介護業界は人手不足?原因と課題、解決策を事例とともに解説
2023/05/17
日本では現在、介護業界の慢性的な人手不足が問題となっています。
そこでこの記事では、介護業界の人手不足における背景と現状、課題について紹介するとともに、介護業界で人材を確保するうえでの重要ポイントを解説します。
また、介護業界における人手不足の解決事例についてもまとめていますので、ぜひ最後までお読みください。
介護業界の人手不足の背景と現状
介護業界は現在、深刻な人手不足に陥っており、労働環境の悪化やサービスの低下などが危惧されています。
ここでは、なぜ介護業界の人手不足が深刻化しているのか、その背景や現状について見ていきましょう。
介護業界における人手不足の背景
内閣府が公表した「令和4年版高齢社会白書」によると、2021年の総人口における65歳以上の高齢者の人口が占める割合「高齢化率」は28.9%でした。
・2018年の高齢化率:28.1%
・2019年の高齢化率:28.4%
・2020年の高齢化率:28.8%
・2021年の高齢化率:28.9%
人口で見ると、2021年の総人口1億2,550万人に対し、65歳以上は3,621万人です。一方、2020年は、総人口1億2,571万人に対し、65歳以上が3,619万人でした。
つまり、日本の総人口は減っている一方で65歳以上の人口は増えていることが分かります。
また、2015年には約100万人を超えていた出生数が、6年後の2021年には約81万人と約19万人も減少しています。
このように、介護業界における人手不足には、少子化によって労働力が減る半面、高齢化によって介護需要が増え続けている背景があります。
介護業界における人手不足の現状
公共財団法人 介護労働安定センターが実施した「令和3年度 介護労働実態調査」では、介護サービスを提供する事業所が、人手不足を感じる割合を調査した結果を公表しています。
この調査結果によると、事業所が人手不足を感じている割合は、2018年が67.2%、2020年には60.8%まで下がったものの、2021年に63.0%と再び増えています。
職種別では、特に人材不足を実感している割合が多いのが「訪問介護員」となっており、2021年は80.6%もの高い割合の方が人材不足だと感じている結果となりました。
また同調査で、現場で働く従業員が抱える労働条件や仕事の悩みについては、「人手が足りない」と回答した方が最も多く、全体の52.3%でした。
続いて、「仕事の割に賃金が安い」が全体の38.3%だったため、現場では賃金の安さよりも人手不足に悩みを抱く方が多いことが分かる結果でした。
介護業界の人手が不足する原因
人手不足の原因は、少子高齢化の他にも以下のような点があげられます。
・競争倍率が高い
・介護・福祉の仕事のマイナスイメージ
・採用スキルの不足
競争倍率が高い
日本では現在、介護・福祉サービスの需要が増えているのに対し、人材確保のスピードが追いついていません。
その原因は、高い競争倍率にあります。
生産年齢人口の減少にともない求職者の需要が高い売り手市場では、全産業で採用活動が活発化しているため、介護・福祉業界への人材流入が少ない実情があります。
さらに、介護・福祉業界の人材確保を困難にしているのが、同業他社との人材獲得競争です。
「令和2年度 介護労働実態調査」では、人材が不足している原因として、「同業他社との人材獲得競争が厳しい」と回答した介護サービス提供事業者が53.1%と半数以上にものぼりました。
介護業界各社で人材獲得競争が激しくなっていることにより、希望する人材の確保が十分にできていない現状が分かります。
介護・福祉の仕事のマイナスイメージ
株式会社リクルートキャリアが行うプロジェクト「HELPMAN JAPAN」によるアンケート調査によると、介護職非従事者が介護業界への就業をためらう理由で多くを占めたのが以下の3つでした。
- 体力的にきつい仕事の多い業界だと思うから 49.8%
- 精神的にきつい仕事の多い業界だと思うから 41.8%
- 給与水準が低めの業界だと思うから 31.2%
このように、介護職非従事者は、「福祉・介護の仕事は肉体的または精神的負担が大きい割に給与が低い」といったイメージを抱いていることが分かります。
そのため、就職を検討する学生や、異業種からの転職を希望する人材は、マイナスイメージによって介護業界を避ける傾向にあることも、人手不足を招く要因の一つといえるでしょう。
採用スキルの不足
