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介護の新卒採用を成功させるコツとは?3法人の事例からみる採用の向き合い方 【KAIGO HR FORUM 2021レポート③】

2021/12/24

【ゲスト】

社会福祉法人福祉楽団 サポートセンター人事・総務部 高師利紗氏

社会福祉法人南高愛隣会 企画調整課 課長 松友大氏

一般社団法人日の出医療福祉グループ 人事教育部 企画採用課 係長 大西恵理子氏

KAIGO HRでは2021年10月13、14日、2日間にわたり「KAIGO HR FORUM 2021 ~ニューノーマル時代を戦い抜く、介護・福祉業界の人材戦略~」を開催しました。昨年に引き続きオンライン開催となった今年は、総勢13名のゲストにご登壇いただき、「新卒採用」「SNS活用」「人材定着」「離職防止」など様々なテーマ、切り口から各事業所の取り組みや心がけていることをお伺いしました。ご参加いただいたみなさま、誠にありがとうございました。

さて、レポート第3弾は「【新卒採用】なぜあの介護事業所の新卒採用は上手くいく?! 学生を惹きつける新卒採用のポイント」です。介護・福祉の仕事は、残念ながら学生に人気のある職種ではありません。そんな中でも、福祉系以外の学部からも関心が集まり、新卒採用に成功している3法人の採用担当をゲストに迎え、株式会社Blanket代表の秋本が司会を担当。見えてきたのは、各法人のユニークな採用プロセスや、学生との向き合い方、そして福祉業界に対する想い。新卒採用に悩んでいる採用担当者様は必見です。

秋本可愛代表(以下、秋本):それではさっそく、素敵な3法人のお話を伺ってまいりたいと思います!

事例① 社会福祉法人 福祉楽団 『学生の好奇心に応えるーハートを掴む採用プロセス』

高師利紗氏(以下、高師):社会福祉法人 福祉楽団で新卒採用を担当している高師と申します。福祉楽団は、千葉県と埼玉県で高齢者事業を中心に障害・児童などの分野でも事業を行っています。

秋本:まずは福祉楽団さんの新卒採用の概要、採用プロセスを教えてください。

高師:私たちの採用プロセスは大きく4つのステップで構成されています。最初のステップは会社説明会。いきなりなんですが、実はこの説明会がポイントです。学生への負担もすごいかなと思うんですが、5~6時間のプログラムで実施しています

秋本:5~6時間!? そんなに長時間の説明会ってなかなかないですね(笑)

高師:そうなんです(笑) もちろん見学も含めての時間設定ですが、会社理解を深めてもらうためにこの形式になりました。次のステップが現場職員を交えたオンライン座談会、3ステップ目で人事担当と1対1のカジュアルな面談。そして最後、4ステップ目が役員との個別面談になります。

もうひとつこだわってるポイントは、この4ステップの途中では合否を出さないことですね。理由は二つあって、短い面談やグループワークでは、必ずしも学生のことを理解しきれないことが一つです。もう一つは、プロセスを踏むごとに学生自身の志望度が醸成されたり、事業理解が進んだり、理念の共感に繋がっていくということがあります。また、こちらから落とさないとはいえ、働き方や勤務地などのリアルな部分ももちろん伝えていくので、自然に離脱していく学生もたくさんいます。いいところだけを見せるのではなく、私たちの価値観に対して「一緒にやっていきたい」という想いを育てていくようなプロセス設計をしています。

秋本:なるほど、ありがとうございます。最初の会社説明会の時間設定はやっぱり驚きですね。よくあるのは、手軽に20~30分オンラインで簡素化して人数を集める手法だと思います。5時間も行うとなるとどのくらいの人数が参加されるんですか。

高師:今年でいうと、学生はリアルとオンラインのどちらでも参加することができたので、併せて170~80名ぐらいの学生の方が来てくれました。

秋本:おぉすごい! 170~80名を集めるためにどういう集団形成を行ってらっしゃるんでしょうか。

高師:合同説明会への出展と会社説明会前のインターンシップが主な集団形成ですね。去年は、30~40名ぐらいがインターンシップをきっかけに採用選考に参加してくれました。

秋本:なるほど。それらでは何がフックになっているんでしょうか。

高師:そうですね、”好奇心に応える”ということのを意識しています。学生と話す中で感じたのが、「会社の考え方や取り組みを”できるだけ見たい、知りたい”」という好奇心を持っていることです。なので、その好奇心に応えられるようにプログラムを充実させています。例えば、施設の見学先を1か所だけではなくて2~3か所用意したり、若手からマネジメント層までさまざまな職員と話せる座談会をセッティングしたり。合同説明会で声をかけてきてくれた学生には、「こんなプログラムがあるよ」「こっちのコンテンツが合うかもしれない」とその人に刺さりそうなアピールポイントを考えて話をしています

