽しみにしてくださっています」(峯さん)
さらに、外部パートナーとの協働は、現場の価値を再発見する機会にもなっていると尾﨑さんは話します。
「たとえば、投稿内容を相談していたときに、いつもデイサービスで行っているレクリエーションに対して、『これは面白いですね!』と提案をいただいたことがあります。実際に発信したところ、大きな反響があったんです。私たちにとって“当たり前”の日常が、外から見ると大きな魅力になると気づかされました」(尾﨑さん)

投稿内容は外部パートナーと検討しつつ、ベストリハからアイデアを出すことも。「語り系」「日常系」「ちょっと笑える系」とバリエーションを持たせ、ふさえさんと峯さんの掛け合いを楽しめる動画もあれば、ふさえさんの個性を引き出す投稿もあります。
一方で、理念や考えをストレートに打ち出した投稿は、ユーザーにとって接点を見つけにくく、どうしても反応が伸び悩む傾向があります。そのため、トレンドの音源や企画を取り入れて、まずは「面白そう」と思ってもらえる入口を作り、その上で介護の魅力に触れてもらう流れを意識しているといいます。
さらに、採用広報に活用するようになってからは、Instagramのストーリーや公式LINEとの連携も強化。SNSをきっかけにベストリハへ興味を持ったユーザーが、応募や問い合わせにスムーズにつながるよう、導線設計にも力を入れています。
フォロワー増加期のコメント対応と自然な発信の工夫
今やInstagramのフォロワーは6万人を超え、TikTokなどのSNSも合わせると全体では10万人ほどにのぼります。
「1万人を超えた時点で、本部長も『想定外だ!』と驚いていました。私たち自身も、ここまで伸びるとは正直思っていなかったんです」(峯さん)
フォロワーが大きく伸びたきっかけは、ふさえさんが若者に問いかける形で発信したショート動画でした。急激なフォロワー増加はうれしい反面、リスクも伴います。コメント欄には批判的な意見が寄せられることもあったといいます。
「批判的なコメントは運用開始当初に一定数ありましたが、必要に応じて『そういうコメントは控えてください』と発信したことで、今では数件程度に落ち着いています。基本的には“そう捉える人もいる”と受け止め、気にしすぎないようにしています」(峯さん)
投稿のなかでも特に配慮しているのが、ふさえさん自身の気持ちを伝える動画です。撮影の際には伝えたい内容をまとめた台本がありますが、台本感が強くなるとわざとらしく見えてしまうことも。
そこで、ふさえさんが自然に話せるように言い回しを調整したり、一緒に練習を重ねたりすることで、できるだけ自然な形にし、ふさえさんらしさを伝えられるように工夫しています。

また、コメントへの反応についてもポイントを教えてくれました。
「コメントにはときどき“いいね”を付けていますが、全件ではなくランダムに付けるようにしています。全件に対応するのは負担が大きいですし、特定のコメントばかりに反応すると偏りが生じてしまう。だからこそ、いただいたコメントやDMへの対応はバランスを意識していますね」(峯さん)
一方で、温かいコミュニケーションを大切にする工夫も忘れません。
「すべてではありませんが、ふさえさん宛のコメントはご本人にも共有し、ふさえさんが喜んでいた言葉を返信として返すこともあります。DMにはスタンプや短文を返していた時期もあり、そのやり取りがきっかけで『施設を見学したい』という問い合わせにつながったこともありました」(尾﨑さん)
出演する利用者様はもちろん、ユーザーも置いてけぼりにしない。こうした丁寧な姿勢が、フォロワーの増加や問い合わせに繋がっているのかもしれません。
社内外のつながりを育む。SNS運用の効果
SNS運用を始めて2年。フォロワー数や再生回数といった数字だけでなく、社内外にも変化がありました。社内では、「コミュニケーションが活発化した」と言います。
「SNSに出演するようになってから、社内での会話が増えましたね。『あの動画見ました!』『いつも楽しみにしています』と声をかけられることも多く、普段接点の少ない社員とも自然に会話が広がるんです」(峯さん)
本社勤務の尾﨑さんも、現場との距離が縮まったと感じています。

