働く意識の変化から考える介護・福祉現場の「人が力を発揮できる職場づくり」
公開日:2026/01/26 更新日:2026/01/26
介護・福祉の人事・組織づくりを支援するコンサルタント・太田が、話題のニュースやトレンドから、現場で役立つヒントを読み解く連載コラム。今回の“ひとさじ”は、労働政策研究・研修機構(JILPT)の調査結果をもとに、働く意識の変化を踏まえた介護現場の人材戦略と職場づくりを考えます。
厚生労働省の要請を受け、労働政策研究・研修機構(JILPT)が実施した「働く意識の変化や新たなテクノロジーに応じた労働の質の向上に向けた人材戦略に関する調査」(※)では、近年の「働くこと」への意識の変化と、それに応じた企業の雇用管理のあり方について、企業・労働者の双方から調査・分析が行われました。
若者、女性、高齢者といった多様な層の意識変化に加え、AIなどの新たなテクノロジーをどのように活用できるかという視点も含め、「労働の質」を高めるための人材戦略が整理されています。
介護・福祉の分野でも、人材不足への対応は引き続き大きなテーマです。ただ近年は、どれだけ人を集められるか以上に、採用した人が現場で力を発揮し、安心して働き続けられるかという点に注目が集まっています。
今回の調査結果は、そうした現場の悩みや課題を整理し、これからの方向性を考えるうえで、多くのヒントを含んだ内容といえそうです。
出典:労働政策研究・研修機構(JILPT) 調査シリーズNo.261「働く意識の変化や新たなテクノロジーに応じた労働の質の向上に向けた人材戦略に関する調査(企業調査・労働者調査)」
働く意識は「条件」だけでなく「日々の実感」へ
調査結果からは、働く人が仕事に求めるものが、賃金や雇用の安定といった条件面だけに限られなくなってきている様子がうかがえます。
どんな条件で働くかに加えて、日々どんな気持ちで仕事に向き合えているかが、仕事を続けるかどうかの判断に影響する場面が増えているようです。
たとえば、自分の役割や期待されていることをきちんと理解できているか、周囲と協力しながら安心して仕事に取り組めているか、そして無理のないペースで働けていると感じられるかといった点が、働き続けるうえでの大切な要素になっています。
介護・福祉の仕事は、人との関わりの中でやりがいや達成感を得やすい一方、忙しさや責任の重さから心身の負担を感じやすい仕事でもあります。
だからこそ、日々の仕事に納得感を持てているか、安心して働けているかといった視点に目を向けた職場づくりが、これまで以上に重要になってきています。
人材不足時代に必要な「力を引き出す雇用管理」

さらに、人材不足への対応として、採用人数を増やすことだけでなく、「人が能力を発揮しやすい雇用管理」が欠かせないことも繰り返し示されています。
人が集まっても、現場で力を出し切れなければ、業務や責任が一部の職員に集中しやすくなり、結果として現場全体の負担感が高まってしまいます。
調査で示されている視点を整理すると、次のような点が挙げられます。
・業務の進め方や役割分担が分かりやすく整理されているか
・学び直しやスキルアップの機会が用意されているか
・働き方に一定の柔軟性があり、無理が生じにくいか
介護・福祉の現場では、人手不足が続くことで業務に追われやすく、育成やフォローに十分な時間を確保しにくい状況が生まれがちです。
一方で、業務を整理したり、情報共有の方法を工夫したりすることで、限られた人数でも現場が回りやすくなり、人が育つ余地を生み出している事業所も見られます。
多様な人材が無理なく力を発揮するために
また、若者、女性、高齢者など、多様な人材がそれぞれの事情に応じて働き続けられる環境づくりの重要性も指摘されています。画一的な働き方ではなく、個々の状況に配慮した関わり方が、結果として組織全体の安定につながるという考え方です。
介護・福祉の現場には、未経験からスタートする人、子育てや家族の介護と両立しながら働く人、長年の経験を活かして現場を支えるベテラン職員など、さまざまな背景を持つ職員がいます。
業務を一律に任せるのではなく、段階的に覚えられる工夫をしたり、困ったときに声をかけやすい雰囲気をつくったり、得意分野を活かせる役割を用意したりすることが、職員が安心して働ける環境づくりにつながっていきます。
テクノロジーは「置き換え」ではなく「支え」として
AIなどの新たなテクノロジーについては、人を置き換えるものではなく、人の能力発揮を支える手段として活用する視点が示されています。つまり、テクノロジーは人の仕事を奪う存在ではなく、現場を下支えする補助的な役割として捉える考え方です。
介護・福祉分野でも、記録業務の効率化や情報共有の円滑化、研修や学習機会の補完など、日々の仕事を進めやすくする手段としての選択肢が増えています。
新しいツールを導入すること自体を目的にするのではなく、現場の困りごとに照らしながら、本当に役立つ部分から少しずつ取り入れていく姿勢が大切になります。
介護・福祉現場に求められる人材戦略とは
今回の調査を通じて見えてくるのは、人材戦略とは特別な制度を新しく作ることではなく、「日々の働き方をどう整えるか」を積み重ねていくことだ、という点です。
介護・福祉の現場に引き寄せて考えると、次のような視点がより重要になってきます。
・職員が安心して意見や気づきを伝えられる環境があるか
・学びや成長を実感できる場や機会が用意されているか
・無理なく働き続けられる工夫が、日常の運営に組み込まれているか
人材不足が続くなかだからこそ、「辞めにくい」「力を発揮しやすい」職場づくりは、採用活動以上に大きな意味を持つテーマになっていくのかもしれません。
日々の現場から「労働の質」を考える
働く意識の変化は、特定の世代だけの話ではなく、現場で働く一人ひとりに共通するテーマになりつつあります。
制度やテクノロジーをどう使うかを考える前に、日々の仕事の進め方や関わり方を見直すことが、労働の質を高める出発点になります。
今回の調査結果をヒントに、自分たちの現場ではどんな工夫ができそうか。忙しい日常の中でも、そんな視点で立ち止まって考えてみることが、これからの職場づくりにつながっていくのではないでしょうか。
