「慶友らしさ」を貫く発信が、職員の誇りを育てる。青梅慶友病院に根付く広報の軸
公開日:2026/02/12 更新日:2026/02/12
「豊かな最晩年をつくる」という理念のもと、医療・介護・生活が一体となった高齢者のための療養型病院として45年にわたりケアを行ってきた、東京都青梅市の医療法人社団 慶成会 青梅慶友病院(以下、青梅慶友病院)。
同院の「病院の日常を伝える」をコンセプトにした広報活動はいま、SNSなどを通じて「現場のリアルな空気感と居心地の良さが伝わる」と同業者からも多くの共感を集めています。そして、広報活動は外に向けてだけでなく、職員の誇りを育み、良き人材の採用や職員の定着という好循環も生み出しています。
人生の最晩年に寄り添う病院の広報として、病院の日常に宿る価値をどのように伝えているのか。今回は、青梅慶友病院理事長室PRチーム課長であり広報戦略を担う、松野俊太郎さんにKAIGO HR FARMを運営する株式会社Blanketの大坪がお話を伺いました。

医療法人社団 慶成会 青梅慶友病院
理事長室PRチーム課長 松野俊太郎
愛知県出身。大学卒業後、(株)エイチ・アイ・エスに入社。海外旅行事業に6年携わった後、2007年より大学職員として(学)順天堂入職。大学附属病院の管理部門にて病院運営、JCI認証の取得プロジェクトなどに関わる。ある時、見学のために慶友病院を訪れる機会があり、ここで働く職員の穏やかで明るい雰囲気に魅かれ、2016年より青梅慶友病院へ。現在はSNSなどを活用したWEB上での情報発信及び新卒採用などを担当。
「尊厳ある最晩年」を過ごせるように。医療療養型病院設立の原点
大坪: まずは、青梅慶友病院について教えてください。
松野さん: 青梅慶友病院は、高齢者のための療養型病院です。患者様の平均年齢は90歳を超えており、治療することだけを目的とした一般的な病院とは異なります。この場所で医療や介護のサポートを受けながら、「尊厳ある最晩年」を過ごせるよう生活全般を支えています。退院期限も設けていないため、この病院で人生最後の日まで過ごされる患者様が多いです。

大坪:どのような経緯で病院が設立することになったのですか。
松野さん:現会長であり創設者の大塚宣夫が、1974年に親友から「寝たきりの祖母を預けられる病院がなくて困っている」と相談を受けたことがきっかけです。その後、親友と一緒にさまざまな老人病院を訪問、見学しました。しかし、残念なことに目の当たりにしたのは、当時の老人病院の悲惨な状況でした。
大塚はその出来事をきっかけに一念発起し、「自分の親を安心して預けられる場所をつくる」という思いのもと、青梅慶友病院を1980年に開院しました。
「病院じゃないみたい」。空気感と居心地の良さを届ける情報発信
大坪:青梅慶友病院では、日常を切り取ったような院内の様子や職員の皆さんの思いをSNSを活用して積極的に発信されていますが、SNSを始めたきっかけは何だったのでしょうか。
松野さん:青梅慶友病院へ見学に来た方から「先入観が覆った」「病院じゃないみたいだ」と驚かれることが多くあります。
病院のホームページ上に言葉や写真をどれだけ掲載しても、この病院で流れている空気感や居心地のようなものは実際に見学していただかないと、なかなかうまく伝わらず、もどかしさを感じていました。
ですが、動画だったら当院のよりリアルな雰囲気を伝えられるのではないかと思い、約2年くらい前からショート動画での発信を始めたんです。

大坪:丁寧な雰囲気の動画からは、松野さんがおっしゃった空気感や居心地のようなものが感じられます。動画とは別にnoteでは職員のインタビュー記事を掲載し、発信されていますよね。プラットフォームのすみ分けも意識されているのですか。
松野さん:そうですね。noteは採用を意識した使い方をしています。もともと青梅慶友病院は口コミを通じて職員が増えてきた組織です。口コミの良いところは、青梅慶友病院の文化を知っている人が「この人ならこの病院と合う」と紹介してくださるので、ミスマッチが少ないんですよ。ですが、その口コミの数にも限界がありますよね。
そこで、紹介者にあたる「語り手」のようなものをnote上に作れないかと考えるようになりました。
就職サイトやホームページの採用情報はどうしても条件面が強調されて、フォーマルな色合いが強くなります。なので、noteにおいては、インタビューを受けてくれる職員に、PRとは考えず自分の知り合いに対してこの病院について語っているような感じでウラオモテなく答えてほしいとお願いしています。
比較的短期間で流れていく動画とは違い、2年前に掲載したインタビュー記事が今でもコンスタントに読まれているので、テキストコンテンツの賞味期限の長さを感じています。

