元気な職場を作るリーダーの極意―苦しんだあのとき、ある一言で気づけた上司と部下の関係性【KAIGOHR FORUM2021レポート④】
2022/01/12
【ゲスト】
社会福祉法人敬心福祉会 千歳敬心苑施設長 山口晃弘氏
著書『介護リーダー必読! 元気な職場をつくる、みんなを笑顔にする リーダーシップの極意』
「リーダー」と聞いて、あなたはどんな人を想像するでしょうか。
みんなの先頭に立ち、チームを導く存在。部下を指導する見本となる存在。
あるときは、陰からチームを支える縁の下の力持ち。ときには、厳しい決断を迫られることも。
もし明日、「リーダーになって」と言われたらあなたはどんなリーダーになるでしょうか。
レポート第4弾は「【人材育成】みんながいきいきと働く介護現場に⽋かせないリーダーのあり⽅とは?」です。
世田谷区にある特別養護老人ホーム千歳敬心苑で施設長を務める山口晃弘氏をゲストに迎え、リーダー論についてお話を伺いました。山口氏は、2021年2月『介護リーダー必読! 元気な職場をつくる、みんなを笑顔にする リーダーシップの極意』(中央法規出版)を刊行されました。
元プロレスラーアントニオ猪木氏を彷彿とさせる真っ赤なタオルを首に巻き、「元気ですかー!」の掛け声で始まった本セミナー。
リーダーに求められる素質、みんながいきいきと働ける職場作りのポイント、山口さんの経験から見えた実践術をお伝えします。
人はどのようなリーダーについていきたいと思うのか?
みなさん、元気ですかー!
ご紹介にあずかりました、東京都世田谷区にある社会福祉法人敬心福祉会 千歳敬心苑で施設長をしております、山口と申します。
さっそくですが、リーダーの話の前に、まずは“マナー”について話をします。僕は、『キングスマン』という映画が好きなんですが、「マナーが人を作る」というサブタイトルがついています。
リーダーをしていると、自分より年上の後輩や、自分より経験の長い人が部下になる可能性もあります。まずは誰に対しても常に敬意を忘れないこと、ルールを守るといった当たり前のことが大切です。それらができていないと、いくら指示を出しても、職員のみなさんは「あなたに言われたくないよ」という気持ちになってしまいます。
いち社会人として、いち大人として、身に着けておかなければならない マナーは、 ①言葉遣い・態度 ②容姿・身だしなみ ③コンプライアンス ④礼節 の4つです。最低限これらを身に着けておきましょう。
では改めて、人は、どのような上司やリーダーについていきたいと思うのでしょうか。
僕が考えるのは、【自分を価値ある存在として認めてくれる人】【尊敬できる人】です。
現代社会では、承認欲求が強い人が増えている印象があります。「リーダーは、自分のことを必要な存在だと考えてくれているのかどうか」を気にして働いている方が多いようです。加えて、尊敬できない人のもとで働くというのは、働いているみんなにとってもつらいものがあります。
アメリカの経営コンサルタント、スティーブン・R・コビー氏の名言に「問題は自分以外にあると考えるならば、その考えこそが問題である」という言葉があります。うまくいかない原因は、人や環境といった外部ではなく、自分自身にあると考える姿勢を持ちましょう。
今日のセミナーではこの2つを一体どうやって実践していくか、具体的にお伝えします。
リーダーがするべき5つの基本姿勢
リーダーのするべきスタンダード、基本姿勢5つを紹介します。
①挨拶は、明るく・元気に・誰にでも・先に
僕は、千歳敬心苑に入職して5年半ぐらい経ちますが毎日、全利用者さん、全職員みなさんに挨拶して回っています。「おはようございます」と言うだけではなく、最初のように「元気ですかー!」とも言っているんですね(笑)もちろん最初のうちはびっくりされましたし、「よくやるよ」「パフォーマンスだろ」というような意見もたくさんありました。ですが、僕はこれを5年半毎日続けて、だんだんと「あの人はいつも楽しそう」と言われ始めました。まずは根気よく、長く続けることが大切です。
