信頼の基盤は「仕事」にあり。常に課題に向き合うマネジメントのあり方(秋本可愛のねほりはほり探訪vol.2-2)

2024/11/19

【目次】

1. 科学的根拠のもと、「断らない」を大切にする
2. 全ての職員が強みを発揮するための組織変革
3. 経営者の知識量に圧倒される
4. 信頼の基盤は、「ひと」でなく「仕事」にある
5. 失敗も多いからこそ、成果には謙虚であるべき

多様性が尊重される時代。他人との考え方や価値観、知識や経験の違いを認め、理解することが重要なのは言うまでもありません。

しかしながら、組織内の世代間ギャップを埋め、いかに適切にマネジメントに取り組むかといった課題を感じている人は多いのではないでしょうか?

高齢者介護や児童福祉、障害者福祉など様々な福祉サービスを展開している、社会福祉法人福祉楽団も例外ではありません。現在500名近くの職員が在籍していますが、「若い世代のマネジメントは難しい」と理事長の飯田さんも課題を口にします。

後編のテーマはマネジメント。組織が一丸となって新しい挑戦を続ける風土をいかに築いていくのか。異なる立場の4人の言葉から、“令和時代のよい組織づくり”の秘訣を探ります。

社会福祉法人福祉楽団
理事長
飯田 大輔 (いいだ だいすけ)

1978年千葉県生まれ。東京農業大学農学部卒業。千葉大学大学院人文社会科学研究科博士前期課程修了。2001年、社会福祉法人福祉楽団を設立、現在、理事長。2012年、株式会社恋する豚研究所設立、現在、代表取締役。千葉大学非常勤講師。介護福祉士。

【事業者について】

社会福祉法人福祉楽団
所在地: 千葉県千葉市美浜区中瀬二丁目6番地1
URL:https://www.gakudan.org/

2001年に千葉県香取市で設立。千葉県、埼玉県を中心に、高齢者や子ども、障害、生活困窮など分野横断的に福祉サービスを展開している。2025年3月に、千葉県習志野市で児童養護施設「実籾パークサイドハウス」を立ち上げる。

科学的根拠のもと、「断らない」を大切にする

社会福祉法人福祉楽団 理事長の飯田大輔さん

福祉楽団では、特別養護老人ホームなどでの高齢者の介護や、障害のある人の就労支援、重層的相談支援など実に多様な事業を展開しています。そうした多様な福祉事業の軸となっているものは何なのでしょうか。

福祉楽団の仕事は、自分で生活を整えることが困難になっている人の生活を整えていくこと。歴史もないし、知名度もお金もない、地域の人と手弁当で始めた『野良』の社会福祉法人です。在野精神とでも言えばかっこいいのかもしれませんが、あえて『野良』と言っています。雑草のごとく、しぶとい実践を重ねています。本当に困っている人が、制度と制度のスキマから落ちてしまうことがないように、『断らない』ことを大切にしています。


「『断らない』ことを大切にしている」。例えば福祉楽団では、他の施設で入所や利用を断られてしまった方を受け入れています。コロナウイルスが猛威を振るった際も、陽性と診断された利用者の対応を行ったそうです。

もちろん私たちが全て対応できるわけではありません。でも少なくない人が、福祉楽団の介護サービスに初めて辿り着いたと言ってくれました。近隣の事業所や行政と連携して、それぞれが持てる力を引き出しながら、福祉楽団ができることはやっていこうと職員と共有していました。最近では、HIV感染者の特養の受け入れも積極的に行っています。科学的根拠と最新の医学的知見に基づけば難しいことは何もないのに、専門職と呼ばれる人たちの知識と感情が更新されないことで排除の構造が生まれているのだと思います。

全ての職員が強みを発揮するための組織変革

そうした実践を着実に重ねていくためには、職員への理念の浸透や、人材育成が不可欠です。

福祉楽団では、20代の職員をマネジメント職に抜擢したり、外国人材を含めた育成体制の強化を図ったりと、人材育成に力を入れています。しかし代表の飯田さんは、自らのマネジメントスタイルに悩んでいると明かします。

自分自身は昭和の価値観、スタイルなんだろうなと感じています。現在新卒で入社しているのは、福祉楽団を設立した当時に生まれたときに生まれた職員です。当然ながらジェネレーションギャップも発生しますよね。でも、目指すべき方向や理念の共有ができれば、必ず伝わると信じています。ただし、自分自身のマネジメントスタイルも更新していかなければ会社の成長はないと感じています。

福祉楽団では、介護職の6割超が平成生まれになったそうです。と同時に、例えば通所介護の利用者の多くは戦後世代になっています。飯田さんは、「コミュニケーションやマネジメントの本質は変わらないが、アプローチをしていく方法、相手の力を引き出していく方法論は大きく変化している」と話します。全ての職員が主体的に動き、それぞれの強みを発揮していくための、組織改革に取り組んでいるそうです。

強みを生かさなければならないということは認識しています。弱みに配慮した人事を行うと、面白くない組織になってしまう。良いマネージャーは、私を喜ぶようなことではなく、仕事をすることの重要性を理解しています。私もよく癇癪を起こしてしまうことがありますが、優秀な人ほど、そんなことは問題ではないということを理解しています。自分とうまくいっているかではなくて、どういう仕事をしているかを問うようにしないと間違ってしまいます。