秋本:「この学生には、このコンテンツ」というアピールポイントがたくさんあると思うんですが、福祉楽団さんの考える“この学生”という人物像、ターゲット像はありますか。

高師:大きく3つぐらいにわけて想定しています。1つ目は、福祉系の学部で学んでいて、学校外でも自主的に活動をしているような意欲的な学生。2つ目は、福祉系の学部で学んでいる一般的な学生。3つ目は、福祉系の学部ではない、かつ、選択肢に福祉もない学生。ただ、人と関わるのが好きだったり地域貢献に興味を持っていて、私たちの仕事との共通項を見出せそうな想いを持っている学生、という3パターンです。それから、ほんとうに基本的ななことなんですけど、「誠実さ」や「当事者への情熱」といった、マストで持っていてほしい要件も整理しています。

秋本:学生に対して情報を出していくためには、やっぱりターゲットの整理も必要になるんですね。

事例② 社会福祉法人 南高愛隣会 『面接のフィードバックー泥臭く、学生と向き合っていく』

松友大氏(以下、松友):社会福祉法人 南高愛隣会の松友と申します。長崎県で障がい者福祉を中心に事業を行っています。

秋本:では、南高愛隣会さんの採用プロセスや戦略について教えてください。

松友:はい、まずは会社説明を1時間程度行います。私たちはサービスがいろいろあるので、学生の興味のある分野ごとに各サービスの若手職員や役職者とオンラインで説明会を設定します。そのあとは選考面接で、管理職、理事長と面接、という流れです。

面接のときにポイントがあって、ここが他と変えてるところですね。それが、管理職との面接の前後で、学生と1対1で面談をします。面接前には福祉楽団さんのようにカジュアルな面談、面接後には、面接を担当した管理職からフィードバックの機会を設けています。「ちょっとここがわかりづらかった」とか、「もう少しこういうふうにするといいんじゃないか」っていうアドバイスをすることを去年から始めています。

秋本:へえ! ちなみにそのフィードバックの機会を設けられている意図ってどういうところにあるんですか。

松友:きっかけは去年、オンライン面接で緊張のため泣いてしまった学生がいたことです。それを無視できなくて、「なんで不安だったのかもう1回確認しよう」というところがはじまりでした。

私たちは面接の質問を定型で決めているんですが、そうすると答えに対しての掘り下げが難しい部分もでてきます。でも1時間ぐらいフィードバックの時間を設けると、そこでさらに学生の話を聞くことができたり、人となりがわかったりします。それから学生にとっても、面接をした人が返してくれる機会はなかなかないと思うので「ありがたかった」というような感想もよくいただきます。オンラインに切り替わったことで、このように学生と接点を多く持つことができたので有効でした

秋本:対面の採用と違ってオンラインになると学生が来ない・集まらないって悩んでいる法人もいらっしゃると思います。他にも接点をもつ工夫ってあったりしますか。

松友:リアルでどれだけ足を運べるかっていうほんと泥臭い話になりますね。採用者すべてを採用サイトや合同説明会に頼るのは難しいです。学生にとっては先輩がいるかいないかっていうのは大きなポイントなんです。

だからこそ、職員にOB訪問をしてもらうようにしています。各自が出身の大学に行って話をしてもらうことで、法人うちのことを知ってもらう。顔を知ってもらえるようにする。リアルでの付き合いがあるとやっぱり応募のしやすさも変わります。長崎県内の人を固めたうえで、県外の人や興味がある人をオンラインで獲得していく、というのが大きな戦略ですね。

秋本:リアルとオンラインをうまく使い分けるのはとても参考になります。

松友:他にも、例えば福祉系の大学だと実習があったりしますよね。実習担当者と採用担当者で情報が共有出来ていないということもあります。大学での実習の報告会にもまめに参加して大学との関係を作る。法人の中に大学や専門学校の講師をしている人もいる。もともとある学校との接点を最大限に活かしていくということが大切だと感じます。

秋本:ターゲット設定についてはどのようにしていますか?

