ITツールを用いて、組織を強くする “HR Tech” 活用のポイント【介護経営に役立つ「人事の目線」⑪】
2023/03/30
近年、社会的に「働き方改革」の動きが広がるなか、人事領域においても効率化や生産性向上に役立つテクノロジーの活用が広まり、「人事(Human Resource:HR)×テクノロジー(Technology)」を表す「HR Tech」にも注目が集まっています。
HR Techには、すでにさまざまなサービスが存在していますが、組織の課題や特徴に合わせてこれらのテクノロジーをうまく活用することが、これからの介護・福祉事業のマネジメントでも重要となります。
今回は、HR Techのサービスを整理し、活用のためのポイントを考えてみたいと思います。
業務効率化で負担を削減
HR Techのサービスは、主に①業務効率化、②人材の可視化、③エンゲージメント向上――の3つのタイプに分類されます(図表)。
一つ目の「業務効率化」は、給与計算や労務管理、採用オペレーションなどといった人事の定型業務をロボットによる自動業務へと移行する手法です。
導入時に一定のルールを策定することで、工程数を大幅に削減することを目的としています。工数が多く、時間のかかるシフト作成の自動化や、訪問介護サービスでの従業員の勤怠管理の集約など、介護・福祉事業所でもテクノロジーの活用が進み始めています。
スマートフォンの普及により、常時パソコンを使用する機会の少ない介護・福祉事業所の職員の労務管理も、ITでの管理がしやすくなってきています。
定型業務でのHR Techの導入は、該当業務の効率化にとどまらず、従業員の勤務実態や、労務費、採用コストなどの人事情報の集約がしやすくなり、さまざまな組織上の課題の分析や必要な施策を判断しやすくなるという効果もあります。
業務の効率化を図ると共に、人事施策の次の一手を考えるためにも、ツールの導入は有効です。
情報の可視化で戦略的な人事施策を
二つ目の「人材の可視化」は、人事情報の一元管理を行い、人事評価や育成・配置など人事施策をより戦略的に実行するためのものです。
近年、自社の活躍人材=「タレント」がどのようなスキル・特性を持っているかを分析し、そのパフォーマンスを最大化するための配置・業務のアサインを行ったり、そうした「タレント」人材の育成などを戦略的に進めていく「タレントマネジメント」という概念が浸透し始めています。
採用から配属先での業務状況や評価、育成施策の受講履歴など、一人の社員にまつわる情報は多岐にわたっており、それぞれがバラバラに存在していて整理されていないケースも多くあります。
人事情報の管理システムも日々進化し、簡単な操作で社員の状況を一元化・可視化できたり、前述の労務管理と連動して行えるものも多いため、一つのシステム・ツールでさまざまな改善や効率化を見込むことも可能です。
また、従業員の特性や行動を過去のデータから分析し、退職につながりそうな従業員を予測。離職防止のアプローチに活用するなどの行動予測のツールも、マネジメントの場で効果が期待できるサービスです。
ツールを用いて 職員の意欲を向上
三つ目の役割は、「エンゲージメントの向上」です。エンゲージメントは、組織への帰属意識や従業員のやる気といったものを表す指標です。
組織内で意欲をもった職員が活躍する環境をつくることは、サービスの向上や職員の定着率上昇にもつながり、反対に職員の意欲が低い状況を放置していれば、サービスの質低下や退職につながるリスクが上昇します。
エンゲージメント向上のためには、処遇アップや福利厚生などの直接的な施策はもちろん有効ですが、ほかにも職場内のコミュニケーションや、仕事を通してのやりがい・働きがいを感じる瞬間を持つなど、さまざまな要因が必要で、すべての組織で一律に有効な施策は存在しないのが現状です。
意欲向上や組織活性化のために何をすべきか、組織や職員の状況に合わせて個別に考えていく必要があります。
このなかなか見えづらい組織・職員の状況を可視化すると共に、何がエンゲージメント低下の要因になっているかを発見し、エンゲージメント向上のために行うべき施策を見出すことも、ツールを通して実現できることです。
HR Techは手段にすぎない
ここまでHR Techの得意分野を整理してご紹介しましたが、HR Techを導入する際に意識していただきたいのは、ツールの導入そのものが目的とならないよう「ツールを通して何を実現したいのか、何を解決したいのか」を明確にしたうえで、導入を進めていくということです。
ここが曖昧なままでは、ツールを導入しても組織課題の改善にはつながりません。
ツールを用いる最大の効果は、人の力だけでは難しいデータ収集や分析を行うことで人事戦略を考える材料を得ることであり、作業時間を短縮し、人事戦略を考え、実行する時間を得ることであると思います。
しっかりと組織改革の方向性や目的を明確にし、その改革のために必要な情報や時間を得る。
そして、その目的や組織の状況に合わせた有効なツールを選定する。その意識をもって活用していけばHR Techは皆さんの頼もしいパートナーになってくれるはずです。
※本記事は、以下に雑誌に執筆・掲載した内容を加筆・修正し、公開しております。
社名:株式会社日本医療企画
雑誌名:地域介護経営 介護ビジョン
発行年/掲載号:2019年11月号掲載
前回の記事はこちら▼
協働で課題を乗り越える人的課題解決のための「人事シェア」【介護経営に役立つ「人事の目線」⑩】
「働き方改革」を採用・定着につなげるために大切な2つの視点【介護経営に役立つ「人事の目線」⑨】
この記事を書いた人
野沢 悠介
株式会社Blanket 取締役
東京都出身。立教大学コミュニティ福祉学部卒。ワークショップデザイナー/キャリアコンサルタント。2006年株式会社ベネッセスタイルケアに新卒入社し、採用担当・新卒採用チームリーダー・人財開発部長などを担当。介護・福祉領域の人材採用・人材開発が専門。2017年に参加して株式会社Join for Kaigo(現 Blanket)取締役に就任。介護・福祉事業者の採用・人事支援や、採用力向上のためのプログラム開発などを中心に「いきいき働くことができる職場づくり」を進める。