それから、「明るい」「元気」というのもとても大事な要素です。職員のみなさんにはそれぞれ感情があって、相性の良し悪しがあると思います。現場には「混ぜるな危険!」コンビもあるでしょう。だからといって、コミュニケーションをとらない、会話もない中で働いているとだんだん空気が重くなります。
こういったとき、その空気を切り裂くようにリーダーが登場する。そのときに必要なのが明るく元気であることです。リーダーは空気を読む存在ではなくて、空気を変える存在であってほしい、と僕は思います。
②率先垂範―業務分担は大変な方を選択する
もしかしたら、リーダーが大変な思いをしていたら損しちゃうと思う方もいるかもしれません。ですが長い目でみると、大変な方を選択したお返しがいつか必ず帰ってきます。
阪急電鉄の創業者、小林一三氏は『もし下足番を命じられたら日本一の下足番になりなさい。そうすれば、誰も君を下足番にはしておかない』という言葉を残しています。人が嫌がる仕事を命じられたら、それをいやいややるのではなくて、「日本一になってやろう」という思いでやる。すると人が必ずそれを見ていて、いつまでもその仕事をやらせておかないという意味だと僕は考えています。人が嫌がること、辛い仕事を率先してやっている姿勢というのはみんなに必ず伝わります。
③コーディネート―1日の始まりは相談と指示をする
実は、相談→指示の順番が大切なんです。早番であれ、遅番であれ、職員のみなさんが出勤したときにリーダーからの会話がなく業務に入っていくようではいけません。「今日はどうする?」「何をしようか」「今日は何があったっけ」と相談をすること。そのうえで、「じゃあ今日はこれをしましょう」「あれを先にしましょう」という指示をします。
なぜ順番が大切かというと、相談が抜けてしまうと指示をするだけのリーダーになってしまいます。必ず相談してみんなに聞いたうえで、指示を出すリーダーが愛されると思います。
④勤務表にみんなを参画―介護職は勤務表が大好き
介護職のみなさんは、勤務表が大好きで、すごくよく見ています。誰が休みをとっているのか、自分の出勤のときは誰と一緒なのか。介護職のみなさんにとって勤務表というのは愛読書かもしれません(笑)
ですから、リーダーが一人閉じこもって、黙々と勤務表を作るというのはもったいないですね。来月のイベントの予定を一緒にたてたり、入居者さんのお誕生日で職員の配置を組みなおしたり、そういった具体的なことを作る段階でみんなに相談する姿勢というのは、とても大切です。職員のみなさんにとっても、1番の関心ごとである勤務表に参画させてもらえるのは、とても嬉しいし、納得のいくことだと思います。
⑤職員の情報を把握―優しい人を待っているのは、ご利用者だけじゃない
たとえば職員の誕生日を覚えておく、子育て中の職員がいる、親御さんの介護で大変な思いをしている職員がいる、そういったことを把握しておくことが大切です。それらに対して何かできるわけじゃないかもしれませんが、労いの言葉をかける、お誕生日のお祝いをする、お手紙を渡すといったアクションはできます。そうすると相手は、「自分のことを気にかけてくれている」という気持ちになります。優しいリーダーを待っているのは、利用者さんだけじゃなくて、職員も同じかなと思います。
リーダーがするべき4つの行動
次はスタンダード2段階目として4つのものをあげます。
①褒め上手になろう
基本的に、褒めて伸ばしたほうが人の成長は早いと思います。ただですね、褒めて伸ばすといっても褒められて嬉しいリーダーにならなくちゃいけないと思います。その具体策として、まずは褒め上手になりましょう。できるだけ、人の細かな良いところを見つけて褒める習慣をつける。
たとえば、「介助をしていたときに利用者さんがいい顔をしていたよ」「あのときすごく助かったよ」などです。そういった細かいところを気にかけていると「リーダーは細かいところまで見てくれている」という印象を与えます。まずは細かいところに気づくトレーニングをしてみてください。
②「おはよう」の後に何と言っていますか?
