70年の歴史を未来へ繋ぐ。採用サイト刷新から始まった、和敬会の「MVVSプロジェクト」
公開日:2026/03/03 更新日:2026/03/03
法人経営の軸となるミッション(Mission=存在意義)、ビジョン(Vision=実現したい未来像)、バリュー(Value=その実現に向けて大切にする価値観や行動指針)。いわゆる「MVV」は、組織の方向性を示し、判断や行動の拠り所となる重要な指針です。
一方で、「MVVを掲げているものの、現場ではほとんど使われていない」「作ったはいいが、組織に浸透している実感がない」といった現状に悩む方も多いのではないでしょうか。
MVVは策定すること自体が目的ではなく、組織の共通言語として機能してこそ意味を持つものです。
愛知県で児童福祉と高齢者福祉の両分野にわたり事業を展開する社会福祉法人和敬会(わきょうかい)は、2023年に設立70周年を迎えたことを一つの節目として、ミッション・ビジョン・バリューにスローガンを加えた新たな「MVVS(Mission・Vision・Value・Slogan)」を策定。あわせて、ロゴの刷新およびコーポレートサイト・採用サイトのリニューアルにも取り組みました。
当初は、採用サイト刷新のみだったという今回のプロジェクト。なぜ和敬会は、MVVSの策定に踏み切ったのか。採用課題を起点に始まった取り組みの背景と、プロセスをひも解きます。


【お話を伺った方】
社会福祉法人 和敬会
地域密着型複合施設なごみの郷 施設長
太田 和敬さん(左)
社会福祉法人 和敬会
地域密着型複合施設なごみの郷
HR担当マネージャー
太田 みなみさん(右)
採用課題の先にあった課題感。「和敬会らしさ」とは何か
和敬会は1953年、当時の日本が抱えていた戦災孤児という社会課題に向き合うために設立されました。愛知県内唯一の「小舎制」の児童養護施設をはじめ、現在は高齢者福祉の分野にも事業を拡大。複数の施設・サービスを運営しています。
そうした歴史を持つ和敬会が法人全体の課題として強く感じていたのが、採用における母集団形成でした。
「介護・福祉業界全体で人材不足が深刻化するなか、当法人も例外ではありませんでした。外部の採用サービスに頼るだけでなく、自社サイトからの直接応募を増やしていきたいと考え、採用サイトのリニューアルを検討し始めたんです」(みなみさん)

当時の採用サイトは、表現の自由度や運用面に課題を感じていたといいます。改善したい点があってもサイトの制作会社を介する必要があり、スピーディーな更新が難しい状況でした。
「あらかじめ決まったフォーマットのなかで情報を掲載する形式だったので、私たちらしさを表現するのが難しくて。もっと和敬会が大切にしている考えや、私たちの空気感が伝わる採用サイトにしたいと思っていました」(和敬さん)
採用サイトのリニューアルプロジェクトが動き出し、パートナー探しもスタートしました。検討を進める中で候補に挙がったのが、Blanketでした。過去に採用や組織づくりをテーマにしたセミナーなどを通じて接点があり、「単にサイトを作るだけでなく、法人のあり方や考え方から一緒に整理してくれる」という印象を持っていたといいます。
しかし、プロジェクトが本格的に動き出すと、より根本的な課題にぶつかりました。それが「和敬会らしさ」を支える理念そのものが、現在の法人の姿を等身大で表現しきれていないのではないか、という点です。
「議論を重ねるなかで、『これが和敬会』と自信をもって示せるビジョンが、実は明確ではないことに気づいたんです。設立当初から社是はあったものの、70年以上の時を経て、今の私たちの実態とは少しズレが生じていました」(和敬さん)
児童福祉と高齢者福祉へと事業を広げるなかで、対象となる利用者や提供するサービス、拠点も多様化し、法人全体としての共通の価値観や一体感が見えにくくなっていた側面もありました。

