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新型コロナウイルスによる雇用市場の変化は、介護・福祉業界の採用の「追い風」になるか?( withコロナ時代の介護・福祉事業者の人事戦略② )

2020/06/29

■コロナウイルスの影響で、介護・福祉業界に人材は流入するか?

新型コロナウイルス禍は、介護・福祉事業者にとっては、人材確保のチャンスである。

採用市場が大きく動くこのタイミングに合わせて、そのような声も多く上がっています。実際に緊急事態宣言明けから、上記のような状況もあり、特に非正規雇用での応募・問い合わせが増えている事業所も一定数あるようです。

慢性的な人材不足に悩む介護・福祉業界では、かつての「リーマン・ショック」後に、多くの人材が業界へと参入してきた時のように、「コロナ・ショック」後にも人材の流入が進むことを期待する声も上がっています。

果たして業界内で期待の声も上がるように、新型コロナウイルスによる採用市場の変動は、介護・福祉業界の人材確保の「追い風」となりうるのでしょうか?

今後、新型コロナウイルスの感染拡大がどのように推移し、どのような経済・雇用維持対策が行われ、経済活動にどのような変化があるのか、流動性が多く予測が難しい部分もありますが、

①介護・福祉業界への人材流入は一定程度進む

②一方で、「リーマン・ショック」ほどの規模での流入は起きず、期待ほどの効果は出ない

③withコロナの時代に合わせた対応を進める事業者と、そうでない事業者で採用・定着に大きな差が生じ、二分化する

のではないかと、私は予測しています。

「withコロナ時代の介護・福祉事業者の人事戦略」第二回では、新型コロナウイルス禍がもたらす介護・福祉業界の採用の変化について考えたいと思います。

■ 採用市場に新型コロナウイルスの影響が出始める。

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5月末に全国で緊急事態宣言が解除され、新型コロナウイルスへの対策は、次のフェーズへと移行し始めています。6月末の時点では、まだまだ東京の感染拡大は続き、予断を許さない状況ではありますが、私たちは感染をできうる限り予防しながら、経済活動・日常生活を前に進めていくことを求められています。

しかしながら、地域・業種によって差もありますが、新型コロナウイルスによって既存のビジネスモデルが難しくなり、経営に大きなダメージを受けた事業者も少なくありません。6月までに約300の事業所の関連倒産があり、2万人以上の雇止めが発生するなど、雇用市場も大きく影響を受けています。

有効求人倍率(求職者1名に対しての求人件数)も20年1月以降急降下しており、旅行・交通関連の業界を中心に21年卒の新卒採用を中止する動きも出始め、採用市場は「売り手市場」が一変、急速に冷え込み始めています。

■サービス関連の非正規雇用が、特に大きな影響を受けている。

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株式会社マイナビが行った「新型コロナウイルスによる非正規雇用への影響調査」によると、「飲食・フード」「ホテル・旅館」「パチンコ・カラオケ・ネットカフェ」といった業種で特に、非正規雇用者(アルバイト・パート)の「労働時間の削減」「新規採用の抑制」「契約更新の停止」などの雇用調整を行っている事業所の割合が多いという結果が出ています。

その影響で、収入減などを理由に退職・副業など新たな仕事を探している人も増えており、「飲食・フード」業界では、23.0%の人が現職からの離職を検討しています。

新型コロナウイルスがきっかけで生じることが懸念されている不況は、2008年のリーマン・ブラザーズの破綻によって引き起こされた「リーマン・ショック」となぞらえて議論されることも多いですが、金融市場への影響が大きかった「リーマン・ショック」とは異なり、私たちの日々の暮らしに直結する実体経済に直接影響を与える「コロナ・ショック」は、より生活に身近な業種・業態に広範囲にダメージをもたらし、雇用にもマイナス影響を及ぼすことが考えられます。

・これまでと同じように仕事を続けられなくなってしまった人が、新たな仕事を求めて転職市場に流入する。

・新卒採用を抑制・中止する業界が発生し、学生の新卒採用の動きも変わっていく。

採用市場の状況が大きく変わっていくことは間違いないのではないかと思います。

■介護・福祉業界への就業のリスクは増えてしまった。

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「リーマン・ショック」時は、「失業者を成長産業へ」という国の方針の下、職業訓練の推進などが行われ、介護・福祉業界にも、業界外から23.3万人(新卒採用を除く)の入職がありました。当時の介護職員の数が約130万人程だったことを考えると、この流入数のインパクトは非常に大きいものでした。

「リーマン・ショック」時は、特に製造業での雇用の喪失のインパクトが大きく、製造業での離職者を中心に「成長分野で求人も多く、安定している」「資格を取れば食いっぱぐれない」といった介護業界の環境が、人材流入を後押ししていました。

