人材の課題が経営課題に直結する。誰よりも経営者が、採用にフルコミットしよう【「KAIGO HR FORUM 2022」イベントレポート①】
2023/01/11
介護人材の不足が叫ばれて久しい中、喫緊の課題である人材確保。採用にどれくらいリソースをかければ良いか、そもそも経営者はどれくらい採用にコミットすべきか、頭を悩ませている事業所も多いのではないでしょうか。
今回登壇いただいたのは、株式会社ドットライン(ドットライングループ)代表取締役CEOの垣本祐作さんと、株式会社ケアサービス(以下、ケアサービス)代表取締役社長の福原俊晴さん。
周囲から見れば「採用に成功している」ような2社ですが、実際は試行錯誤の繰り返しといいます。経営者ふたりに共通しているのは、「採用にコミットする」という強い意思。覚悟の一端に触れ、これからの人材確保に思いを馳せてもらえたらと思います。
【ゲスト】
株式会社ドットライン(ドットライングループ)
代表取締役CEO
垣本 祐作(かきもと ゆうさく)
1985年生まれ、千葉県出身。高校時代、坂本龍馬に憧れ、経営者になることを決意。24歳で起業。祖母の死をきっかけに、2014年から訪問介護事業を千葉市にて開始。現在までに千葉最大級の総合福祉医療企業として注目を集めている。
株式会社ケアサービス
代表取締役社長
福原 俊晴(ふくはら としはる)
1979年生まれ、東京都出身。大学卒業後、広告代理店にて、新卒採用責任者、社長秘書などコーポレート業務を経験する。2010年、株式会社ケアサービスに入社。2019年から現職。一般社団法人日本在宅介護協会の監事も務める。
600名の採用目標を達成できた秘訣
ドットライングループは、千葉最大級の総合福祉医療企業として従業員1,100名以上、直営100事業所以上を展開しています。2022年の採用目標を600名と掲げ、早くも10月末に達成しました。
目標達成の要因のひとつとして、母集団形成が上手くいったことを垣本さんは挙げました。求職者の行動を、「知る→興味を持つ→調べる→応募する」と細分化、今年は「知る」が課題だと感じ、ドットライングループの認知度アップに力を注いだそうです。
母集団形成のために有効だったのは、介護業界への就職希望者以外にもターゲットを定めていたこと。ドットライングループは「地域の『困った』を『ありがとう』に変える」ために存在し、あくまで「介護は手段」だと強調しました。
母集団形成に成功した一方で、垣本さんは「誰でも採用するわけではない」と話します。通過率は10〜20%、業界平均と比べると、かなり厳しい採用基準を設けているといえます。採用が上手くいけば、評価や育成のコストも下がる。ゆえに人材マネジメントにおいて、入口である採用を、最重要と位置付けているのです。
採用のアウトソース=「罰金」を支払うこと
垣本さんは、「本来、自分たちで会社の魅力を伝えなければならない。それができずに人材紹介に費用をかけるのは、『罰金』を支払うのと一緒だ」といいます。逆に、自分たちで求職者に会社の魅力が伝えることができれば、応募も増え、採用コストも下がると垣本さんは考えているのです。
採用コストを下げる施策として、ドットライングループが力を入れているのはリファラル採用です。垣本さんが強調するのは、慢性的にやらないこと。欠員が発生したときなど、短期間集中型で社内メンバーからの人材紹介のキャンペーンを敷くのだそうです。
意外に見落としがちなのは、紹介する側、紹介される側のやりやすさです。人事に紹介するのか、直属の上司に伝えるのか、採用サイトの問い合わせページに連絡してもらうのか。ドットライングループではスタイリッシュな「紹介カード」を作るなど、応募の手間を極力排するような工夫を施しています。社員が、自分の周囲に声を掛けやすくなるようなデザインが不可欠なのです。
結果として、ドットライングループの採用単価は、業界平均をかなり下回る5〜10万円台(※職種によります)。「罰金」を支払いたくないという意識が、社内全体に浸透しているといえます。
採用数でなく、増員数が大事
1980年創業のケアサービスは、介護からエンゼルケア(逝去時ケア)を一貫して行うシニア向け総合サービス業を営んでいます。2004年に株式上場(現在は東証スタンダード)、2015年からは中国・上海でも事業を開始しました。