人材獲得競争が激化していく中において、採用側にも対応力が求められます。
しかし、慢性的な人手不足に陥っている介護業界では、専任の採用担当者がいないなど、戦略的かつ効果的な人材獲得に向けた活動を行うのが難しい状況にあります。
また、採用に手が回らないことによって人手不足が解消できず、介護従事者の負担が増えて離職率が高まり、さらに負担が増す負のスパイラルに陥るケースも少なくありません。
採用のノウハウを蓄積する余裕がないことによって、採用に力を入れている同業他社や他業界に人材が流出してしまった結果、人手不足を招いてしまったといえるでしょう。
介護業界の今後
介護業界には解決すべき課題があるものの、実は将来性にあふれている業界です。
少子高齢化社会がすすむ中、介護市場は今後も需要が増え続け、市場規模が拡大していくと予想されています。
ここでは、介護業界の今後についてポイントになる点を解説します。
社会から需要が増し、より人材獲得競争が厳しく
「2025年問題」としても取り上げられているように、2025年には65歳以上の人口が3,677万人に達する見通しです。
さらに、2065年には国民の約2.6人に1人が65歳以上の者となると見られており、高齢化社会は今後ますます加速していくと予想されます。
また、厚生労働省による2021年の公表データでは、2019年の介護職員の実態が約211万人に対し、2025年には約243万人の需要が見込まれているため、実態とは約32万人のギャップがあります。
さらに、2040年には約280万人の介護職員が必要とされているのに対し、約69万人ものギャップが発生します。
このように、多くの事業所で介護人材が必要となっているにもかかわらず、有効求人倍率は他職種と比べると高い水準となっており、2023年2月の介護サービス職の有効求人倍率は3.21倍でした(パートを除く)。
求人数が多く就職しやすい状況にもかかわらず、介護職への求職者が増えないという「需給ギャップ」により、競合他社との人材獲得競争もさらに激しくなっています。
需給ギャップを埋めるために、国では「社会福祉法等の一部を改正する法律案」による制度的対応や、都道府県が地域医療介護総合確保基金を活用して実施する取り組みをまとめるなど、2025年問題に対する施策をはじめています。
今後も人材不足解消のため、介護業界のイメージを改善し、離職率低下につながる施策が積極的に行われていくことが予想されます。
多様な人材の受け入れと働き方に柔軟な対応が求められる
政府は人手不足を解消するため、多様な人材の受け入れや、柔軟な働き方への取り組みをはじめています。
まず、多様な人材の受け入れとして、介護現場に外国人労働者を積極的に受け入れることを推奨しています。
2017年、外国人技能実習制度に介護職種が加わり、さらに2019年4月には、就労を目的とした新たな在留資格である「特定技能」が創設されたことで、介護分野において外国人労働者の受け入れがしやすくなりました。
さらに、多様な働き方や柔軟な勤務形態を導入する動きも見られます。
例えば、午前や午後、夜間といった時間帯のみ働いたり、兼業や副業で隙間時間に働いたり、希望する曜日だけ働いたりなど、柔軟な働き方の導入がすすめられています。
多様な働き方が選択できることは、介護職員のワークライフバランスを整えるだけでなく、精神面、身体面に余裕が生まれることで、利用者のケアに関してもよい影響をもたらす可能性があるでしょう。
ただし、多様な働き方を取り入れるには、各施設で具体的にどのような取り組みを必要としているのかを整理することが大切です。
現状の課題や職員の悩みを整理し、それらを改善するためにはどのような対策が有効なのかを改めて検討しましょう。
介護職の離職率は低下傾向にある
人材不足に対する政府や事業所の取り組みにより、介護職の離職率は低下傾向にあります。
「令和3年度介護労働実態調査」によると、2021年の訪問介護員、介護職員の離職率は14.3%でした。
2007年の離職率は21.6%でしたが、それ以降は低下傾向にあり、2021年は過去10年で最も低い離職率となっています。
介護事業所間の格差
「介護職の離職率は低下傾向にある」と前述しましたが、一方で、職場環境の改善に取り組んだ事業所と、そうでない事業所で格差が発生しています。
厚生労働省では、2022年2月から9月までの間、収入を3%程度(月額9,000円相当)引き上げるための措置を取りましたが、対象となった施設の約4分の1が制度を活用せずに終わっていたことが、調査によって分かりました。
