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1年未満の離職率が10分の1に!一人一人に徹底的に寄り添う体制作りとは【マイライフ徳丸】

2023/09/22

激化する介護・福祉業界の採用市場では、ミスマッチが起こり短期間で離職してしまうケースが少なくありません。職場の持続的成長のためには、より工夫した定着施策が求められるでしょう。

特別養護老人ホームをはじめ、在宅介護支援、デイサービスなど様々な事業を展開する社会福祉法人「北野会」マイライフ徳丸では、2017年から採用から定着までの人事に特化した「人財開発研究室」を施設内に開設。

設置前に比べて、離職率は、10分の1に減りました。今回は、マイライフ徳丸の皆さんに、そんな驚くべき成果の背景、外国人の受け入れ体制や働きやすい組織作りの秘訣についてお伺いしました。

【インタビュイー】

写真左:人財開発研究室 石塚 勇次さん
写真中央:北野会 常務理事・マイライフ徳丸 施設長 高麗 正道さん
写真右:人財開発研究室 西川 恵二さん

気軽に相談できる保健室のような部署を

マイライフ徳丸では、2017年に採用や教育を担当する「人財開発研究室」を開設しました。背景として、人と向き合いたい思いがあったと施設長の高麗さんは話します。

「人財開発研究室を立ち上げた経緯には、『人を大切にしたい』と思いながらも、何も対策できていない状況がありました。人手が足りないのであれば、人が定着するような徹底的なサポート体制が必要です。入職した直後の不安に対して、第三者的な立場で相談に乗れる部署があればと、人に寄り添う思いを具現化する形で設立しました」

人財開発研究室では、包括的にフォローするための定期的面談を用意していると、西川さんは説明します。

「新しい職員さんに対しては、雇用形態を問わず年間10回以上は個別面談の機会を設けています。面談の形式としては、3種類用意しています。

1つ目の二者面談については、新人×人事部。入社して最初の1ヶ月は週に1回、その先は1ヶ月ごとに約1時間、人財開発研究室のメンバーと雑談を交えながら、何か不安や困りごとはないか面談します。

2つ目の三者面談は、新人×人事部×フロアチーフ。入社して半年のタイミングで、配属先のフロアチーフ(直属の上司)を交えて、具体的な仕事の疑問点を中心にお話します。

3つ目は、新人×人事部×介護主任です。この面談では、より高い視座で長期的なキャリアについての話もします。介護主任とは普段なかなか腰を据えて話すことがないので、距離を縮めるにはとても良い機会なんです。入社後、9ヶ月〜12ヶ月の時期に実施することが多いですね」

なぜこれほどまでに面談の機会を設けているのでしょうか。背景として、当時離職率ゼロだった社会福祉法人 合掌苑にヒアリングを行った結果だと高麗さんは話します。

「合掌苑さんへのヒアリングから、”抱え込まず、気持ちを吐き出すことの大切さ”がわかりました。そこでまずは現場にインカムを導入し、職員同士で話せる環境を作ったんです。

『今から排泄補助いってきます』『がんばって』など小さなことでも口に出すことで支え合えたり、共感できたりするんですよね。そんな機会を多く設けるために、ゆったりと対話できる、面談を増やしました」

石塚さんも大きく頷きながら続けます。 

「僕たちは保健室の役割なんだ、といつも言っています。人財開発研究室を、目的がなくても気軽に立ち寄って良い場所にしたいんです。そのため、お菓子やお茶を用意して、身構えなくていい雰囲気を出していますね。

お菓子を食べながら仕事以外の雑談をしていると、仕事での悩みや困り事についてふと話してくれることがあるんです。そんな時には、『どうしたの?』『じゃあ今度面談やろうか』という声かけをしています。上司ではない中立的な立場として、現場の仕事を理解している者として、適度な距離感のメンバーが必要だと感じますね」

介護マニュアルや書籍が並ぶ人財開発研究室は、「まるで部室のようにカオス」とのことなので、写真はNGでした(笑)

現場に出る前の実務研修で、基礎からしっかり伝える

実際に人財開発研究室の取り組みでは、どのような効果が出ているのでしょうか。西川さんにお伺いしました。

「人財開発研究室が面談を開始する前は、1年未満での離職率が70%程度だったのが、1年で7%程度になりました。10分の1に減るという脅威の数字で、それ以降も離職率は同水準を推移しています。

新しい職員からは、不安を解消できて助かるという声が多いですね。働く中で出てきた疑問や不満、悩みをリアルタイムで解決できることが魅力だと思います。必要に応じて上司へのフィードバックも行い、人間関係のもつれも解消できていますね」

面談でのフォローだけでなく、現場に出る前の1ヶ月間の実務の事前研修も、人材開発研究室が担当します。そこには、社会福祉士の資格を持つ石塚さん、約15年の介護現場経験がある西川さんだからこそできる仕事があるといいます。

「早期で退職する方の不満には、『現場で放置されていた』という理由もあると思います。ただ、現場の先輩たちも放置したくてしているわけではなく、教えたいと思っていても、実務をこなしながら教えていくことが難しい現状があるんですよね。

そこで1から全部を現場で教えるのではなく、前提知識の部分を教えるようにしています。基本的な介助のテクニックや声かけ方法、施設独自の道具の呼び方など、現場に出た時に必要な前提知識を網羅的に伝えられるよう、心がけています。

