【よい組織づくりを考えるVol.3】人事制度は導入してからが本番。運用してから意識してほしいこと
2024/10/04
人事制度は組織づくりに有効なものですが、効果的に運用するためには運用する側の心持ちが非常に重要です。心持ちによって組織に及ぼす影響も変わってきます。
前回に引き続き、Blanketの人事コンサルタント2名に人事制度について語ってもらいました。人事制度を効果的に運用するためのポイントをご紹介します。
▶︎【介護・福祉のよい組織づくりを考えるVol.1】離職率の低減、早期離職防止に向けてできること
▶︎【よい組織づくりを考えるVol.2】人事制度は魔法の杖ではない。人事制度の本当の役割とは?
野沢 悠介
株式会社Blanket取締役、人事コンサルタント、国家資格キャリアコンサルタント、Career Development Adviser
介護事業会社で、採用担当・新卒採用チームリーダー・人財開発部長などを担当後、2017年より現職。介護・福祉領域の人材採用・人材開発を専門とし、介護・福祉事業者の採用・人事支援や、採用力向上のためのプログラム開発、研修講師などを中心に「いきいき働くことができる職場づくり」を進める。
成廣 香里
人事コンサルタント、国家資格キャリアコンサルタント、産業カウンセラー
学習院大学卒。東京出身。人事経験20年以上、上場企業から中小企業、外資系、オーナー企業等様々な企業での人事経験あり。採用・研修・人事制度設計から労務まで一連の人事実務全般の経験後、管理職として10年以上、外資系企業の日本法人では人事責任者として、また人事ビジネスパートナーとして経営層に対するアドバイザーの役割も長年担う。課題解決が強み。母親の介護に直面し、介護現場の人材不足、育成に課題を感じていた際にBlanketに出会い、自身の人事経験を活かした介護事業者の課題解決を実現すべく2023年7月に入社。
人事制度の運用には「自分たちで回していく」という意識が必要
―人事制度以外のご依頼でも人事制度の見直しを提案することはあるのでしょうか?
例えば、リーダー人材の育成のご相談を受けたときです。人事制度は働く人に向けて組織の目指す姿を示し、それに向けて励む人をより評価すると伝えるもの。働く人の成長意欲を引き出すものでもあります。
しかし、人事制度が整備されていない状態でリーダーを育てようとしても、対象者からすれば「リーダーとして何を求められているか分からない」「何をしても評価されないから意欲が湧かない」「仕事が増えるだけ」と思ってしまう。そのような状況では、研修や育成の仕組みだけ整えても効果が半減してしまいます。その場合は、研修よりも人事制度の新規導入や見直しを提案することもあります。
こういう人事制度が欲しいという要望はあるけど、組織として何を目指しているのか明確になっていない事業所は少なくありません。このような場合は、組織としてどう在りたいのかを整理することから始まります。
―せっかく人事制度をつくったのに運用できていないケースはありますか?
あります。おそらく、箱さえできれば自動的に回ると考えていて、自分たちで運用しながら育てていこうとする人が少ないのかなと思います。
そうですね。あとは、制度をつくることが目的で完成したら終わりと思ってしまうのかもしれません。人事制度は運用しながら状況を見て少しずつ調整していくもの。3年前や5年前につくったままの状態が現状に合うことはありません。評価者によって評価にムラが出てしまう可能性があるので、運用しながら目線合わせをする必要があります。
人事制度は導入後もエネルギーを注ぎます。事業所が“自分たちで運用しながら育てていくんだ”という気持ちをもつことが非常に重要です。
運用する方々には熱量をもっていただきたいですね。人事制度は完成してからがスタートですから。
人事制度は組織らしさもつくる。経営者こそ人事制度を語ってほしい
―人事制度はつくってからがスタートで、運用にはエネルギーが必要という言葉にとても納得しました。他にも人事制度について伝えたいことはありますか?
人事制度は組織から働く人に向けたメッセージと言いましたが、組織と働く人の対話の一歩でもあると思います。「組織としてこう在りたいからこういう人を求めている。だから、この評価基準にした」と伝える。それに対して働く人から「いや、こう評価されたけど、本当はもっとここを見るべき」など声があがる。この繰り返しによって相互理解だけでなく、組織らしさが出てくると思います。ここに至るまでには、経営者が自ら人事制度について語って、管理者にしっかり落とし込むことが必要です。
人事制度は経営者を巻き込むことが必要ですよね。
人事制度を変えたり、何か新しいチャレンジをしたりするだけでは組織はよくなりません。「こういう組織にしていきたいと思うけど、どうですか?」という問いかけに対して良くも悪くも反応があり、その揺れ動きによって組織の文化や風土が醸成される。日本の文化も国や政府が「こういうものだ」と言ったからできたわけではないですよね。組織もそれと全く一緒です。
―人事制度によって組織らしさができる……とても感動しました!
ありがとうございます(笑)。そういう一面もあると個人的には思っています。
採用と定着は例えるなら「自転車の車輪」
―今回は「よい組織づくり」をテーマに、離職防止と人事制度について伺いました。最後に、人事担当の方々に向けてメッセージをお願いします。
離職防止や人事制度などの定着は、採用と同じくらい大切だと思います。採用が苦しいと定着まで手が回らないという事業所もあるかもしれませんが、両方をセットで考えてほしいですね。自転車で例えると、前輪が採用で後輪が定着。前輪しか動いていないと十分な組織づくりができず離職者が出てしまうし、後輪しか動いていないと組織の良さが伝わらず人が入ってこない。どちらも行いながら組織の目指す方向に進んでいく。舵取りをするハンドルが経営方針や理念などの組織の方向性です。
この3つがあって組織が成り立ちますからね。
そうですね。Blanketはそのようなスタンスの事業所のお力になれると思っています。
まとめ
人事制度はつくり終えてからがスタートであり、継続するには熱量をもって取り組む姿勢が必要です。自分たちで回す意識をもち、運用しながら状況に合わせて調整することが欠かせません。人事制度は組織から働く人へのメッセージであり、対話の一歩になるものでもあります。だからこそ、経営者が人事制度の意味することや必要性を管理職に伝えることが必須です。伝え続けた延長線上に組織らしさが生まれます。
定着は採用と同じくらい大事なものです。自転車で例えるなら定着と採用は車輪。そこにハンドルである組織の方向性が加わって組織が成り立ちます。どれか1つだけを注力したところで組織が抱える課題は無くなりません。
組織づくりにおいては「辞めさせない組織」ではなく、「働き続けたいと思える組織」を目指すことが大切です。それに向けて「何ができるか?」という視点で組織づくりに取り組んでいただきたいと思います。