さきほどもお伝えしましたが挨拶はとても大切です。ですが、1番ルーティン化しやすいのも挨拶です。そこで、挨拶をしたあとに一言付け加えるだけで毎日の挨拶に変化を加えることができます。「おはようございます」のあとに「最近調子どう?」「休んでいたけど具合はどう?」という感じです。あとは、挨拶の前に「〇〇さん、おはようございます」と名前をつけるのもいいかもしれません。すごく素朴で小さなことですが、意外にこういったことが人に印象を与えるような気がします。普段からの小さなコミュニケーションが大切です。
言葉や態度にしないと伝わらないことがあるので、僕は思ったこと、「好きだ」という気持ちは言葉にして相手に伝えるようにしています。もちろん最初は笑われて、照れちゃいますけど、きっと相手に伝わると思います。
③360度評価をしよう
簡単にいうと、全職員から評価をしてもらう、というものです。実際に僕も施設で取り入れています。職員全員から、「どんなリーダーが好きか」「どんなリーダーについていきたいか」という聞き取りをして、それをシートにまとめます。そして、四半期ごとに職員みなさんにシートを配って、僕がどれだけ達成できていたかを5点満点で評価してもらいます。僕は今、千歳敬心苑の7事業のリーダーを担当しているんですけど、やっぱりどうしても目が行き届かないところもあります。そうすると、職員のみなさんとても素直に僕のことを評価してくれて、正直0点をいただくこともあります。
ただ、リーダーがこうして、全職員の意見を取り入れ、評価してもらって改善すべきところは改善しようという思いを持つことが大事です。おかげ様で僕自身も、評価が低いところは意識できますし、今ではかなりいい点数をキープできています。こういったことをするのはとても勇気がいるかもしれません。ですが、まずはチャレンジしていく姿勢を見せるということが大事なんじゃないかなと思います。
お話した詳しいシートは著書にありますので、お読みいただけると嬉しいです。
⑤リーダーは介護を語れるか
「介護」という商品・サービスをリーダーが自信をもって語れるか、というのも大事な要素だと思っています。アップルのスティーブジョブズ氏も、Facebookのザッカーバーグ氏も、マイクロソフトのビルゲイツ氏も、みんな自分の会社の商品・サービスをこよなく愛しています。だからこそ語れるし、自分の考えを明確にしているから、その考えに共鳴した優秀な人材が集まってくるように思います。
僕たちの施設で考えた介護というのは、「いきいきと生活することを支援する」です。高齢になるとやりたいことがあってもできない、行きたいところがあっても行けない、会いたい人がいても会えない状況になってしまいます。ですが、そこで登場するのが私たち介護職です。やりたいこと、行きたいところ、会いたい人への道を支援する。その人自身の生活を維持することもそうですが、その人らしく生きるための尊厳も守っていくのが介護だと思っています。
僕が昔からいっているのは、介護をローマ字表記にすると「K A I G O」になりますよね。真ん中に“I”という文字があります。これはご利用者さん本人、私という意味での“I”と、愛するという意味の“I(=愛)”が真ん中にある。介護で大事なのは利用者さんを真ん中に据えたマネジメントであり、愛情のある介護だと思います。
ところが、この“I”がなくなってしまうと「K A G O(=かご)」になってしまいます。利用者さんを無視して、職員主導の介護になってしまい、施設というかごの中に閉じ込めていることと一緒になります。このように僕は考えているので、ご利用者さんを中心に、愛のある介護をしていきたいと思っています。
これ、流行らせたいんですが、なかなか流行らないですね(笑)
上司と部下は相互関係-信じて頼る
ここまで話してきましたが、当然僕も、最初からこれらに気づいていたわけではありません。入職してから5年半の中で、ほんとうにいろいろな苦労がありました。
