資料ダウンロード

「人」が根幹となる介護・福祉事業だからこそ、経営で「人事」の視点を重視すべき【介護経営に役立つ「人事の目線」①】

2023/01/19

多岐にわたる「人事」の仕事

皆さんは「人事」という言葉を聞いて、どのような業務をイメージするでしょうか。

採用や研修などの採用・育成業務でしょうか。または、人事評価制度の設計・人事異動などを行う人材マネジメント業務や、給与計算や福利厚生・安全管理施策の策定といった労務関連業務などを思い浮かべる方も多いかと思います。

実際に、「人事」という言葉でくくられる業務は多岐にわたり、企業組織の屋台骨を支える重要なポジションと言えますが、一般的なイメージとしては「管理部門」「事業・サービス部門の後方支援」的な意味合いで捉えられることも多いと感じています。

しかし私は、介護・福祉が「人」を根幹とする事業だからこそ、「人事」の視点や役割は非常に重要になると考えています。

今回、「人事」全般に視野を広げ、強くしなやかな組織をつくり、よりよい事業運営をしていくためのアプローチを考えていきたいと思います。

なぜ今、「戦略人事」なのか?

1990年代にアメリカで「戦略人事」という言葉が生まれました。

従来の管理・間接業務に留まる人事部のイメージを一新し、「経営のパートナー」として、経営戦略にコミットした人事施策を考えていく、人事部門の新たな姿を指しています。

この考え方が近年、日本企業でも注目をされています。その背景には、業界を問わず広がる人材不足や外国人材の受け入れ、グローバル化による組織の多様化、働き方改革による業務スタイルの変革など、さまざまな事象が絡み合っています。

人材確保はますます難しくなるなか、多様な価値観や背景をもつ人たちが集う組織で、スピード感をもって結果を出すことが求められているのです。

介護事業者がよりよい経営・サービス運営をしていくうえでもそうした成果を上げるための人材育成や適材適所のマネジメントを進める必要があるこの時代だからこそ、「人事部門は単に採用や研修、給与計算をしていればよい」という考え方から、経営と一体となり人材や組織について考える「戦略人事」という視点が注目を浴びているのだと思います。

一方で、介護・福祉業界の現状に目を向けてみると、中小企業が多いという特性もあり、人事部門に十分なパワーやコストが割けていない現状があるようです。もちろん、現在の事業規模や組織体制によっては、急に人事部門を強化することが難しい面もあるでしょう。

しかし、業界内外で人材確保が非常に困難な状況が広がり、外国人・シニア人材といった多様な人材の受け入れ、ITやロボット等の導入による業務プログラムの変化、保険外サービスも含めた新たな事業展開の模索など、劇的な変化が求められている介護業界だからこそ、より戦略的かつしたたかに変化に対応できる柔軟な組織・人材を育む必要があるのではないかと思います。

人事がもつ4つの役割

前述の「戦略人事」という言葉を提唱した一人、デイビッド・ウルリッチ教授は、人事が果たすべき役割として

① 戦略パートナー
経営戦略に合わせて人事施策を考える

② 人材管理のエキスパート
人事施策を着実に実行・運用管理する

③ 変革のエージェント
企業の理念やビジョンを従業員に浸透させる施策を考え

④ 従業員のチャンピオン
従業員の意見を聞き、意欲を高める施策を実行する

という4つを挙げています。

大別すると、組織がどのような方向へ進むべきかというビジョンや戦略を描く役割(①、③)とともに、目の前の事業が円滑に進むように組織に働きかける役割(②、④)が求められています。

こうして整理をしてみると、人事が果たす役割は多岐にわたっていることがおわかりいただけるかと思います。皆さんの事業所では、上記の4つの視点で人事施策が検討され、実行されているでしょうか。

あらためて、この4つの役割を用いて自組織の現状を振り返ってみることで、自組織の強みや課題点が浮き彫りになるのではないかと考えます。

一貫した人事施策を設計し実行する

ここまでご紹介してきた人事領域の試作を検討し、より強く柔軟な組織をつくっていくためには、事業理念を起点とした一貫したメッセージ性のある戦略設計が非常に重要となります。

私たちは他社の成功事例を知ったとき、そのまま自社に “直輸入” しようとしてしまいがちですが、施策が成功したのはあくまでもその企業の理念・風土・組織特徴の下で設計・実行されたからであり、別の企業にスライドしても効果が出るとは限りません。

他社の成功事例をパッチワークのように次々と取り入れていくようなことをしてしまうと、組織にフィットしないバラバラな制度だけが積み上がり、社員のモチベーションを下げたり、業務に支障をきたしたりと、かえって逆効果になってしまうこともあります。

経営としての「戦略人事」

自社の人事戦略を考える際には、自社の理念・事業計画を実現するための施策として検討されているかということを念頭におく必要があります。また、自社の経営戦略を考える際には、戦略達成のためには人材・組織にどのようなアプローチが求められるのか、ということを同時に検証する必要があります。

経営戦略と人材施策が綿密につながり、相互に作用する関係をつくることを意識することが、よりよい組織・人材を育て、経営を強化することにつながっていくことでしょう。

経営としての「戦略人事」

次回以降、さまざまなテーマで「経営 × 人事」を考えていきたいと思います。

※本記事は、以下に雑誌に執筆・掲載した内容を加筆・修正し、公開しております。

社名:株式会社日本医療企画
雑誌名:地域介護経営 介護ビジョン
発行年/掲載号:2019年1月号掲載

この記事を書いた人

野沢 悠介

株式会社Blanket 取締役

東京都出身。立教大学コミュニティ福祉学部卒。 ワークショップデザイナー/キャリアコンサルタント。 2006年株式会社ベネッセスタイルケアに新卒入社し、採用担当・新卒採用チームリーダー・人財開発部長などを担当。介護・福祉領域の人材採用・人材開発が専門。2017年に参加して株式会社Join for Kaigo(現 Blanket)取締役に就任。介護・福祉事業者の採用・人事支援や、採用力向上のためのプログラム開発などを中心に「いきいき働くことができる職場づくり」を進める。