強みを生かすということは、弱みに目をつぶることとは違う。コミュニケーションの方法は配慮が必要ですが、必要な状況において「叱らない」「指摘しない」ことは、職員の成長機会を逸しかねないと飯田さんはいいます。

事業所のマネージャーにも、職員の課題を明確にして本人に共有するよう伝えています。叱られることで恐怖を感じる必要はありません。本人の成長のためと目的を明確にすることで、人も組織も良くなっていくと思います。

経営者の知識量に圧倒される

「杜の家やしお」で働く山崎莉歩さん(左)と英りまさん(右)

「マネジメントスタイルの変革が必要」と語る飯田さんですが、現場で働く職員はどのように感じているのでしょうか?

入職3年目で課長職に抜擢された英さん。飯田さんのことを「常に数年〜数十年先を見越す経営者」だと話します。

福祉楽団の事業計画には、生産年齢人口など、日本の人口動態を踏まえた内容が盛り込まれています。短期的な人材不足を訴えるのでなく、長期的な視野のもとでICT活用や多様な人材確保を考えていることが伝わってきますね。

業務上は飯田さんと接点がないと話す入職2年目の山崎さん。飯田さんのケアに対する知識量の多さに驚いたそうです。

入職した直後の研修で、飯田が講師を担当しました。新入職員からの質問を、よどむことなく全てに返答していましたね。介護や看護の現場の課題にも精通していて、頼もしいと思いました。

信頼の基盤は、「ひと」でなく「仕事」にある

杜の家やしお 事業部長の石間太朗さん

「飯田は職員に優しく寄り添うタイプではない」と話す英さん。そのことを石間さんに話すと、「杜の家やしお」にマネージャーとして配属された頃のエピソードを教えてくれました。

就任早々、事務所内のトラブルが発生し飯田から叱責されました。私が職場の状況をキャッチアップし切れていない状況のときで、こちらも言い分はあったのですが、人の問題ではなく、仕事を問題にされていることが納得感につながりました。

石間さん曰く、飯田さんのマネジメントは細部にまでわたるそうです。現場にいなくとも、現場にいるかのような指摘がSlackで飛んでくる。時にストレスを感じることもあるといいますが、経営者としての信頼は変わらないと断言します。

確かに、人によっては『飯田は厳しい』と思うでしょう。ただ、経営や人事の判断が仕事を基準にされていることが信頼の基盤です。理想と現実の間で課題を感じ、ギャップを解消しようと自ら動く。飯田にも強みと弱みがありますから、その強みを生かし、得意なことに集中できるように現場の環境をつくることが私の仕事です。

失敗も多いからこそ、成果には謙虚であるべき

この日の昼食はバナナだけ。日々、各地を奔走しているそうです

取材の終わりに、「事業を通じてガッツポーズすることはあるか?」と問うと、飯田さんは首を振りました。

周りが思うほど、福祉楽団は上手くいっていません。マネジメントもケアの質を問うときは定性的にならざるを得ないところがありますから、現状に満足してしまったら、組織の成長や発展も止まってしまいます。最善の決定をしたつもりでも間違っていたこともよくあります。だからこそ、成果に対してはつねに謙虚で、『野良』の法人なんだということを理解していないといけません。変な格式ややり方にハマってしまったら、福祉楽団の持ち味がなくなってしまいますし、地域のためにもなりませんから。

そんな中、飯田さんの希望は若手の職員の存在です。

福祉楽団にも優秀な職員がたくさんいます。特に、現場の職員が学びながら、仕事に取り組んでいる姿は頼もしいですよ。

(編集後記) 秋本可愛より

常に未来志向で明確なビジョンを持ちながら、一つひとつの課題に向き合う福祉楽団。経営を通じて培った圧倒的な知識量を有しているにもかかわらず、現状に満足せず、自らを戒めるように経営に臨む姿は、きっといつの時代にも求められるリーダーの資質だと思います。

終始、福祉楽団の課題を口にしていた飯田さんですが、現場の職員への期待を力強く語っていたのが印象的でした。

入職3年目の英さんは「将来は全拠点のケアをみたい。ケアを通してマネジメントできるようになりたい」と力強く目標を語っていました。福祉楽団としてのスタンスが、しっかりと職員にも引き継がれているのを感じました。

この記事を書いた

堀聡太

株式会社TOITOITOの代表、編集&執筆の仕事がメインです。ボーヴォワール『老い』を読んで、高齢社会や介護が“自分ごと”になりました。全国各地の実践を、皆さんに広く深く届けていきたいです。


イベントのお知らせ

介護・福祉業界の“よいチーム”づくりのためのプラットフォーム「KAIGO HR FARM」の公開を記念し、「KAIGO HR FORUM 2024」を開催します!

本フォーラムでは、「よい組織づくり」をテーマにゲストによる講演を実施。

本記事でご紹介している社会福祉法人福祉楽団の飯田さんにご登壇いただきます。
福祉楽団の”組織づくり”について、より詳しくお話をお伺いできる機会になりますので、ぜひご参加ください!
詳しくはイベントページをご覧ください。