株式会社BlanketKAIGO HR FARM初任給引き上げが当たり前になる時代。経団連調査から考える、介護・福祉の採用と定着に向けた土台づくり

初任給引き上げが当たり前になる時代。経団連調査から考える、介護・福祉の採用と定着に向けた土台づくり

公開日:2026/02/09 更新日:2026/02/09

介護・福祉の人事・組織づくりを支援するコンサルタント・太田が、話題のニュースやトレンドから、現場で役立つヒントを読み解く連載コラム。今回の“ひとさじ”は、初任給引き上げの動きから見えてくる、賃金だけでは語れない採用と定着のポイントを読み解きます。


経団連が公表した「2025年人事・労務に関するトップ・マネジメント調査結果」によると、過去3年間に大卒初任給を引き上げた企業は95.5%にのぼりました。賃金改定の際に特に考慮した要素としては、「物価の動向」に加え、「人材確保・定着率の向上」が高い割合を占めています。

この数字を見ると、初任給の引き上げは一部の先進的な企業だけの取り組みではなく、多くの企業にとって“対応しておくべき前提条件”のような位置づけになりつつあることがわかります。

一方で、この調査は経団連の会員企業を中心とした調査であり、十分な経営資源を持つ大企業の動向を反映したものです。中小規模の事業所が多い介護・福祉分野に、そのまま当てはめて考えることは難しい面もあります。だからこそ、数字の大きさに引っ張られるのではなく、「なぜこうした判断が取られているのか」という背景を丁寧に読み取る視点が重要になります。

初任給引き上げは「前提条件」として扱われ始めている

調査では、初任給を引き上げた理由として「人材の確保」が圧倒的に多く挙げられています。これは、大企業に限らず、採用市場全体で「条件面が一定水準に達していなければ、そもそも選択肢に入らない」という感覚が広がっていることを示しています。

ただし、ここで注目したいのは、初任給を引き上げること自体が“採用成功の決め手”として語られていない点です。賃金水準を整えることは、あくまでスタートラインに立つための準備であり、その先でどのような働き方ができるのか、どんな経験を積めるのかが問われる段階に入っていることがうかがえます。

大企業にとっては、初任給引き上げが比較的取り組みやすい施策である一方、介護・福祉の現場では同じ水準を目指すことが現実的でないケースも少なくありません。だからこそ、賃金以外の部分でどのような価値を提示できるかが、より重要になってきます。

介護・福祉分野は、同じ土俵で競わなくてもよい

経団連調査の結果を見て、「賃金では太刀打ちできない」と感じる必要はないと思います。大企業と同じ方法で人材を集めることが、必ずしも最適解ではないからです。

介護・福祉の仕事は、利用者との関わりやチームでの支援など、仕事の中身が具体的にイメージしやすい分野です。だからこそ、次のような日常の姿を丁寧に伝えていくことが、採用活動において大きな意味を持ちます。

・現場でどのように声を掛け合いながら仕事を進めているのか
・新人が仕事に慣れるまで、どんな関わりやサポートがあるのか
・経験を重ねた職員が、どのような役割を担い、現場を支えているのか

賃金水準だけを切り取って比較されがちな中で、こうした情報は、そこで働く日々の姿を具体的に思い描くための材料になります。結果として、「自分に合う職場かもしれない」と感じてもらえる可能性を高めていきます。

人材確保と定着は、切り離して考えられない

今回の調査で「人材確保・定着率の向上」が重視されている点は、介護・福祉分野にとっても示唆的です。採用できても、短期間で離職が続けば、現場の負担はむしろ増えてしまいます。

介護・福祉の現場では、入職後の数か月間をどう支えるかが、その後の定着に大きく影響します。たとえば、

・困ったときにすぐ相談できる相手がいるか
・自分に求められている役割が分かりやすいか
・少しずつ仕事を任され、成長を実感できているか

といった点は、賃金以上に「続けられるかどうか」を左右します。これらは大きなコストをかけなくても、現場の工夫や関わり方次第で整えていくことが可能です。

賃金の話題が広がる今こそ、「伝え方」が問われる

初任給アップポイント_コラム

初任給引き上げのニュースが増えるほど、学生や求職者は給与以外の違いにも目を向けるようになります。条件面が横並びになりやすいからこそ、職場ごとの雰囲気や価値観が、より重要な判断材料になるからです。

介護・福祉分野では、仕事の大変さが先行して伝わってしまうことも少なくありません。しかし、日々の支え合いや成長のプロセス、職員同士の関係性を丁寧に言葉にすることで、仕事の見え方は大きく変わります。

特別な演出や目新しい制度を用意しなくても、普段の現場で行われている関わりや工夫を整理して伝えることが、結果的に強いメッセージになります

大企業の動きを「自分たちの視点」で読み替える

経団連調査は、大企業の動向を示すものではありますが、「人をどう迎え、どう定着させようとしているのか」という考え方自体は、事業所の規模を問わず参考になります。

介護・福祉の現場にとって大切なのは、数字の大小に振り回されることではなく、自分たちの職場で何ができるかを見極めることです。賃金だけに目を向けるのではなく、働く日常や人との関係性を含めて職場の姿を伝えていく。その積み重ねが、これからの採用と定着を支える土台になっていくのではないでしょうか。

【この記事を書いた人】
太田 高貴
株式会社Blanket採用コンサルタント / 社会福祉士 / 一般社団法人総合経営管理協会 認定採用コンサルタント

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