「各事業所がそれぞれの現場で真摯に取り組んできたからこそ、結果としてバラバラに見えてしまっていた部分もありました。ただ、和敬会として共通して大切にしてきた思いや価値観はきっとあるはず。BlanketさんからMVVSの刷新をご提案いただいたとき、改めて『和敬会とはどんな組織なのか』を見つめ直す機会だと思いましたね」(みなみさん)
単なる採用サイト刷新にとどまらず、法人全体の軸となるMVVSを策定するという、より大きな取り組みへと踏み出していきました。
分野を越えた対話の先に見えた、和敬会の共通言語
MVVSの策定を本格的にスタートしたものの、その道のりは決して平坦なものではありませんでした。MVVS策定の話し合いの場には、児童福祉分野と高齢者福祉分野、それぞれの現場を代表する職員が参加。議論を重ねるなかで、当初は意見が噛み合わない場面もあったといいます。
「同じ福祉といっても、子どもを支える現場と高齢者に寄り添う現場では、重なる部分がありつつ、違いもあります。『この言葉は児童分野ではこう受け取られてしまう』『高齢分野では、ここをもっと強調したい』といった意見が次々に出て、なかなか一つにまとまらないこともありました」(みなみさん)
それぞれが自分たちの現場を良くしたいという強い思いを持っていたからこそ、議論は白熱しました。一方で、話し合いを重ねるなかで、少しずつ変化も生まれていきます。
「言葉や表現は違っても、根っこにある思いは同じなんだ、と気づいたんです。一人ひとりの人生に向き合うこと、地域に根ざした存在であること、一緒に働く仲間を大切にしたいこと。そこは、分野を越えて共通していました」(和敬さん)

さらに、MVVS策定を後押ししたのが、Blanketという第三者の存在でした。
「内部の私たちだけでは、どうしても視野が狭くなりがちです。けれど、客観的に『それって、和敬会さんらしいですよね』『ここが強みだと思います』と、外から言語化してもらえたことで、私たち自身も初めて気づくことがたくさんありました。俯瞰して自分たちを見る視点をもらえたのは、とても大きかったです」(和敬さん)
こうした対話を重ねた末に生まれたのが、和敬会の新たなMVVSです。


「今回のMVVSは、何か新しい言葉を無理につくったわけではありません。これまで大切にしてきた思いを、今の和敬会に合う形で言葉にし直した、という感覚に近いです」(みなみさん)
「私は、ミッションの『「ないなら創ろう」の姿勢で、未来の当たり前をカタチにする』という一文が一番気に入っています。和敬会が設立したのも、戦災孤児という社会課題に向き合う受け皿が“ないなら創ろう”という姿勢からだったと思いますし、その精神はこれからも変わりません。設立当時の思いが、今に受け継がれ、そしてこれからも大切にしていきたいものとして表されていると感じていますね」(和敬さん)
MVVSを「見える形」に。世界観を体現するサイトへ
和敬会がこれから先、分野や事業を越えて共有していくMVVSが完成し、その世界観や価値観を社内外に伝えるコーポレートサイト・採用サイトも完成。出来上がったサイトを初めて目にしたとき、「いいものができた」という確かな手応えがあったといいます。

「コーポレートサイトをパッと開いた瞬間に、私たちの雰囲気がきちんと伝わってくると感じました。言葉だけでなく、写真や色味、アニメーションまで含め和敬会らしさが表現されていて、仕上がりにはとても満足しています」(和敬さん)
サイト全体は、柔らかな黄色やブラウンを基調とした、あたたかみのあるデザイン。そこには、子どもや高齢者、そして現場で働くスタッフの姿が自然体で写し出され、日々の営みや空気感が伝わるよう工夫されています。
ロゴもまた、MVVSと深く結びついたものへと刷新されました。和敬会(WAKYOKAI)の頭文字である「W」をベースに、人と人が手を取り合いながら“和”を広げていく姿を表現。暖かな気持ちを差し伸べつつ、時代や社会の変化に合わせて前進し続ける。そんな法人の姿勢が込められています。
「Blanketさんには、この仕上がりになるまで何度も丁寧に向き合ってもらいました。デザインに詳しいわけではないので、『なんとなく違う』『違和感がある』という感覚に寄り添ってくださり、その積み重ねが今の仕上がりにつながっていると思います」(みなみさん)

さらに、運用面でも大きな変化がありました。コーポレートサイトにブログ機能を加えることで柔軟に情報発信ができるようになり、法人全体のお知らせに加え、各施設での取り組みやイベント、そして和敬会が大切にしている価値観をテキストで伝えています。「SNSとも連携しながら、らしさを軸にした発信ができています」と和敬さんは話してくれました。

数年かけて、浸透に注力。日常的に「使われる」MVVSへ
新しくなったMVVSを組織に根付かせるため、和敬会では数年をかけてさまざまな工夫を行いました。特に重視したのは、自然と使われる状態をつくること。その象徴的な取り組みが、MVVSカードです。
「MVVSカードはスタッフ同士で『いまの行動は、MVVSのどこを体現していたか』を言葉にして伝え合う仕組みです。たとえば、雨の日に帰ろうとする利用者のご家族に、さりげなく傘を差し出した職員がいたとします。その行動を見た別の職員が、スローガンの『心を、差し伸べよう。』を体現していると感じたら、カードにメッセージを書いてポストに投函するんです。今でも継続していて、毎月150枚以上のカードが投函されているんですよ」(みなみさん)
行動と理念を結びつけ、「あなたのこの行動が素敵だった」と伝えるこの取り組みは、理念を自分ごととして捉えるきっかけになると同時に、スタッフ同士が賞賛し合う文化を育んでいきました。さらに年に一度、もっともMVVSを体現した人を表彰するアワードも開催。ミッション賞、ビジョン賞、バリュー賞、スローガン賞の4部門を設け、抽象的になりがちな理念を具体的な行動として称える仕組みを整えています。

