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組織一丸で改革を進めるために求められる理念浸透【介護経営に役立つ「人事の目線」⑫】

2023/04/06

本連載において、これまで人材採用・人材育成・離職防止・IT導入による業務効率化など、経営上の人材マネジメントについての視点を考えてきました。

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一つひとつのテーマで成果を出し、よりよい組織をつくるためには、さまざまな視点・要素を意識して進める必要がありますが、すべてのテーマで共通している成功のためのポイントは、「理念型経営・マネジメント」という観点をもつことです。

組織における「理念経営・マネジメント」という視点

組織の活動は、それぞれが掲げる理念を実現することであり、採用・人材育成・業務効率化などといったアクションは、理念実現のための組織づくりの手段となります。

ですが、人材不足や目の前の課題に対応する必要に迫られるなかで、この「理念の実現」という大きな目的への意識はどうしても薄まってしまい、手段が目的化していくことがしばしば起きてしまいます。

そうなると、それぞれの施策は、組織のメンバーにとって「何のためにやるのか?」という部分が曖昧になり、負担感のみが生じてしまったり、チーム一丸となって取り組む機運が生まれず、結果としてうまく進まないという事態も生じてきます。

一つひとつの施策が理念の実現に向けて配置され、それをチーム全体が意識をしながら進めていく。そのような組織づくりに必要なのは、組織内への理念浸透です。

皆さんの組織のメンバーは、組織の理念に共感し、その理念実現のためにアクションを起こせているでしょうか。そして、みなさんは理念を意識しながら、メンバーと日々かかわり合えているでしょうか。

「理解」ではなく「共感」をつくる

理念浸透を進める際、重要となるのは、「理解」ではなく「共感」です。理念浸透のために、理念唱和の習慣化や、定期的な理念研修を行う場合もありますが、それのみでは十分とは言えません。

人が学習を進めていく際には、「知らない」「知っている」「できる」などといった段階的なプロセスがあり、「知っている」から「できる」とは限りません。

理念も知っているだけで、それを行動に移していくという意識がなければ、絵に描いた餅で終わってしまうため、行動変容につながるアプローチが必要となります。

そのために重要なのは、日々の業務、利用者とのかかわりなどといった自組織の活動において、どのようなシーンが「理念を体現できている瞬間」なのかということを、メンバーと考えたり、伝えていくことです。

ただの概念として理解するのではなく、「これが私たちがめざすことだよね」と具体的な場面を共有したり、考えたりすることで、理念はただの言葉から行動へと変容します。

職員のエンゲージメント(組織への帰属意識や仕事へのモチベーションを表す指標)が高く、人材が活躍し、離職の少ない組織では、このようなコミュニケーションが頻繁に行われていることが多くあります。

定期的な研修のような場を設けなくても、定例の会議や申し送りで話されたり、日常の上司のコミュニケーションやフィードバックで、メンバーに考える機会を設けたりと、理念そのものというより、理念が体現される行動・取り組みに着目し考える時間や機会を増やすことが、理念への共感を生んだり、理念に沿った行動へとつながっていきます。

施策の背景にある理念を伝える

採用活動に社員を巻き込む、育成の機会を設けて積極的に活用してもらう、業務の流れを見直して改善を行う……。

これらの人事施策はときにして、「何で忙しいのに、こんなことまでしないといけないのか」とメンバーには負担感のみ受け止められてしまい、前に進まずに止まってしまうことが起きてしまいます。

それを防ぎ、組織全体で前に推し進めるためには「何を行うのか?」だけでなく、「なぜ行うのか?」ということをきちんとコミュニケーションをとることが重要です。

「鳥の目・虫の目」というたとえがありますが、日々の仕事のなかでは私たちは目の前の業務や課題に着目する「虫の目」になってしまいがちです。そうなると、今の業務への足し算・引き算で考えて良し悪しを判断してしまいます。

だからこそ、「私たちが何をめざすのか?」という理念を改めて見つめ、「理念実現のために何ができるか」という中長期的な、全体を眺める「鳥の目」をもって、必要なことに取り組む意識を醸成することが重要です。

理念実現のために、必要なアクションであることをしっかりと伝えるとともに、そのアクションが実現した先に、どのようなポジティブな変化が生まれるのかも組織全体で考える。

その一方で、ただ依頼・発信をするだけでなく、現場からの意見や不安にもきちんと耳を傾けることで、みんなが納得できるような道をともに検討する。

組織一体でのアクションを進めるための3つのコミュニケーション

このようなコミュニケーションを丁寧に行うことで、「理念実現のために必要なことであるから、どのように進めればよいか」という主体的な意識が生まれ、組織全体で一丸となってアクションを進める体制がつくられていくことになります。

組織の風土を変えるのは、一朝一夕には難しいものです。「急がば回れ」という思いももちながら、理念を通した対話の機会を増やし、理念実現のために考え、行動する組織をつくることが、大切なのではないかと思います。

※本記事は、以下に雑誌に執筆・掲載した内容を加筆・修正し、公開しております。

社名:株式会社日本医療企画
雑誌名:地域介護経営 介護ビジョン
発行年/掲載号:2019年12月号掲載

前回の記事はこちら▼

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この記事を書いた人

野沢 悠介

株式会社Blanket 取締役

東京都出身。立教大学コミュニティ福祉学部卒。ワークショップデザイナー/キャリアコンサルタント。2006年株式会社ベネッセスタイルケアに新卒入社し、採用担当・新卒採用チームリーダー・人財開発部長などを担当。介護・福祉領域の人材採用・人材開発が専門。2017年に参加して株式会社Join for Kaigo(現 Blanket)取締役に就任。介護・福祉事業者の採用・人事支援や、採用力向上のためのプログラム開発などを中心に「いきいき働くことができる職場づくり」を進める。