【よい組織づくりを考えるVol.2】人事制度は魔法の杖ではない。人事制度の本当の役割とは?
2024/09/27
人事制度は人材管理や人事評価だけでなく離職防止、ひいては組織づくりにもつながる制度です。うまく活用するためには人事制度そのものへの理解を深める必要があります。
そこで今回は、Blanketの人事コンサルタント2名に人事制度をつくる上で知ってほしいことや向き合い方について語ってもらいました。今回、次回と2回に分けてお届けします。
▶︎【介護・福祉のよい組織づくりを考えるVol.1】離職率の低減、早期離職防止に向けてできること
野沢 悠介
株式会社Blanket取締役、人事コンサルタント、国家資格キャリアコンサルタント、Career Development Adviser
介護事業会社で、採用担当・新卒採用チームリーダー・人財開発部長などを担当後、2017年より現職。介護・福祉領域の人材採用・人材開発を専門とし、介護・福祉事業者の採用・人事支援や、採用力向上のためのプログラム開発、研修講師などを中心に「いきいき働くことができる職場づくり」を進める。
成廣 香里
人事コンサルタント、国家資格キャリアコンサルタント、産業カウンセラー
学習院大学卒。東京出身。人事経験20年以上、上場企業から中小企業、外資系、オーナー企業等様々な企業での人事経験あり。採用・研修・人事制度設計から労務まで一連の人事実務全般の経験後、管理職として10年以上、外資系企業の日本法人では人事責任者として、また人事ビジネスパートナーとして経営層に対するアドバイザーの役割も長年担う。課題解決が強み。母親の介護に直面し、介護現場の人材不足、育成に課題を感じていた際にBlanketに出会い、自身の人事経験を活かした介護事業者の課題解決を実現すべく2023年7月に入社。
人事制度がなくてもモチベーションは上がる?それでも人事制度が必要な理由
―人事制度の整備は、離職防止においてどのような場面で有効なのでしょうか。
一定期間働いている人への離職防止に有効だと思います。なぜなら、人事制度とは組織で働き続けるための指針になるからです。組織が職員に何を求め、どういうことを評価してくれるのか。何をするとマイナスとみなされるのか。これらの基準や指針を明文化したものが人事制度です。
業界全体として人事制度がしっかりと定まっていなかったり、運用しきれていない事業所もあると思いますが、人事制度が整っていなくても職員が定着している事業所はあります。それが可能になるのは、人事制度に代わる指針がある場合です。
人事制度がなくても組織の方向性が明確で、それに対して自分も一緒に取り組もうと思えば人材は定着します。実際に私もそのような事業所を見てきました。
―人事制度が整備されていない事業所が多いということは、介護・福祉業界全体として評価されてもモチベーションにつながらない人が多いのでしょうか?
そうではないと思います。やはり自分の働きに対して良い評価をされればモチベーションにつながると思いますが、制度によるABCなどの評価付けに対してこだわらない人はいると思います。
なぜ評価制度に対してモチベートされないのかというと、考えられる理由は2つあります。1つ目は、評価されても報酬に反映されにくいこと。介護・福祉業界の売上構造上、人件費に回せる金額を大きく変えることが難しいことで、「評価の高い職員に、より高い報酬を支給する」といった評価制度による差分をつけることが難しいため、働く側も期待していないと考えられます。
2つ目は、働いている人のニーズに合っていない評価制度であること。この場合、制度以外の方法で評価してもよいと思いますね。例えば、サンクスカードのように他の職員から感謝や賞賛の声をもらうなど評価制度に限定する必要はないと思います。
介護・福祉業界には利用者やご家族、同僚からポジティブな声をもらうことでやりがいや意欲を感じる方が多いと感じます。
Blanketに入社する前は他業界で人事支援をしていましたが、「モチベーション=人事制度ありき」という傾向がありました。それに対してこの業界は、制度に限らずちゃんと自分を認めてくれれば満足する方が多い印象です。
評価のやり方は多様でよいと思います。他者からのポジティブなリアクションは励みになりますからね。ただ、組織の目標実現に向けて意欲的に働く人材に定着してほしいと考えるならば、その人たちに適した評価制度を整えることが重要です。
人事制度は「組織から働く人へのメッセージ」
―人事制度を導入してない事業所が導入しようと考えるのはどのようなタイミングなのでしょうか?
以前支援した事業所は既に人事制度を導入していましたが、既存の評価制度を続けても組織として停滞すると危機感をもっていました。評価に対して職員は満足している、でも意欲的に取り組もうとする姿勢がない。職員からすれば頑張っても頑張らなくても変わらない状況だったからです。このままでは組織が活性化しないため、職員が意欲をもって働けるようにメリハリある評価制度をつくりたいとご要望を頂きました。
離職防止でも話しましたが、人事制度も「誰に報いるのか」を考えることが必要だと思います。意欲がある人もそうでない人も同じ評価をするべきではないと思います。誰にも辞めてほしくないからと同じ評価をしていたら、やる気がある人が「きちんと評価してもらえていない」と辞めていってしまう。実際にそのような事業所は少なくないと思います。
まさにそうですね。先ほどの事業所に、人事制度を変えたら離職者が出る可能性もある、それでもやりますかと聞いたら「やる」と仰いました。組織としての方向性や目標を明確にすれば、報われる人も定めないといけません。
―お話を聞いていて、人事制度の導入は組織によって覚悟がいることなんだと思いました。
事業所の状況によっても変わってきます。お話した事業所は、職員の「このままの評価でいい」という意識を改革し、成長意欲を引き出すために人事制度を刷新したケースです。
人事制度は組織が目指す姿になるための指針であり、それを働く人に向けて伝えるメッセージだと思います。組織が目指す姿を実現するにはこういう役割を担う人が必要になる。そうなるために必要なスキルを習得したり、チャレンジしたりする人を正当に評価する。そうでない人の給与は変わらない、もしくは下がることもあると伝えるのが人事制度です。これらが曖昧だと、働く側も成長しようとは思えません。だから、人事制度で明文化する必要があります。
人事制度は全ての課題を解決する魔法の杖ではありません。組織が抱える課題によって人事制度に手を入れるのか入れないのかは変わってきます。先ほど成廣さんが話した事業所では、頭角を現す人に出てきてほしいのに出てこないという課題を解決する手段になりました。ただ、このケースのような環境になっている事業所では、人事制度の導入によって波風が立つこともあるでしょう。そう考えると、「人事制度=よい組織づくり」とは言えないんですよね。けれども、組織づくりにおいては有効だと言えます。
まとめ
人事制度とは、働く人にとって組織で働き続けるための指針になります。組織の理念や方向性に賛同し、これからも働き続けようと意欲のある人に対しては有効な離職防止策になります。人事制度以外の方法でも働く人のモチベーションは高められますが、人材定着の観点でみればしっかりと制度化することが欠かせません。
人事制度をつくる際には、どのような人を対象にするのかを明らかにすることが大切です。誰にも辞めてほしくないからといって全員に同じ評価をした結果、本当に働き続けてほしい人が離れてしまうことは少なくありません。だからこそ、「誰に報いるか」を考えることが必要です。
人事制度とは組織の在るべき姿への指針であり、それを働く人に伝えるメッセージと言えます。これを明確にすることで組織全体を良い方向に導き、働く人の成長意欲を高められます。
人事制度は全ての組織課題を解決するものではありませんが、課題によっては有効な解決策になり、組織の活性化につながるものと言えます。