SNSの“正解”は追わない。コンセプトは「病院の日常を伝える」こと
大坪:そのようなSNSの発信からは、青梅慶友病院の普段の様子や働く職員の皆さんの「顔」がきちんと見えて、「人」を大切にされている姿勢が伝わってきます。
松野さん:私たちのアカウントは「病院の日常を伝える」ことを目的にしています。特に「人」は青梅慶友病院の日常風景として重要な要素だと感じているので、人や顔は隠さず、ありのままを撮影しようと思いました。
実際、病院を見学された方によく言われるのは、まさに職員や患者様などの「人」のことなんです。落ち着いていて笑顔のやさしい職員と穏やかな表情で過ごされている患者様の様子に驚かれる方がとても多いんですよ。

大坪:動画内で人や顔にモザイクをかけないということですが、自分の姿を映し出されることに抵抗を感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
松野さん:もちろんプライバシーへの配慮が必要ですし、職員や患者様問わず映されること自体に抵抗を感じる方もいらっしゃいます。簡単なことではありませんでしたが、動画の制作と発信を始めるにあたっては、きちんと説明した上で運用を始めました。
映してほしくないとお申し出のあった方は撮影を控え、また、公開前には、撮影に関係している部署の職員やはっきりと出演されている患者様の場合は、ご本人やご家族様に確認をとった上で公開しています。

大坪:きちんと理解いただいた上で手順を踏み発信されているのですね。病院の日常にフォーカスし、「おいしい病院」や「季節を楽しむ病院」などテーマを決めて投稿されていますが、投稿内容はどのように決めているのですか。
松野さん:私を含めてPRチーム3人で定期的にミーティングをして、アイデアを出し合っています。
動画制作にあたっては、企画からコンテンツづくりまで私が担当していますが、動画の編集作業や動画に付ける音源のセレクトは、プロである外部のクリエイティブディレクターに協力してもらっています。
発信前には、PRチームで内容を確認するためのチェックシートがあるので、「青梅慶友病院のアカウントの趣旨に合っているか」という視点で完成した動画を見るようにしています。

先ほどもお伝えしたように、病院の日常や実際に訪れたような雰囲気を投稿を通じて伝えることが動画の役割です。
ですので、動画に流行りの音楽を付けることもしませんし、よくSNS上で見受けられる「バズるためのノウハウ」や「正解」とされる情報をもとに数字を追ったり、奇抜なテーマや内容で気を引いたりして、話題になるような企画は、発信を始めた当初からやらないようにしようと決めていました。
大坪:すぐ結果を出そうとしたり、話題性を重視したりしてしまう中で、ぶれない軸をお持ちだと思いました。
松野さん:ありがとうございます。チェックシート内にもあるのですが「慶友らしいかどうか」から乖離(かいり)しないことを軸にしています。
青梅慶友病院を昔から知ってる人が動画を見たときに違和感がないことや、SNSの投稿を見て求人に応募してくれた人が「あれ、なんか実際と違う」というギャップを感じないことが大切ですね。
視聴者からの共感の声が、職員の誇りになる
大坪:継続的に発信を続けてきたことで、院内の変化や反応などはありましたか。
松野さん:最初のころは、SNSの活動が十分に理解されていなかったので、撮影や掲載の承諾をいただくことそのものに苦労していました。しかし、投稿を積み重ねてアカウントが育ち、視聴回数やフォロワーが増えていきました。そうなるにつれて、現場の協力体制も変わっていき、今では撮影に快く協力してくれる職員が増えています。その理由は、多く寄せられている好意的なコメントの存在が大きいと思います。
特に医療や介護の仕事をしている同業者からの「本当はこういうケアがしたい」「こんな場所で働きたかった」などの共感の声がほとんどだったんです。
実際にそのコメントを目にした職員からは、「改めて自分たちの仕事に誇りを持てるようになった」という反応がありましたね。

大坪:インナーブランディングの効果も大きそうですね。
松野さん:そうだと思います。共感の声によって職員自身が誇りや自信が持てることもそうですし、動画に映る仲間の姿を見て良い刺激も受けているようです。
また、動画に映り込んだ自分の様子を第三者的に見ることで「もう少し姿勢を良くしよう」とか「丁寧に声をかけよう」といったように、振り返りの機会にもなっています。
広報担当としての手ごたえは、先ほどお伝えしたように、撮影に協力的な職員が増えたこと。たとえば、職員の方から「これから患者様の病室でラーメンを作るので撮影に来ませんか」などの提案を受けることも増えました。そういった現場からのお誘いにはできるだけ応えるようにしています。
一本の動画がきっかけとなって、過去の動画も視聴回数が伸び、共感的なコメントをいただける。これはまさに、SNSならではの好循環だと思います。

大坪:発信を通じて、共感的なコメントをいただき、そこから職員の皆さんの意識まで変化するのは、素晴らしい成果ですね。
松野さん:ありがとうございます。青梅慶友病院にはもともと、自分たちの手で環境を整えるという文化も根付いてます。病院の敷地内にある遊歩公園の手入れや院内の清掃も外部業者への委託ではなく、担当部署があり病院職員として行っています。自分たちの病院は自分たちの手できれいにするという当事者意識を共通認識として持っています。
大坪:自分たちが理想とする環境を作るために、言葉だけでなく、徹底して行動されていると感じます。
松野さん:こうした一貫した姿勢が結果として「慶友らしさ」という空気感を自然と作り上げているのだと思います。

