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採用戦略から介護事業経営と現場の「今」と「これから」を見つめる【介護経営に役立つ「人事の目線」②】

2023/01/26

計画・戦略的な人材採用・人材育成

人材採用は、多くの介護・福祉事業者にとって、重要かつ難しさを感じるテーマであると思います。公益財団法人介護労働安定センターが行った「平成29年度介護労働実態調査」において66.6%の介護事業者が介護職員の充足感について、「不足している」と回答し、その理由として大半が「採用が困難である」点を挙げています。

人材の確保や定着を重要な経営課題として認識されている経営者の方も多いと思いますが、一方で重要なテーマであるはずの「採用」そして、「人材育成」について、しっかりと計画や方針を定めたうえで進められていないケースも多く見受けられます。

これは、事業運営でたとえるならば、経営方針や事業計画を定めずに闇雲に事業展開を進めるようなものです。一時的に成果を上げられたとしても、中長期的に再現性を保ちながら成果を出すことは難しいはず。

採用・人材育成においても「なぜ採用するのか」「どのような人材を育成したいか」という目的・目標を持ち、その目的を達成するために、計画的に施策を展開することができなければ、「良い人材が採用でき、成長する組織」をつくることはできません。

今回と次回に分けて、採用施策・人材育成施策の計画策定における視点について考えてみたいと思います。

採用成功のためには、急がば回れ

自社の採用について考えていく際、まずは「なぜ今、採用を行うのか?」という問いかけと向き合ってみることが重要です。シンプルすぎて意味のない質問に見えるかもしれませんが、採用計画の根幹はここにあります。

実際に経営者や採用に携わる方にこの質問をさせていただくと、「欠員補充のため」「新規事業所の開設のため」といった答えが多く返ってきます。もちろんそういった理由も含まれていると思いますが、「単純に欠員補充や事業計画に伴う増員ができれば、採用するのは誰でも、どんな人材でもよいか?」と深堀りをしていくと、「いや、誰でもいいわけではない。たとえば……」と、それぞれの企業において、「人材を採用する理由」がほかにもあることが見えてきます。

「課題解決ができる力を持った経験豊富な人材が欲しい」「若い人材を迎えて組織を活性化したい」などといったかたちで、自社が採用する理由・目的を言語化していくことで、どのような人材を採用すべきで、そのために何をすべきか、自社の魅力や特徴のどの部分をどのように訴求していくか、という採用戦略・採用戦術が明確になっていきます。

採用活動がなかなか上手くいかず、良い人材とのマッチングができていないと感じている場合は、一度立ち止まり、採用目的という原点から考えていきましょう。一見遠回りに見える、この本質を突き詰めるプロセスが、結果として採用活動・人材確保を成功に導いてくれるはずです。

自組織の「今」と「これから」を考える

採用目的を考えるにあたっては、2つのポイントを意識することが重要です。

1つ目は、「自社の理念や経営方針と連動しているか」という点です。良い人材と巡り合うことができなかったり、採用した社員が職場への適応ができずに早期離職につながってしまっている場合は、採用において訴求しているポイントと、自社が大切にしている想いやめざしている方向性と、採用で打ち出しているメッセージがずれてしまっているため、魅力が伝わっていなかったり、職員が入職後にギャップを感じてしまっている可能性があります。

採用の目的を単体で考えるのではなく、自社の理念・経営方針という大きなビジョンにつながるかたちで検討がなされているかという視点を持つことが重要です。図表にあるような形で、理念や事業運営方針を土台にしながら、採用の明確化→人材要件の明確化→採用施策の検討といった流れで、順番に組み立てていくことを意識していただきたいと思います。

採用戦略・戦術を立てる思考のピラミッド
下の「土台」がはっきりしなければ、戦略・戦術が組み立てられず、施策・訴求内容もぼやけてしまう

もう1つは、「現場の声や想いが反映されたものになっているか」という点です。経営・事業運営の側面で感じている採用の必要性や求める人物像と、現場の声がずれてしまったままで採用計画を策定してしまうと、現場に配属後にミスマッチが生じてしまったり、反対に現場目線のみで短期的に必要な人材数の確保に走り、経営の方向性とずれてしまい、事業の成長がストップしてしまうといったことが生じてしまいます。

効果的な採用計画を立て、良い人材を採用するためには、経営・現場での対話を行い、双方の「なぜ人材を採用したいか」ということをすり合わせていく必要があります。この過程においては、経営と現場において、重要なコミュニケーションの機会が生まれます。

「なぜ採用活動を行い、どのような人材を迎えたいのか」ということを経営が現場に語ることは、自社のめざす姿や、自分たちの働く 目的を現場の職員が考える機会になります。また、現場が新しい人材に何を求めるかを聞くことは、現場で今起きている課題を経営者が知るきっかけとなります。

現場と経営が目線を合わせながら、採用を考えることで、全社一丸での採用施策の実行が可能になります。そして、その効果は採用活動の成功に留まらず、事業運営や人材育成といった場面でも活きてくるはずです。

「企業理念」と「現場の声」を意識しながら、人材を採用する目的を突き詰め、採用施策を策定していく。そのプロセスが自組織の「今」の課題を浮き彫りにすると同時に、「これから」のあるべき姿を描くヒントを与えてくれるのではないかと思います。

※本記事は、以下に雑誌に執筆・掲載した内容を加筆・修正し、公開しております。

社名:株式会社日本医療企画
雑誌名:地域介護経営 介護ビジョン
発行年/掲載号:2019年2月号掲載

前回の記事はこちら▼

「人」が根幹となる介護・福祉事業だからこそ、経営で「人事」の視点を重視すべき【介護経営に役立つ「人事の目線」①】

この記事を書いた人

野沢 悠介

株式会社Blanket 取締役

東京都出身。立教大学コミュニティ福祉学部卒。ワークショップデザイナー/キャリアコンサルタント。2006年株式会社ベネッセスタイルケアに新卒入社し、採用担当・新卒採用チームリーダー・人財開発部長などを担当。介護・福祉領域の人材採用・人材開発が専門。2017年に参加して株式会社Join for Kaigo(現 Blanket)取締役に就任。介護・福祉事業者の採用・人事支援や、採用力向上のためのプログラム開発などを中心に「いきいき働くことができる職場づくり」を進める。