松友:細かいグループに分けて戦略を立てています。福祉を学んでいる有資格者か、無資格者か。それから長崎県内か、県外か。福祉に興味はあるのか、社会貢献をしたいと思っているのか、といったような分類をしたうえで、それぞれに何をPRしていくかまで整理しています。グループに分けて考えることで、慌てずに目標にアプローチできると実感しています。

みなさんがよく悩まれる男子学生についても、男性に響くものと女性に響くものはちょっと違うかなと考えます。介護男子スタディーズというプロジェクトがありましたが、例えば身体を動かすことが好き、公務員は難しいけど地元で安定して働きたい人をターゲットにするとか。ターゲット像をきちんとずらすことが大切だと感じますね。

事例③ 一般社団法人 日の出医療福祉グループ 『「介護っぽくない」―私たちが理念の体現者になる』

大西恵理子氏(以下、大西):一般社団法人 日の出医療福祉グループで今年度の新卒採用をさせていただいております大西と申します。日の出医療福祉グループは、兵庫県を中心に医療・介護・保育・障がいの事業展開を行っているグループです。

秋本:日の出医療福祉グループさんの新卒採用プロセスを伺えたらと思います。

大西:採用プロセスはちょっと長いんですけど、最初が合同説明会。それからインターンシップ。まずは1dayで、これが大体4時間ぐらいになります。それから次に2dayで、丸々2日間かけて行います。

大西:それからAI面接っていうのを設けてるんですけど

秋本:AI面接!? AIが面接するんですか(笑)

大西:そうなんですよ(笑) 対人間だとなんとなくでも納得してくれると思いますが、AIってほしい答えが返ってくるまで何回も質問されるんです。ちょっと辛いですが、面接のトレーニングという意味も含めてAI面接をしてもらって、そこでフィードバックも行います。

そのあとに会社説明会を2~3時間、そして今度は、ギフトっていう体感型説明会をします。簡単にいうと会議室で現場のことを体験してもらうようなイベントよりの説明会です。これ、参加者のみなさんも感動して涙を流してくれたり、私も大好きなイベントなんです。それからリアルの見学会、先輩社員との座談会と続いて、選考の1次面接、2次面接、内定、内定者フォローという流れになります。プロセス自体はすごく長くて、入社まで1年半ぐらいかけてやっています。

秋本:すごく面白いですね! プロセスの中で福祉に関心が薄い、福祉とは関わりのない学部の方たちに対してはどのようにアプローチをされてますか。

大西:これはなかなか難しくてですね。私たちもあまり特効薬みたいなものを持っているわけじゃないんですけど、一番意識してるのは最初に会った瞬間から入社までずっと印象を変えないようにしています。ずっと同じことを言い続けるっていうんですかね、私たち法人側がブレないようにしています。

秋本:なるほど。

大西:私たちが学生に求めているのは理念に共感している、理念を体現していること、なんです。だからこそ、まずは私たちが理念の体現者となって常に体感してもらう、というのを意識しています。本気で学生ひとりひとりと向き合う私たちの姿が理念とリンクして、「自分が大事にされてる」という実感を持ってもらう。言葉じゃなくて実感として体験してもらうような感じです。

あとは、福祉に関心の薄い学生だと福祉に対してのイメージがマイナスな人もいます。でも、それって知らない、触れてないのが原因だと思うんですよ。未知の世界で関わったことがないっていうんですかね、印象がないところから始まります。なのでまずは、学生がもっているイメージをいい意味で壊しにいく。よく言われるのが「優しい人が多そうだけど大変で、自己犠牲を払ってそう」「すごい良い人の集まりだけど自分はできない」みたいな。おそらく福祉って色でいうと、パステルカラーのイメージをもつ学生が多いんです。そんな印象をがらっと変えるために、私たちは合同説明会のブースを真っ黒に装飾しています(笑)

これは興味を惹くための戦略です。他にも優しくて穏やかな人が多そうというイメージを持っているから、元気ではつらつな人を前に出したり、「挑戦」というぱきっとした言葉を使うようにしたり。インパクトを持ってもらうアプローチをしています。だからか「介護っぽくないですね」「福祉に対して印象が変わりました」ってよく言われます。

それからインターンシップでも工夫していることがあります。それは、福祉の話を一切しないで、自己分析を中心としたプログラムを組んでいることです。

秋本:1day、2dayどちらのインターンシップも自己分析がメインなんですか。

大西:そうです。なんでかっていうと、学生さんがまだ聞く体制になっていないら。福祉に関心がない学生にいきなり福祉の話やグループの話をしても、もちろん無駄ではないんですけど、聞く体制になっていないと考えています。じゃあそんな学生たちが一番必要としてるのは「就職活動がうまくいって、社会人人生を楽しく歩みたい」という漠然とした思いに応えてくれるもの。だから就職活動に役立つ自己分析をメインプログラムにしています。まずはそのニーズに応えていく、というのがうちのインターンシップのコンセプト。サービス業的にいうと、先にWinを与える感じです。

