“人を集める”から“想いに共感する人と出会う”へ。鉄道弘済会・弘済学園がつむぐ未来の採用
公開日:2025/10/01 更新日:2025/10/02

中長期的な視点で採用力を高めていくためには、「なぜ採用を行うのか」「どのような人に働いてほしいのか」といった採用の目的や求める人物像を明確にすることが欠かせません。しかしながら、人手不足が深刻になる中で「とにかく人を採る」といった短期的な採用に頼らざるを得ない場合もあるでしょう。
公益財団法人 鉄道弘済会が運営する総合福祉センター 弘済学園も、こうした課題に直面していました。24時間体制で知的障害や自閉症のある子どもたちと向き合う現場で、採用の軸が定まらないまま人材を集める難しさを抱えていたのです。
そこでBlanketとともに約1年かけて採用戦略を再設計。求める人物像や役割を改めて言語化し、採用サイトやパンフレットを通じてその魅力を発信することで、採用数にも成果が表れはじめています。「募集枠がしっかり埋まるようになった」という変化も生まれました。
今回は、法人本部で採用を統括する山本さん、弘済学園の職員採用を担う戸田さんに、採用支援が始まったきっかけや、採用支援のプロセスについてお話を伺いました。

【お話を伺った人】
公益財団法人 鉄道弘済会
左:社会福祉部 運営グループ 戸田 葵さん
右:総務部 人事グループ 補佐 山本 幸さん
「このままでは現場が立ち行かない」採用課題に危機感を抱いた
公益財団法人 鉄道弘済会は、その名にある通り、1932年に鉄道省によって設立された法人です。
もともと、鉄道の連結作業などによる事故で、けがを負った職員とその家族を救済・援助する目的で設立されました。その後、社会の変化に合わせて、義手・義足の製作、全国24カ所の保育所・認定こども園の運営、高齢者福祉施設の運営など、幅広い公益事業を展開しています。
こうした多様な事業展開の一つに、神奈川県秦野市に拠点を構える総合福祉センター 弘済学園があります。ここでは、知的障害や自閉症のある子どもたちを対象に、福祉型障害児入所施設や児童発達支援センター、放課後等デイサービスなど、包括的なサポートを提供しています。24時間体制の療育支援を通じて、生活支援・学習支援を重層的に行ってきましたが、近年は採用面で課題が浮上していたと山本さんは話します。

「これまで新卒採用を中心に行っていましたが、人材確保が難しくなってきていました。応募が減少し欠員が埋まらず、次年度での採用人数も減ってしまう、という悪循環が続いていて。このままでは現場が回らない、という危機感が高まっていたんです」(山本さん)
そこで現場にも採用を担当する管理職ポジションを設け、本部の採用担当とともにチームになって採用力の強化を目指しました。しかし、戸田さんはその体制づくりに苦労があったと語ります。
「現場の若手職員は支援業務と兼務して採用活動に協力してくれていたため、どうしても目の前の子どもたちの支援が必然的に優先され、採用に関する仕事は後手になってしまっていました。本部側も現場の多忙さを理解していたので、なかなか『採用に本腰を』と伝えることも難しく、進捗や課題がうやむやなまま採用活動が進んでいたんです」(戸田さん)