「他にも、MVVSをまとめたフィロソフィーブックを制作したり、入社時研修では理念についての座学を行ったり。既存スタッフに向けても、階層別研修などで理念の理解を深めるワークショップを行っています」(和敬さん)
「今では嬉しいことに、日常会話や会議のなかでも『〇〇さんのあの行動は、心を差し伸べていたよね』『安らぎとワクワクを提供するためには…』と、自然にMVVSの言葉が使われるほど浸透しています。その姿を見ると、和敬会としての一体感を感じるとともに、浸透に力を入れてきてよかったと感じますね」(みなみさん)

自分たちが目指す方向を掲げた先に見えた、採用と組織の変化
リニューアルしたコーポレートサイトや採用サイト、ブログを通じて、和敬会が大切にしている価値観や日々の実践を丁寧に発信していったところ、和敬会の考え方に共感して応募する人が少しずつ増えていきました。
「応募者の方から『サイトを見て、理念に共感しました』と言っていただく機会が多くなりました。履歴書の志望動機欄にも、『心を差し伸べるという言葉に惹かれた』『人生に安らぎとワクワクを、という考え方に共感した』と書いてくださる方が増えています」(みなみさん)

理念に共感し、同じ方向を向いて働ける人材と出会いやすくなったことで、MVVSは採用における一つの指標としても機能し始めています。説明会の場でもMVVSへの共感の重要性を伝えることで、入職後のミスマッチも減ってきているといいます。
「MVVSの策定は、決して簡単なプロセスではありませんでした。ですが振り返ってみると、組織として自分たちの存在意義や目指す姿に真正面からしっかり向き合ってきて本当によかった。
これからは、このMVVSを掲げる法人として、その理念をどれだけ体現できているかが問われていくはずです。そう思うと社会情勢などの外部環境が変化したとしても、どこに向かえばいいのかを示す北極星があることは、これから先の大きな支えです」(和敬さん)
歩みと実践を、言葉に整える〜コンサルタント太田の振り返り〜

和敬会様との取り組みは、採用サイトの刷新という具体的なテーマから始まりましたが、対話を重ねる中で、その背景にある「和敬会とはどんな法人なのか」「何を大切にしてきたのか」という問いに、自然と向き合っていくプロジェクトでした。
児童福祉と高齢者福祉という異なる分野を抱えるがゆえに、言葉の受け取り方や重視する視点には違いがあり、議論が簡単にまとまらない場面も少なくありませんでした。ただ、その一つ一つのやりとりから伝わってきたのは、「より良い福祉を届けたい」「目の前の一人の人生に誠実に向き合いたい」という共通の想いでした。
和敬会様には、これまでの取り組みの中で自然と積み重なってきた考え方や姿勢があります。一方で、その良さが整理された言葉として共有される機会は多くなく、外に伝わりきっていない場面もあったように感じています。ただそれは、何かが足りなかったというより、日々の実践を大切にしてきたからこそ、あえて言葉にしなくても通じてきた部分が多かったのだと思います。
今回のMVVSは、新しい理念を無理に作り出したものではありません。和敬会様がこれまで歩んできた歴史や実践を振り返りながら、今の法人の姿に合う言葉へと整理し直したものだと感じています。そして何より印象的だったのは、策定して終わりにするのではなく、日常の行動や対話の中で「使われる理念」にしようと、時間をかけて工夫と実践を重ねてこられた点でした。
その最初のきっかけをご一緒できたこと、そして和敬会様自身の手で理念が少しずつ息づいていく過程に立ち会えたことを、とてもうれしく思っています。
社会福祉法人 和敬会について
社会福祉法人 和敬会
所在地:愛知県新城市八束穂字天王1032番地の2
URL:https://www.wakyokai.or.jp/
1953年、戦災孤児に手を差し伸べることから始まった社会福祉法人和敬会。「心を、差し伸べる。」という想いを原点に、児童養護施設や高齢者福祉施設を愛知県内で展開しています。利用者一人ひとりに本気で寄り添い、誰もが人生に安らぎとワクワクを感じられる地域社会の創造を目指して、時代に合わせた福祉の挑戦を続けています。
(文/田邉なつほ、編集/Ayaka Toba)