入職初日に「元気ですかー!」とやって興ざめされてしまったこともそうですし、その直後に、ある男性職員から「俺はあんたのことを絶対に認めない」って面と向かって言われちゃったんですね。最初はもちろん落ち込みました。ですが、今では僕の右腕のように一生懸命働いてくれています。
施設長に就任してからは、「理想の介護施設を作りたい」「ご利用者さん思いの介護がしたい」という強い想いから、周りが見えなくなってしまったこともあります。職員のみなさんをかなり厳しく注意して、指導をしました。その結果みなさんが僕に反発するようになって、少しずつ僕と職員の関係が悪化。これをきっかけに職員がどんどん辞めてしまって、それを見た職員がやる気を失ってさらに辞めていく。そういう負の連鎖が起きました。
ですが、このときの僕には負の流れを止める術がなく、表面上は「弱いところは見せらない」という思いから強気な態度でいたんです。だけど内心はドキドキ。恐怖を感じながら出勤していました。最終的には「施設長、もう来月のシフトが組めません」と言われて、運営ができないほどに追い込まれてしまったんです。
そんな状況の中、プライベートでも問題が起きました。妻の両親の介護や病気、僕の両親のうつ病の発覚……もうこれから先どうしていいかわからなくて、自分にはどうにもできない。そんなふうに思いました。でも僕は施設長で、会社に行かなければならない……。
ある時ほんとうに苦しくて、ようやく決心して職場の中でもっとも信頼している6歳年上の課長さん(写真右)を呼んで話をしました。
「僕は今から、今までの人生の中で、一度も言ったことがない言葉を言います。人生で絶対に言いたくはないと思っていた言葉を言わせてください」
そう言って初めて「助けて」と声にだしました。
課長はすごく泣いていたんですけど、「はい」と言ってくださって。その日を境に課長は「こちらで対応します」「私がやります」と、それまで以上に積極的に業務に向き合ってくださいました。「僕がやります」と言っても、「施設長は最後の砦です」といってとにかく僕に責任を取らせない、自主的に動くスタンスに変わったんですね。この課長の姿勢、助けてくださったことを通して、僕はこれまでの自身の行いを反省すると同時に、間違っていたことに気づきました。
それは、部下や仲間を信頼すること。信じて頼る。僕は施設長として部下を育てる立場なので、絶対的な強い人間でいなければならないという風に思っていたんです。でも、「信じて頼ること」こそが上司と部下の健全な関係だと今なら思います。
一生懸命頑張ることは大切です。でも、なんでもかんでも一人では絶対にできない。利用者さんの尊厳を守る仕事だからこそ、まずは職員同士の尊厳を認め合って、守って、相互関係を作っていくことがリーダー・管理職には必要なんだと思います。
それでは最後に、介護現場の平和を祈って……1、2、3、ダァーッ!
幼い頃からヒーローに憧れていたという山口さんのお話は、介護業界に対する眩しいほどの愛と優しい強さにあふれていました。身体の自由がきかなくなってしまったご高齢の方が、介護を通して「まさか私の人生にまだこんなことが」という喜びをもってほしい、そんな晩年を過ごしてもらうことをミッションに、介護現場の最前線を駆ける背中を見せていただきました。多くの経験があるからこそ見えたその教訓を著書としてみなさまにも発信しています。ぜひご覧ください。山口様、本日は誠にありがとうございました!
(文/田邉なつほ)
【ゲスト・登壇者プロフィール】
社会福祉法人敬心福祉会 千歳敬心苑 施設長 山口 晃弘 氏
介護福祉士、介護支援専門員。1971年、東京都生まれ。高校卒業後、設計士、身体障害者施設職員を経て、特別養護老人ホームに入職し、介護職・生活相談員を務め、その後グループホームの管理者となる。 現在、社会福祉法人敬心福祉会 千歳敬心苑の施設長。著書に『最強の介護職、最幸の介護術』(ワニブックス、2014年)『介護リーダー必読!元気な職場をつくる、みんなを笑顔にする リーダーシップの極意』(中央法規出版、2021年)がある。
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