とはいえ、人手不足の状況のままでは現場も疲弊してしまうことから、現場の魅力を伝える手段として、採用動画の制作に取り組むことに。依頼先として選んだのが、介護・福祉業界の採用支援に強みをもつBlanketでした。
「動画制作にあたってBlanketさんと打ち合わせを重ねる中で、『どういった強みを動画で打ち出したいのか』『どのような人材にきてほしいのか』と、試験的に採用コンサルティングを受ける機会がありました。その中で、私たち自身も気づいていなかった採用課題を言語化していただいたんです」(山本さん)
鉄道弘済会の採用課題は大きく3つあり、採用においての体制づくりとノウハウの少なさ、応募者の母集団形成ができていないために効果的なPRができていないこと、そして育成において定着率が低いことが挙げられました。
課題を見て、山本さんは「ズバリだった」と言います。
「Blanketさんからの指摘は、まさにその通りでした。本部にも現場にも、それぞれの思いがある一方で、遠慮が生まれ、課題が表に出づらくなっていた。そこをうまくつないでくださり、課題を言語化してくださったんです。採用全体を俯瞰する伴走力と、私たちのことを深く理解してくださろうとする姿勢を感じ、本格的に採用支援をお任せすることにしました」(山本さん)
「誰でもいい」から「共感できる人」へ。採用に向かう姿勢が変化
「そもそも何のために人を採用するのか」という根本的な問いから、法人として大切にしてきた支援への想いや価値観、そして求職者が知りたい情報、両方のバランスを取りながら、採用設計そのものを見直すプロセスがスタートしました。
「毎回の打ち合わせで、まず私たちの気持ちをとても丁寧に汲み取ってくださるんですね。課題を整理するだけでなく、法人内の関係者との連携まで間に立って支援していただきました。そして『弘済学園が長年培ってきた支援ノウハウやケア方法は、確かな強みです』と、客観的に伝えてくださるんですよ」(戸田さん)

戸田さんはBlanketの言葉を通じて、自分たちの積み重ねが価値として見えるようになったことが、大きな手応えになったと話します。
「我々が地道に続けてきた日々の支援が、ちゃんと強みになっているんだと気づかせてもらい、うれしかったですね」(戸田さん)
山本さんは「きちんと現場に足を運んでくださったことが印象に残っています」と振り返ります。
「『現場にお伺いさせてください』と言われたときは驚きましたが、実際に足を運んでくださったことで『この方たちは本当に現場を理解しようとしてくれている』と感じました。見学のときは、施設長や現場の職員もとても張り切っていて(笑)。Blanketさんが真摯に私たちのことを知ろうとしてくださる姿を見て、現場の職員も少しずつ採用に対する意識が変わってきました」(山本さん)

現場の採用担当者と本部との連携も強固になり、採用に対するスタンスも、「誰でもいいから来てほしい」から「私たちの想いや支援に共感してくれる人と出会いたい」へと徐々に変化。支援の軸を見直し、現場の強みを再認識することで、採用に向けた体制と姿勢が着実に整っていったのです。
私たちの仕事は「未来をつむぐ仕事」。当たり前が、誇りに
採用活動の土台が整ったことで、弘済学園では採用サイトとパンフレットのリニューアルにも着手することになりました。
「以前のパンフレットやサイトでは、『私たちの思いや積み重ねてきたことをすべて伝えたい!』という思いが強く、歴史や取り組みをテキスト中心で紹介していたんです。しかしそれでは、現場の雰囲気や職員の魅力までは伝わりにくく、デザインや情報量の面でも課題がありました」(戸田さん)
新たに制作された採用ツールでは、応募者目線で情報を絞り込み、青や緑などのナチュラルなカラーを基調にデザイン。そして、弘済学園の仕事を「未来をつむぐ仕事」と定義し、その言葉を軸に、未来へと紡がれる“糸”をテーマにしたイラストを随所にちりばめました。

「正直、ギリギリまで本部と現場で『何をどう伝えるか』を議論しました。ついついあれもこれも伝えたいとなってしまうのですが、そのたびにBlanketさんが冷静に『ここは削りましょう』『ここは調整しましょう』と丁寧に伴走してくれたんです。だからこそ、完成品を見たときの感動は大きかったですね」(山本さん)
この「未来をつむぐ仕事」というコピーは、まさに弘済学園の支援の本質を捉えていると山本さんは言います。
「入所される子どもたちは、行動や人間関係の中で糸が絡まってしまったような状態で来られる方が多いんです。そこから少しずつ糸をほぐしていき、やがて未来へとつなげていく。まさに『未来をつむぐ』という表現が、私たちの仕事を言い表していると感じましたね」