見学者の方からは『認知症の方のフロアが、大声などなく静かで驚いた』という声をいただくことも多く、私たちの実務ケアがうまくいっている現れかなと自負しています」

外国人職員採用には、日本人も安心できるステップを

マイライフ徳丸では、2019年から外国人採用を始め、今では全体の約30%(40名中10名程度)が外国人職員となっていると石塚さん。

「経済連携協定(EPA)に基づいて、フィリピン人の介護福祉士候補者が在籍しています。留学生が日本で長期間働ける在留資格(介護ビザ)では、スリランカ人、ミャンマー人、中国人などを受け入れています」

高麗さんは、外国人採用においてアピールにも力を入れたと語ります。

「外国人採用は後発だったのですが、社内のフィリピン2世の手を借りたことで、数多くの人材が集まりました。若くて機動力がある組織だとアピールするほか、『すぐにiPhoneが買えます』とわかりやすいメリットを打ち出すなど、目立つことをしましたね」

外国人の採用においては、生活支援も人事の仕事。在留資格の手続き、家の手配、日本語の勉強会なども実施しているほか、プライベートでも交流を図り、サポートをしていると石塚さんはいいます。

「外国人採用のスタート時期がコロナ禍だったんです。家族と離れて日本に来ているのに、どこにも行けず、外食もできず、という状況を見て、とても心苦しく感じていました。できる限り日本を楽しんでもらいたいという気持ちで、プライベート面でも全力でサポートしましたね」

外国人職員の国民性や文化の違いから、刺激を受ける部分も多いそうです。

「外国人職員さんのハングリーさには驚きますね。イヤなことがあっても簡単にくじけないところは、日本人が学ぶべきだと思います。食事なども全く違いますね。豚の血で煮込んだ豚肉のフィリピン料理には驚きました。

施設内で、各国の料理を作ってみんなで食べるという文化交流を積極的に企画して、『外国人の自分たちもここに居ていいんだ』と思えるような居場所作りを意識しています」

また、現場でハレーションが起きないよう、段階的に外国人導入を進めていたといいます。

「現場では外国人採用に懐疑的な声もありました。利用者さんから拒否反応が出るのでは、と考えたからです。そのため、EPAとして外国人介護候補生が来る少し前から、留学生に掃除のアルバイトで入ってもらっていました。同じ空間に外国人がいる状況を徐々に作っていきましたね。

利用者さんから拒否反応どころか、好意的な話や日本での生活を応援する声が多くありました。職員の不安が軽減し始めたタイミングでEPAを迎えられたので、良い地ならしができたと考えています。

他にも、日本人スタッフ側の負荷感を低減するために、食事のネームプレートの漢字はそのままなど、可能な限り従来の状況を崩さずにいました。その代わり外国人職員のスマートフォンの持ち歩きを許可して、わからない単語があったらすぐ調べられるような環境を整え、言語の壁をなくしていきました」

一人一人の気持ちに寄り添い、伴走する体制に

2017年人材開発研修室ができてからは新卒採用も開始。現在は採用媒体を使わず、学生の介護技術コンテストに出向き、積極的に声をかけることで、毎年6〜7人が入社しているとのこと。コロナ禍前は、学校への直接営業にも力を入れていたと石塚さんは振り返ります。

「直近は離職率が低いこともあり、新しい職員の積極採用はしていませんが、コロナ禍前は学校への営業にも力を入れていました。まずは、実習生の受け入れ態勢を整備。実習生が辛い思いをしないように、実習担当者とこまめに面談を設定したり、目標を設定して携帯できるカードを作ったり、写真を撮ってプレゼントしたり、手厚くフォローをしましたね。

学校側への営業では、実習生へのアンケートをもとに数値化して、『マイライフ徳丸に入社するとこんな成果が出せます』というパンフレットを作ってアピールをしました。学校の先生方からは、数値化して営業に来ることは珍しいとの声をいただきましたね。ほかにも、『施設に電話いただいた際には、必ずすぐ対応します』など、学校の先生方へのメリットも提示するように心がけました」

実習生にも新入社員にも外国人にも、しっかりと向き合い伴走するのは、マイライフ徳丸のスタイルだと高麗さん。

「よく電車に例えて言うんですが、現場はずっと休む間もなく、走り続けているんです。

そこに入口も出口も、居場所も伝えられないまま、走り続ける電車に飛び乗ると、当然振り落とされてしまいますよね。『入り口はここです、ここに座ってくださいね』と新しい職員さんにも優しく教えられるような環境でありたいと思っています」

現場の職員に優しく寄り添いながら、より良い職場作りに努めているマイライフ徳丸。そこには徹底的に人と向き合う姿勢がありました。今後もその動向を見逃さずにいたいですね。

写真撮影:菊村 夏水

この記事を書いた人

おしたに ゆきな

1995年、大阪府生まれ。大阪大学外国語学部卒。大手メーカーの人事として5年間勤務。国家資格キャリアコンサルタント取得をきっかけに、自分のキャリアと向き合い会社を退職。2023年から主にHR・キャリア分野でライター、コピーライターとして活動中。書道師範でもあり、Podcastアートワークなどを手がける。