これらの「安定している」「求人が多い」という側面は、「コロナ・ショック」でも同様ですが、一方で「リーマン・ショック」時にはなかった「感染リスク」というネガティブ要素が、介護・福祉業界への参入のハードルになるのではないかと予測しています。

介護・福祉の現場は人との接触が多く、自身の感染リスクが高いと共に、自分から重症化のリスクの高い要介護者へ感染させてしまうリスクも生じます。

また、新型コロナウイルスは社会全体の働き方を見直す機会となり、テレワークなどリスクを避ける働き方にも注目が集まり、仕事選びの際の視点も変化しています。介護・福祉現場の働き方では、なかなかテレワークや感染拡大時の休業も難しいため、withコロナ時代の新しい働き方へのニーズの高まりには対応しづらいという側面もあります。

業界外からの参入を検討する際、これらの要因がマイナスに働き、「リーマン・ショック」ほどのインパクトは起きないのではないでかと考えています。

■「リーマン・ショック」時にも起きていた大量の早期離職のリスク。

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そして、例え一定数の人材流入が進んだとしても、介護・福祉事業者側が何の対策もしていない場合、多くの離職を生み、人材確保は進まないという危険性も残っています。

「リーマン・ショック」が起きた翌年の2009年には、「成長産業へ人材を」という国の雇用対策の下で、職業訓練等の支援も行われ、介護業界への新規入職が23.3万人(中途採用)ありました。当時の介護職員の数が128万人ということを考えると、大きなインパクトと言える規模でした。

その一方で、一年間で21.8万人の離職も発生(うち13.7万人は業界外へ流出)。多くの人材流入があったものの、それと同数の流出も進み、介護人材の数は微増にとどまる結果となりました。

この背景には様々な要因があると考えられますが、

①「来るもの拒まず」と安易に採用を進めた結果、入職段階でのミスマッチが生じていた。

②未経験者が多く入職してきたが、受入・教育態勢が整っておらず、職場・業務順応が進まなかった。

という点が大きかったのではないかと思います。

現在でも、新規入職の介護職員のうち約3割は1年以内に離職しています。(厚生労働省「医療・介護分野における職業紹介事業 に関するアンケート調査(2019)」)「コロナ・ショック」に関連した人材流入が進んだとしても、採用段階でのミスマッチ・受入態勢の未整備について無策のままであれば、新入職員の早期離職につながり、人材確保にはつながらない。そのようなリスクは残ったままです。

□「採用」をゴールにせず、「職場定着」を意識する。

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雇用市場・私たちの働き方・働き方への意識が変化していく「withコロナ」の時代に、変化に合わせた対応をする事業者と、そうでない事業者の間では、職員の採用・定着に大きな差が生じていきます。

変化への対応で重要な視点は、「採用」という目先の成果に囚われずに、「職員の定着・活躍」を意識した対策をとるということです。「リーマン・ショック」の後の雇用市場の変化の際には、「採用」には成功したものの、その後の施策が十分に機能しない中で、一時的な人員増に留まってしまった介護・福祉事業者も少なからず存在します。今回の大きな変化に対し、「採用」の先の環境整備も丁寧に行うことができれば、一時的な「採用」という成果だけでなく、職員が定着・活躍し、よりよいサービス提供や、職員のエンゲージメント(働きがい)につながり、「ここで働きたい」と思う人が増えていく…という好循環が生まれていきます。

■採用の強化:より多くの人に知ってもらう。採用市場のオンライン化に対応。

■採用時の丁寧なマッチング:ミスマッチを防ぐために採用基準を明確化する。

■育成・受け入れ態勢の整備:新入職員が安心できる体制を組織一丸でつくる。

■職場環境の整備:感染症対策も含め、大きな負担のかかる職員の業務負担を削減する。

上記のような取組を複合的に進め、誰にとってもよりよい職場づくりを加速していくことが、介護・福祉事業者のこれからの人事施策において非常に重要なはずです。「ピンチはチャンス」という言葉もありますが、大きな変化の時代に組織を成長させる一歩を踏み出していただければと思います。

【無料相談会】介護・福祉事業者の採用・育成・定着に関する相談会開催のご案内

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【この記事を書いた人】

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野沢 悠介 株式会社Blanket取締役

1983年生まれ。東京都出身。立教大学コミュニティ福祉学部卒。ワークショップデザイナー。2006年株式会社ベネッセスタイルケアに新卒入社し、採用担当・新卒採用チームリーダー・人財開発部長などを担当。介護・福祉領域の人材採用・人材開発が専門。2017年に参加してKaigo取締役に就任。介護・福祉事業者の採用・人事支援や、採用力向上のためのプログラム開発などを中心に「いきいき働くことができる職場づくり」を進める。