福祉楽団らしさは綺麗事でつくれない。採用も人材育成も“当たり前”を積み重ねていく(秋本可愛のねほりはほり探訪vol.2-1)

2024/11/15

【目次】

1. 必死で学生との接点をつくる
2. 経営者の“丸投げ”にならないように
3. 入職後のギャップは感じない
4. トップへの直談判がきっかけで、課長職に抜擢
5. 誰でもアクセスできる福祉楽団の“ことば”

今回お話を伺うのは、高齢者介護や児童福祉、障害者福祉など様々な福祉サービスを展開している、社会福祉法人福祉楽団。「科学的介護」の実践や農業と林業と福祉を連携して人に留まらず地域をケアする実践など、制度の枠組みに囚われず新たな形で福祉に取り組んでいます。

福祉楽団の取り組みは、行政や教育機関、他事業者からも注目を集めています。社外向けの情報発信や人材採用・育成の「お手本」として参考にされることも多いのですが、理事長の飯田さんは「全てが上手くいっているわけではない」と話します。

福祉楽団が進めているのは、マネジメントスタッフが丁寧に職員とコミュニケーションをとったり、事業の基本方針を言語化したりといった“当たり前”のことでした。失敗と改善を繰り返しながら日々の業務に取り組んでいるといいます。

今回は飯田さんを始め、「杜の家やしお」で働く職員の皆さんに取材をしました。福祉楽団が見据える課題を感じながら、組織づくりのヒントを見つけてください。

社会福祉法人福祉楽団
理事長
飯田 大輔 (いいだ だいすけ)

1978年千葉県生まれ。東京農業大学農学部卒業。千葉大学大学院人文社会科学研究科博士前期課程修了。2001年、社会福祉法人福祉楽団を設立、現在、理事長。2012年、株式会社恋する豚研究所設立、現在、代表取締役。千葉大学非常勤講師。介護福祉士。

【事業者について】

社会福祉法人福祉楽団
所在地: 千葉県千葉市美浜区中瀬二丁目6番地1
URL:https://www.gakudan.org/

2001年に千葉県香取市で設立。千葉県、埼玉県を中心に、高齢者や子ども、障害、生活困窮など分野横断的に福祉サービスを展開している。2025年3月に、千葉県習志野市で児童養護施設「実籾パークサイドハウス」を立ち上げる。

必死で学生との接点をつくるしかない

社会福祉法人福祉楽団 理事長の飯田大輔さん

「ケアを考え“くらし”を良くし福祉を変える」をミッションに掲げる福祉楽団。千葉県、埼玉県を中心に事業所を展開し、2023年度の事業売上は約28億円、2025年3月には千葉県習志野市に児童養護施設などからなる複合型福祉施設「実籾パークサイドハウス」を開設します。

順調に事業を拡大している福祉楽団には、さぞ優秀な人材が集まっているに違いない。

人材採用の秘訣を飯田さんに尋ねると、「うちは採用ができていない」と意外な答えが返ってきました。

採用ポリシーや採用フローを決めて、福祉楽団の理念に共感する人材を採用する。年々、大学生の数は減っていますし、そうした人材をどのように採用していくかは重要な経営課題です。ひたすら説明会を開催して、必死で学生との接点をつくるという地道なことをやっています。


人材育成の鍵を握るマネジメントスタッフ

杜の家やしお 事業部長の石間太朗さん

採用だけでなく、人材育成も長期的な視点が欠かせません。

事業が多岐に渡る福祉楽団では、マネジメントスタッフが人材育成の鍵を握ります。

そのひとりが、埼玉県八潮市にある「杜の家やしお」で事業部長を務める石間さん。120名以上のチームをマネジメントしなければならない重要なポストで、理念や経営方針を自分の言葉にしてメンバーに伝えなければなりません。日々の申し送りや、Slackやキントーンなどを使って現場と情報共有をしています。

事業所の経営成績の報告や課題共有は月1回の経営会議でマネジメントクラスとやりとりを重ねながら、事業所のみならず、法人の経営改善に取り組んでいると話します。

私たちは『人材の育成と定着が法人経営の最重要課題』だといつも確認し合います。特に杜の家やしおは、離職率が全国平均より少し高くなっていますから喫緊の課題です。若く優秀な職員が多い事業所なので、彼らが強みを生かし、介護の仕事を楽しいと感じられるような職場環境をつくるために取り組みを進めなければなりません。

20歳近い年齢差がある若い職員とのコミュニケーションは難しいと話す石間さん。それでも職員との個別面談を地道に重ねたり、入職年次や能力に合わせた研修を実施したりしながら、福祉楽団の理念やケアの考え方を丁寧に伝え、福祉楽団「らしさ」をつくっています。

入職後のギャップは感じない

介護職として働く入職2年目の山崎莉歩さん

では、現場で働く職員はどのように感じているのでしょうか。

大学で管理栄養士の資格を取得した入職2年目の山崎さんは、福祉楽団のケアに惹かれて入職を決めたそうです。

福祉楽団のことは全く知らず、就職サイトでたまたま目に入って応募しました。とはいえ働く想定は全くしていませんでしたね。そんな私だったからこそ、職場体験で事業所を訪ねたときに衝撃を受けました。イメージしていた介護施設の姿はどこにもなく、利用者がまるで“家”で過ごしているような雰囲気だったんです。食器もプラスチックのものでなく、陶器のもので。細部も疎かにしないケアを実践していて、私もここで介護職として働きたいと思いました。