介護における経営課題は「人材」と言い切る福原さん。ドットライングループと同様、「自分たちがやれることは全部やる」と決めて、採用活動に取り組んでいるそうです。
福原さんが意識するのは、採用数ではなく、人員の「増員数」。「『採用数が200、退職者数が150』よりも『採用数が60、退職者数が10』の方が良い会社」だと捉え、採用だけでなく、人事制度、キャリアパス、教育・研修など、人材に関するグランドデザインを描くのが大事だといいます。
例えば、離職者との関わり合い。ケアサービスで働いた従業員が、ライフイベントなどのやむを得ない理由で離職するケースは毎年発生するといいます。ケアサービスでは、希望があれば、退職者にも社内報を送り続けるのだそう。ケアサービスとの関わりを継続し、復職の希望があれば、同じ給与で戻ることができるのです。(※面談による双方の合意がなされた場合)
採用に関わるのは「みんな」
採用の最前線に立ち、強いリーダーシップを発揮している垣本さん。しかし実際のところ、採用権限は事業部にあるのだそう。「僕の紹介でも、採用基準に合わなければ、事業部は不採用にするんです」と垣本さんは笑って話してくれました。
面接と採用可否は、事業部に一任。その代わり、採用を希望する事業部には採用基準や採用Q&Aを用意してもらいます。採用チームはあくまでサポート役。採用した事業部に責任を持たせることで、リーダーも組織も成長するという考え方なのです。
垣本さんがこだわるのは、「みんな」で採用すること。新卒採用も「みんな」を巻き込んで上で、新卒採用プロジェクトを立ち上げるのだそう。社員は、会社説明会や食事会にも積極的に顔を出し、ドットライングループの魅力を率先して伝えていきます。
巻き込むのは社員だけではありません。内定後の学生もアルバイトに誘い、内定者プロジェクトを立ち上げてもらいます。事業部で進めていたメディアの立ち上げに関わったり、ドットライングループのSWOT分析を行ない経営戦略を考えてもらったり。研修の枠を超えて、内定者全員に「自分が会社をつくっていく」という意識を高めてもらうのだといいます。
2023年春の入社予定者は60名で、内定辞退はゼロ。内定者辞退に悩む事業所にとって、「巻き込む」ことが解決策になるかもしれません。
人材課題=経営課題。だから経営者も、大学まで足を運ぶ
前職も含め、長年採用活動に取り組んできた福原さん。コロナ禍をきっかけに「潮目」の変化に気付いたといいます。「コロナ禍で若い世代が介護に興味を持ったが、外出制限が緩和されたことでインバウンドの仕事に興味が移っている」と、冷静に市況を分析します。
ケアサービスは、役員自らの主観に頼ることはありません。
「介護の経営者にとって、人材の課題と向き合うことは、経営課題と向き合うことと同じ」と話す福原さんは、そのための労を惜しみません。新卒採用では、役員は全国の高校を回り、学生の状況を直接ヒアリングします。福原さんもしばしば大学のキャリアセンターへ足を運び、自ら一次情報を得ようとします。
「自分で足を運ばないと、正確な情報は取れない」と断言する福原さん。他社からの二次情報は古く、正確とは言い切れない。上場企業の役員でさえ、「人事と採用にフルコミットしなければ生き残れない」と考えているのです。
採用は、試行錯誤の繰り返し
ふたりに共通していたのは、「採用にコミットする」という強い意思。決して自らを成功した企業だと見なしておらず、今なお試行錯誤を続けていると話していたのが印象的でした。
最後に、ふたりから参加者へメッセージが。
垣本さんのメッセージは「業界にとらわれず、採用を楽しもう!」というもの。介護業界として、自社の採用を考えると視野が狭くなるといいます。「介護以外の業界にも目を向ければ、ヒントはたくさんある。楽しいところに人は集まるから、楽しく採用活動をしましょう!」と力強く話してくれました。
福原さんは「1センチでも前に進めば、前進です」と、優しく参加者に語りかけます。成功事例を表面だけ真似てもダメで、まずは経営者が率先して試行錯誤を繰り返すことが大事。それがメンバーの模範になり、結果的に強い組織になって、社会の変化を乗り切ることができるのです。
1時間で様々なテーマが飛び交った今回のセミナー。ふたりのエッセンスをキャッチアップしながら、また登壇いただける機会を心待ちにしたいものです。