「運営と現場の間にはどうしても距離が生まれがちですが、撮影を通じて現場の職員とのつながりが強くなりました。そう思うと、広報の枠を超えて、SNSが社内連携のきっかけになっているんです。
また、利用者様から『出演してみたい!』という声が届くようになったこともうれしい変化です。SNSを通じて社会との接点を持つことで、新しい体験を楽しみにしてくださる利用者様が増えました」(尾﨑さん)
対して社外への変化は、若年層を中心に「介護って明るくて楽しそう」と受け取られるケースが増え、業界イメージの刷新に寄与している実感もあると言います。
「採用広報としての数値はまだ検証段階ですが、内定者に対して会社説明のひとつとしてふさえさんのアカウントはお伝えしています。すると『どんなふうに働くのかがわかった』『利用者様の雰囲気が伝わり安心した』とポジティブな反応が多く返ってきます」(尾﨑さん)
「以前、『SNSを見ました!』と中途入社でエントリーしてくださった方がいらっしゃいました。お話を聞くと、その方はデイサービスの利用者様の娘さんだったんです。まさかそんなふうに繋がっていくとは思わず、SNSの広がりを感じました」(峯さん)

バズや数字に惑わされない理念重視のSNS運用術
こうした変化を経て、ベストリハのSNS運用は「理念を伝える場」としてさらに進化を続けています。
「学生時代の私は、介護業界に対して『大変そう』というイメージしか持っていませんでした。そんな私と同じように、実態を知らずに敬遠してしまう人が少なくないと思います。クローズドな介護の現場をこれからもオープンに発信し続けることで、介護がもつ多様な側面を、SNSを通して伝えていきたいです。
一時的なバズや数字を追うよりも、自分たちが大切にしていること・伝えたいことを前提にアカウントを設計し、流行要素と語りをバランスよく織り交ぜることが大切だと思います」(尾﨑さん)

「私は演者として、まず利用者様が楽しめることを最優先に、ありのままでいることを大切にしたいです。以前は介護士として現場に勤務していましたが、本部に異動してからは現場に直接関わる機会が減りました。だからこそ、関係性を大切にしながら発信を続けていきたいです」(峯さん)
そしてお2人は、「SNSを活用するなら、継続がもっとも大変で、もっとも大切なこと」と声を揃えて言います。
「ユーザーさんとの接点は投稿することでしか得られません。私たちのように外部パートナーさんと協業することも一つの手ですし、内製する方法もあるかと思います。
ただ、やはり大切なのは定期的な発信をすること。日々の業務があるなかでの大変さもわかるからこそ、無理なく、だけど継続できる方法でともに介護業界を盛り上げていきたいです」
クローズドになりがちな介護・福祉の現場にとって、SNSは外に開く窓のような役割となり、利用者や職員、そして未来の仲間をつなぐツールとしての可能性を持っています。
一時的なバズや数字に一喜一憂するのではなく、理念やケアの価値観といった運営目的の軸を持つことで、SNSは「単なる広報」ではなく、「共感を生む場」として活かしていけるのではないでしょうか。

取材を通して感じたこと|介護・福祉の現場を見続けてきた立場から
今回のお話を通して感じたのは、SNSは“採用の即効薬”ではなく、“人との介護の関係を育てる種”なのだということです。
発信を続けることで、会社の雰囲気や人の温度が多くの人に伝わり、「この会社なんだかいいな」「介護っていいな」と感じてもらえる。直接的ではないですが、その積み重ねが、未来の採用候補者とのつながりをつくっていくのだと思います。また、SNSをきっかけに社内の会話が増えたり、現場の魅力を再発見できたりと、社内にも良い変化が生まれている点が印象的でした。
数字やバズを追うのではなく、長い目で見て「介護を身近に感じてもらう」ための発信を続けることが、巡り巡って採用につながっていくのだと改めて感じました。
ベストリハ株式会社について
ベストリハ株式会社
所在地:東京都千代田区神田錦町2-2-1
URL:https://bestreha.com/
ベストリハ株式会社は、「不自由な世界を変える」を掲げ、通所・訪問・施設の複合サービスを展開しながら、データを活用した地域包括ケアシステムの構築に取り組むヘルスケアソリューション企業です。介護・リハビリの現場で培ったノウハウをもとに、生活機能の改善や予防に寄与するサービスを提供。また、地域・企業・医療介護機関をつなぐ独自の「LMCAプラットフォーム」を展開し、誰もが安心して暮らせる社会の実現を目指しています。
(文/田邉なつほ、編集/Ayaka Toba)