義務化前に押さえておきたい!介護・福祉の小規模事業所で進めるストレスチェック導入の具体的ステップ
公開日:2025/12/15 更新日:2025/12/15
介護・福祉の人事・組織づくりを支援するコンサルタント・太田が、話題のニュースやトレンドから、現場で役立つヒントを読み解く連載コラム。今回の“ひとさじ”は、厚労省が発表した「小規模事業場向けのストレスチェック実施マニュアル(案)」をもとに、介護・福祉の小規模事業所が今からできる準備のポイントをまとめました。
厚生労働省が2025年11月に公表した最新の「小規模事業場ストレスチェック実施マニュアル(案)」により、労働者50人未満の事業所におけるストレスチェックの方向性が明確になりました。
施行は2025年5月14日の公布から3年以内とまだ時間はありますが、人手が限られる介護・福祉の小規模事業所は、早めに準備を進めておくことで後々の負担が軽くなります。
今回のマニュアル案では、小規模事業所の事情に配慮した工夫が多く盛り込まれており、制度対応だけでなく働きやすい環境を整えるきっかけにもなり得ます。
義務化の背景にある“小規模ならではのメンタルヘルス課題”
介護・福祉の小規模事業所では、少人数で専門的なケアを担うため、一人ひとりにかかる負担が大きくなりがちです。
特定の職員に業務が集中したり、休みが取りづらく疲れが蓄積したり、メンバーの入れ替わりが職場全体の雰囲気に影響したりと、日常の些細な変化がストレスにつながる要因になりやすい環境があります。また、管理者やリーダーが現場と運営を兼務していることも多く、相談しにくさが生まれやすい点も指摘されています。
こうした背景から、小規模事業所でも定期的にストレス状況を把握し、必要な支援や働き方の調整につなげる仕組みづくりが求められています。
マニュアル案で押さえておきたい3つのポイント
マニュアル案は「小規模でも無理なく取り組めること」を重視して作成されています。介護・福祉の現場でも役立つポイントを3つに整理しました。
1.プライバシーを守る仕組みが明確になっている
小規模事業所では、「誰が高ストレスなのか推測されてしまうのでは」という不安が職員の中に生まれやすいものです。
マニュアル案ではこうした懸念に配慮し、
・調査票の回収や結果通知は外部機関が行う
・個人結果は事業所に渡らない
・極端に人数が少ない場合の集団分析は控える
など、安心してストレスチェックを受けられる仕組みが丁寧に示されています。これにより、制度への信頼が高まり、職員が安心して参加できる土台づくりがしやすくなります。
2.外部機関との連携を前提に準備してよい
産業医や保健師が常駐していない事業所が多いことを踏まえ、外部の専門機関と協力して進めることが前提として示されています。
地域産業保健センターを活用すれば、小規模事業所であれば医師による面接指導を無料で受けられる仕組みがあるほか、民間EAP(従業員支援プログラム)や産業医のスポット契約など、選べる選択肢も幅広く示されています。
こうした外部資源を活用することで、事業所は負担を抱え込みすぎず、「環境改善」や「方針決定」に力を使いやすくなります。
3.小規模の実情に合わせたフォローで構わないと明記されている
面談勧奨や環境改善については、「事業所の状況に合わせて無理のない範囲で進めればよい」とされています。
必要な人に面談を案内し、結果を踏まえて働き方を調整するだけでも十分ですし、集団分析や日常の気づきをもとに小さな改善を重ねていくことも推奨されています。
完璧な体制を一気に整える必要はなく、事業所のペースで進められる柔軟さが確保されています。
介護・福祉の小規模事業所が今からできる準備
義務化に向けた準備を、働きやすい職場づくりの一部として捉えながら、現場で取り入れやすいポイントを整理します。
1.“外部の支援先”を早めに決めておく
ストレスチェック運用では、「どの外部機関と組むか」が非常に重要です。外部機関ごとに提供されるサービス内容が異なるため、早い段階で比較しておくと安心です。
たとえば、
・ストレスチェックの実施のみ依頼するのか
・集団分析や職場改善のアドバイスまで求めるのか
・医師による面談対応まで可能かどうか
といった点を確認し、自事業所に合うパートナーを選んでおくと準備が進めやすくなります。
2.職員へ“プライバシーの守られ方”を丁寧に伝える
「結果が管理者に見られるのでは」という不安は、ストレスチェックを受ける心理的ハードルを高めます。
そのため、
・個人結果は本人にのみ通知される
・管理者が個人結果を見ることはない
・面談の申し出により不利益が生じない
といったプライバシーへの配慮を事前に説明し、安心して参加できる雰囲気を作ることが大切です。
3.環境改善を“管理者だけで抱えない”仕組みをつくる
ストレスチェックは職場環境の改善までを含む取り組みですが、管理者ひとりで進めるのは大きな負担につながります。
そこで、
・月1回の短いミーティングで気になる点を共有する
・現場メンバーで小さな改善案を出す機会を設ける
・他法人の取り組みが学べる研修やセミナーに参加する
など、負担を分散しながら少しずつ環境を整えていく工夫が役立ちます。
ストレスチェックを、働きやすさの“土台”として活かす
介護・福祉の仕事は人との関わりが多く、職員の状態が働きやすさやサービスの質に影響しやすい側面があります。
だからこそ、ストレスチェックを義務として淡々と実施するのではなく、職員が自分の状態に気づくきっかけとなり、それが必要な支援につながりやすくなり、そして職場で気づきにくい課題を共有する機会として捉えていくことが大切です。
義務化までの期間を前向きに活用しながら、できるところから準備を進めてみてはいかがでしょうか。
参考:厚生労働省「ストレスチェック制度等のメンタルヘルス対策に関する検討会 第9回資料」
ストレスチェック義務化の詳細やストレス対策で必要な視点は、こちらの記事で解説しています。実施前にぜひ合わせてご覧ください。