秋本:なるほど。以前、人事がどれだけ向き合ってくれたかで進路を決めたという話を学生から聞いたことがあります。労力はすごくかかってしまうけれど、その結果として辞退率を下げたり、ちゃんとマッチする人が採用されてたりするんだな、とお話を伺っていて思いました。

新卒採用で大切にしていることー福祉業界と真摯に向き合う

秋本:では、新卒採用で一番大事にしていることはなんでしょうか。

高師:そうですね。この2、3年はまだまだ勉強中なんですが、当初はターゲット像がとても曖昧だったなと感じます。なんとなく良い人がいい、コミュニケーション能力があって明るい人がいい、みたいな。でもよく考えるとそれってすごく難しくて。

冷静になって考え直すと、「これは譲れない、でもここは妥協してもいい」っていう条件があることに気づきました。だからまずは自社の条件をちゃんと見直すことが大事だと思います。もちろん学生さんの中でもいろいろと条件があると思うので、お互いに向き合いながら一緒に見つけていく。お互いの条件がちゃんとマッチしていくようにアプローチする。ちょっと遠回りですけど、これが一番正攻法かなってここ最近は感じています。

松友:僕はふたつあります。ひとつは、何の分野で他の法人や他企業に勝つかっていうところを整理すること。理念なのか、働きやすさなのか、それぞれ自分たちの法人の強みがあると思います。自分たちでは気づいていないことも多いので、他の法人との情報交換はすごく有益です。

もうひとつは、採用活動を通して業界のファンをどう作っていくかという視点を持つこと。自分たちの法人に来なくても、業界全体の魅力の向上に繋がることを目指せば、将来的に自分たちの法人に来る人を増やすっていうことになるんじゃないかなと思います。

大西:採用っていろんな戦略があると思うんですけど、法人側が完璧でなくてもいいと私は思います。結局は人対人なので、挑戦したり失敗したり悩んだりして全然いいと思います。私も担当当初、合同説明会に出ると数人にしか来てもらえないこともありました。ただ学生はそんな私たちの働く姿勢とか、背中、表情を細かく見てるんですね。

だからこそ私たち自身が福祉を好きになったり、自分の会社の良いところも悪いところも認めて好きになるのが一番大切だと思います。他業界と迷ったときに福祉業界を選んでもらえるかどうかは、私たちの働く姿勢かもしれない。福祉業界をもっともっと楽しい業界にするために、それが学生へ届けばいいなって思っていますね。

秋本:みなさん、ご参加いただきありがとうございました! 

KAIGO HR FORUM 2021最初のセミナー、「【新卒採用】なぜあの介護事業所の新卒採用は上手くいく?! 学生を惹きつける新卒採用のポイント」をお送りしました。新卒採用は学生だけでなく福祉業界そのものと向き合っていくこと。3法人のみなさんが実践していることや、大切にしていることに思わず胸が熱くなりました。ゲストの高師様、松友様、大西様、誠にありがとうございました!

(文/田邉なつほ)

【ゲスト・登壇者プロフィール】

社会福祉法人福祉楽団 サポートセンター人事・総務部 高師 利紗 氏

1994年 神奈川県生まれ。国際基督教大学教養学部公共政策メジャー卒業。就職活動中、介護や障害者就労支援に興味をもつ。特にHRの視点から介護・福祉にアプローチしたいと考え、2018年福祉楽団に入職。高齢者介護を1年間経験し、2年目からは人事部配属となる。現在は新卒採用担当として戦略立案から運営まで採用全般に従事。介護や福祉の魅力を伝えることを大切にしながら、全国から年間約20名の介護職員を採用している。

社会福祉法人南高愛隣会 企画調整課 課長 松友 大 氏

1980年東京都生まれ。南高愛隣会に入社後、罪に問われた障がい者・高齢者の研究事業を担当。福祉のソーシャルアクションの醍醐味を知る。その後総務企画部に移動し、障害者虐待防止法の行政窓口を担当。現場を支えるガバナンスの重要性を痛感、以後人事制度構築、ブランディング、ICT導入などの組織づくりに取り組む。採用業務は2015年から担当。

一般社団法人日の出医療福祉グループ 人事教育部 企画採用課 係長 大西 恵理子 氏

産まれも育ちも兵庫県。大学卒業後、夢であった鍼灸師として人を元気にするために治療に従事。地域の患者様の様々な悩みに向き合ってきた。その後、福祉に携わる人たちを元気にしたいと介護、保育の現場を実際に経験した後、社会福祉法人の人事として勤務。現在は日の出医療福祉グループの新卒採用を中心に日々学生と向き合う。また地域での講演会や大学や専門学校、高校、での授業なども行っている。

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