一貫した組織の文化づくりが、ミスマッチの少ない職員採用へ
大坪: 職員の皆さんが青梅慶友病院で働いていることに誇りを持っていることが、外向けの魅力として伝わり、採用にも良い影響を与えているように感じました。
松野さん: 職員自身が「自分たちはこうありたい」「うちの病院はここが良い」と自分の言葉で語れるようになることが理想です。そして、自分たちのケアに誇りを持つことが、結果として患者様へのサービスの質をさらに高めるという良い循環が生まれるのだと思います。

理事長への直通便には、患者様やご家族様はもちろん、職員からの声も寄せられる。青梅慶友病院では、こうした声を大切に受け止める姿勢が日常に根付いている
幸い、私たちの病院には自然と自分たちの病院の魅力や理想像を自ら語れる職員が多くいます。勤続年数の長いベテランの職員も多く、職員自身が青梅慶友病院を大切に思う、いわば「慶友ファン」なんです。各部署にそうした職員がいることで、新しく入職した職員に対して、「うちの病院はこういうところが良い」と主体的に伝えてくれています。
大坪:職員の皆さんが青梅慶友病院を大切に思い、次世代へ語り継いでいけるのは、病院も同じように職員を家族のように大切に思っているからではないでしょうか。
松野さん:まさにそうなんです。その思いを象徴する習慣の一つが、理事長から全職員への誕生日の贈り物です。毎年必ず一人ひとりにバラの花束とケーキが贈られます。こうした温かな関わりがあるからこそ、職員もこの病院のために頑張ってくれますし、長く働いて「慶友らしさ」を伝えてくれるのだと思います。

また、青梅慶友病院には、親子や親戚、夫婦で働いている職員が多いのも特徴ですね。身近な人に「良い職場だよ」と勧められるのは、職員の満足度の高さの表れだと思います。身内からの紹介だからこそ、入職後のミスマッチも少なく、高い定着率につながっています。
理念に沿った組織の文化づくりと、それを丁寧に発信し続けることが、結果として少しずつ良い採用の循環を生んでいるのだと思います。
大坪:目立つ施策が一つあるというよりも、そうした日々の小さな取り組みを大切にし続けてきたことが、組織の文化として根づき、採用にも好影響を与えているということなんですね。
松野さん:ご紹介したのは一例で、当院では、職員が安心して長く働けるように、日々さまざまな工夫を重ねています。一つ一つは決して特別なことではなく、「それくらい?」と思われるような小さなことばかりかもしれません。
それでも、そうした小さな積み重ねを大切にする姿勢そのものが、職員を大切にする文化につながり、その結果が定着率や紹介入職の多さに表れているのではないかと感じています。

正解は一つではない。自分たちの「キャラクター」にあった工夫を
大坪:青梅慶友病院の職員の誇りを育む一環した姿勢や軸、それを伝える広報の取り組みは、同じ業界の皆様にとってまさに理想的な姿だと思います。広報活動や職員の採用・定着に悩む他の施設に対して、これまでのご経験からどんなことを伝えられると思いますか。
松野さん:私たちが一貫して「慶友らしさ」を軸とした発信を続けているように、それぞれの病院や施設にも「キャラクター」があると思います。SNSにおける一般的な成功例や正解を追いかけるのではなく、PR方法も、コンテンツの中身もバラエティに富んだもので良いのではないでしょうか。
青梅慶友病院の場合、その一つが「普段は見ることができない現場の裏側」でした。こうした発信が「見たかった」と待ち望んでいた方々に届き、青梅慶友病院のファンが増えていくことを実感しました。

松野さん:実は先日、CBnewsが主催する2025年「病院広報アワード」のSNS部門で優秀賞をいただきました。そこで印象に残ったのが、他の受賞された病院も、自分たちに合った最適な方法で発信の工夫をされていたことでした。
マルチに媒体を使い分ける法人もあれば、あえて紙媒体にこだわるところもあります。つまり大切なのは、周囲に流されて「なんとなく」始めるのではなく、自分たちのキャラクターを理解し、それに合った方法で発信し伝え続けることです。
日常を切り取った自然な発信は、職員一人ひとりを大切にする日々の積み重ねがあってこそ生まれるものです。職員の誇りにつながり、その前向きな姿勢が外部への共感として広がっていく。職員を大切にする組織のあり方そのものが、結果として良い採用にも結びついていくのだと感じています。
(文/谷部文香、編集/Ayaka Toba)
青梅慶友病院について
医療法人社団 慶成会 青梅慶友病院
所在地:東京都青梅市大門1丁目681番地
URL:https://www.keiyu-hp.or.jp/
Instagram:@ome_keiyu
note:https://note.com/omekeiyu
1980年(昭和55年)に開院された医療法人社団。生活・医療・介護が一体となった高齢者のための療養型病院として開院以来、「自分の親を安心して預けられる施設」の実現を目指す。近年は「病院の日常を伝える」ことをコンセプトにしたSNSでの動画発信などに力を入れており、一貫したその姿勢が多くの「慶友ファン」を生み、職員の新規採用・定着にもつながっている。