「いつまでも自分らしく安心して生活を送ってもらいたい」。新入社員研修で経営トップの飯田さんが語るケアへの思いは、職員一人ひとりが向き合う日々の業務に反映されています。

また山崎さんは日常業務において、福祉楽団の目指すケアを理解しているユニットリーダーと常に連携しているそう。直接マネージャーとの接点がなくても、入社前に思い描いていたケアを実践できていると話してくれました。

自主性が尊重され、私の『やってみたい』という思いを後押ししてくれるので、とても働きがいがあります。また入職後2ヶ月間はほぼ毎日研修なので、私のように介護の知識がなくても安心して働けると思います。ようやく仕事を覚えてきたところなので、これからはもっと利用者一人ひとりに寄り添ったケアを意識していきたいですね。

トップへの直談判がきっかけで、課長職に抜擢

杜の家やしお 生活支援課 課長の英りまさん

続いて話を聞いたのは、杜の家やしおの生活支援課 課長の英さん。入職3年目にして、管理職に抜擢された英さん。きっかけは、Slackで飯田さんに“直談判”したことでした。

入職2年目で、従来のリハビリ業務に加え、ショートステイのケアワーカーと人事の仕事を兼務していました。色々な経験を積む中で『もっとこうした方が良いのでは?』という思いが湧き、飯田宛にSlackでダイレクトメッセージを送ったんです。その後飯田から、『じゃあ、自分でやってみたら?』と打診があり、現在の職務に就くことになりました。

英さんの行動力も目を見張りますが、そもそも組織の階層を飛び越えたコミュニケーションは、企業によって賛否が分かれるものです。英さんの行動が許容され、しかも課長職に抜擢されることは、福祉楽団の風通しの良さを示した事例といえるでしょう。

生活支援課の課長として、新たな職責を担うことになった英さん。組織のマネジメントを意識するようになって、別の課題に直面しています。

入職前から、私は福祉楽団の理念やケアの考え方に共感してきました。法人が掲げている『ケアのものさし』も大切にして仕事に臨んでいます。ただ現在は、言語化は進んでいるものの、職員の行動レベルには十分に落とし込まれていないと感じています。経験の浅いメンバーが動きやすくなるよう、私も一緒にケアのことを深く考えていけたらと考えています。

誰でもアクセスできる福祉楽団の“ことば”

福祉楽団が毎年発行している、約40ページにもわたる統合報告書。前年度の事業報告と事業計画を兼ねたレポートで、人材戦略の「悩み」も記されています。

レポートに書かれている「対処すべき課題」は全部で6つ。そのうち3つが人材に関する課題です。「組織風土改革」の項目には、組織風土の改革やマネジメントスタイルの改善について言及されていました。

創業から23年が経過し、当法人の「らしさ」が確立されてきた一方で、組織風土のあり方は変わってきたとは言えず、さらに改善をすすめる必要があります。

統合報告書のPDFは、福祉楽団のコーポレートサイトに掲載されており、誰でも読むことができます。離職率や事故、虐待事案などのネガティブな情報もオープンにしている理由を、飯田さんは「そのほうが利用者や職員の適切な判断につながるから」と話します。

統合報告書や事業計画書は、課長職に抜擢された英さんも目を通しているそう。経営者が直接語らなくとも、福祉楽団の“ことば”が伝わっているのだと感じました。

(編集後記) 秋本可愛より
全国の気になる介護・福祉法人のキーパーソンに、株式会社Blanket代表の秋本が“よい組織づくり”のヒントを探る連載企画「秋本可愛のねほりはほり探訪」。今回は社会福祉法人福祉楽団を訪ね、採用や人材育成、情報発信の内実を伺いました。

ステークホルダーが多様な介護・福祉業界において、情報のオープン化は大切なもの。ただコストとリソースを要するため、対応が後手に回ることが少なくありません。

それでも理事長の飯田さんは、「これくらいの規模なら、この程度の情報発信は当たり前」と明言します。この姿勢こそが、福祉楽団が次々と新しい福祉の形を実践する秘訣だと感じました。

後編では、福祉楽団のマネジメントにフォーカスします。経営者の飯田さんをはじめ、マネジメントスタッフが組織にどのような影響を与えているか紹介したいと思います。

この記事を書いた

堀聡太

株式会社TOITOITOの代表、編集&執筆の仕事がメインです。ボーヴォワール『老い』を読んで、高齢社会や介護が“自分ごと”になりました。全国各地の実践を、皆さんに広く深く届けていきたいです。


イベントのお知らせ

介護・福祉業界の“よいチーム”づくりのためのプラットフォーム「KAIGO HR FARM」の公開を記念し、「KAIGO HR FORUM 2024」を開催します!

本フォーラムでは、「よい組織づくり」をテーマにゲストによる講演を実施。

本記事でご紹介している社会福祉法人福祉楽団の飯田さんにご登壇いただきます。
福祉楽団の”組織づくり”について、より詳しくお話をお伺いできる機会になりますので、ぜひご参加ください!
詳しくはイベントページをご覧ください。