特に、小規模な施設で制度を活用できていない傾向にあることから、今後は離職率改善のための対策が取れていない小規模施設を中心に、具体的な指導などを行っていくことが求められます。
介護業界で人材を確保するうえで重要なポイント
続いて、介護業界で人材を確保するうえでの重要ポイントを解説します。
・採用活動の目的とゴールを明確にする
・採用したいターゲットを定める
・採用市場の動向やトレンドを読む
採用活動の目的とゴールを明確にする
採用活動をはじめる前に、まずは採用活動の「目的」を明確化しましょう。
「何のために採用をするのか」「採用することで、どのような目標を達成したいのか」など具体的なゴールを決め、今だけではなく、5年後10年後など、中長期的な計画を立てることが大切です。
採用したいターゲットを定める
目的とゴールを明確にした後は、具体的にどのような人材を採用したいのかを考えます。
「明るく元気な人」といった漠然としたものではなく、求める人材のスキルや経験など、より詳細なターゲット像を考えることが大切です。
具体的な人物像が決まったら、採用するためにどのようなアプローチ方法が効果的なのかを考え、自社の魅力を求職者に届けられる方法について検討しましょう。
採用市場の動向やトレンドを読む
売り手市場における人材確保には、「どのような採用手法が多いのか」など、時代の流れを読むことも重要です。
採用の方法には、求人サイトや人材紹介会社などがありますが、それぞれに強み・弱みがあるため、自社の予算も考えながら、慎重に検討してください。
また、費用対効果が低いと感じる時は、別の方法に変更するなど、効果検証することも忘れないようにしましょう。
なお、採用市場の動向やトレンドだけでなく、自社に合った採用方法を検討していくことも大切なポイントです。
介護業界の人手不足を解消できた事例
深刻な人手不足の中でも課題と向き合いながら、独自の取り組みによって人材を獲得している事業所もあります。
ここでは、介護・福祉事業者向けの採用・人材育成支援事業を行う、株式会社Blanketによる人手不足解消の成功事例について紹介します。
有限会社ダイケイ様【人材紹介・派遣利用ゼロ!】
有限会社ダイケイ様では、専任の採用担当者がおらず、代表一人で採用を担当されていました。
そこで、株式会社Blanketでは、採用チームを新設するとともに、採用活動についてレクチャーを実施。
また、並行して採用サイトのデザインを生かしたまま、導線設計や求人情報を充実させることに加え、SNS運用体制の構築にも着手しました。
その結果、応募が増加し、人材紹介・派遣利用がゼロとなりました。
さらに、新たな人事制度の構築を支援し、わずか2年間で38%あった離職率を10%に下げることに成功しました。
社会福祉法人ケアネット様【採用コンセプトに即した活動】
社会福祉法人ケアネット様が運営する特別養護老人ホーム「さくらほうむ」は、東京都世田谷区にあります。
世田谷区では、介護人材の有効求人倍率が8倍を超えるほど、人材が集まりにくいエリアです。
2020年1月、事業所の開設に向けてオープニングスタッフを募集した際は、採用激戦区でも求職者に選んでもらえるための採用コンセプトメッセージを作成し、専用の特設採用サイトも制作しました。
採用サイトでは、「わたしたちがつくるのは、日本一居心地のよい住まいです」というコンセプトメッセージとともに、利用者と職員の笑顔あふれる写真を掲載。
採用活動全体を通したメッセージを一貫して伝える活動を展開し、認知度が拡大していきました。
その結果、採用激戦区にもかかわらず求職者から多くの応募があり、開設に必要なオープニングスタッフの確保に成功しました。
介護業界に特化した人事支援サービスを利用する
介護業界は、深刻な人手不足を抱える一方、今後も需要が増え続けることで市場拡大が見込まれる業界です。
しかし、企業の採用スキル不足や人材確保競争の激化などにより、思ったように採用活動がすすまない企業も増えています。
介護人員の採用に課題を抱えている企業は、人事支援サービスを利用するのも選択肢の一つです。
介護業界に特化した人事支援サービスを展開する株式会社Blanketでは、慢性的な人手不足を解消するためのさまざまなサポートを行っています。
介護・福祉業界に特化したコンサルタントが、事業所のお悩みや困りごとを分析し、課題をともに解決します。
介護人材の確保や育成にお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。