また、このリニューアルは外部だけでなく、法人内にもポジティブな影響をもたらしました。
「採用説明の場での伝えやすさが大きく変わりました。パンフレットを手にしながら『弘済学園の支援は、未来をつむぐ仕事です。子どもから大人への移行期をともに歩み、次のステージへつなげる“中継地点”のような存在です』と話すと、先生方や学生さんたちの理解度が格段に高まり、以前より確実に伝わっている実感がありますね」(戸田さん)
パンフレットには、日常の支援風景を写真付きで掲載。また、QRコードでWebサイトと連携させることで、弘済学園の仕事内容やインタビューなど、より詳しい情報を見られる設計になっています。誰が、どんな想いで、どのように働いているか。さらに、子どもたちの入園から卒業までの支援内容も紹介し、「未来をつむぐ仕事」をより身近に感じてもらえるよう工夫されています。そして、思わぬ反響もあったといいます。
「実は、職員からも『自分たちの仕事の意味が改めて見えた』という声が上がっていて。対外的な発信ツールでありながら、自分たち自身の誇りにもつながるものになりました」(山本さん)
支援の価値を言葉に。現場からはじまる変化の連鎖
Blanketのコンサルティングを経て、弘済学園では採用活動そのもののあり方が大きく変化していきました。

「採用戦略を見直して以降、募集枠がしっかり埋まるようになり、採用数という面でも成果が出ています。ただ、数以上に大きいのは、法人内に良い風が吹き始めたことなんです。Blanketさんが現場の声を丁寧に拾い上げてくれたことで、『現場のことを一番知っているのは自分たちだ』と、現在の職員が採用活動に主体的に関わるようになってくれています」(戸田さん)
現場との情報共有が活発になったことで、ブログやSNSを使った発信も強化。採用のためだけでなく、日々の支援の価値や職員の思いを言葉にしていく取り組みが、組織にとっての財産になっていきました。
「私たちだけで採用に向き合っていたときは、どうしても『この人手不足をどう埋めるか』に意識が偏ってしまっていて、『どんな人と働きたいか』『うちの支援の強みは何か』が明確ではありませんでした。でも、Blanketさんと『どんな想いで支援しているのか』『それに共感する人って誰だろう』と丁寧に問い直す中で、あらためて自分たちの軸が見えてきた感覚があります」(山本さん)

また、採用支援が終わった後も、必要に応じて連絡を取り合いながら、Webサイトの更新やSNS発信などについてアドバイスをもらうこともあるといいます。こうした継続的なやりとりも、現場にとっては心強いサポートになっています。
「採用コンセプトが明確になってからは、魅力発信の方法も徐々にチームの中で共有され、ノウハウとして積み上がってきました。私たちの支援に共感してくれる人と、じっくり丁寧に出会っていきたい。今回の取り組みを通して、その姿勢の大切さを改めて実感しています」(戸田さん)
最後に山本さんが、介護・福祉業界の法人が魅力発信する意義を語ってくれました。
「どの法人も素晴らしい支援への向き合い方がありながら、一方でその価値を当たり前と感じてしまっていて、あまり外に伝えようとしないことも多いような気がします。ですが今回、自分たちの当たり前を言葉にして再定義し直すことで、想いに共感してくれる人と出会えるんだと実感しました。多様な法人が、それぞれが持つ支援や想いを発信していけば、その先で介護・福祉業界全体がもっといきいきしていくのではないかなと思います」(山本さん)
“大切にすること”を軸に生まれた採用の成果 ―コンサルタント松川の振り返り

弘済学園様とのコンサルティングでは、当初「誰でもいいから元気な人に来てほしい」という声もありました。けれども丁寧にお話を伺っていくうちに、本当は「こういう人に来てほしい」という確かな想いがあることに気づきました。
そして、見学やヒアリングを重ねる中で、職員の皆さんが持っている仕事への誇りや信念、この仕事に込められた価値に触れることができ、そのひとつひとつがとても素敵で心に残りました。
一方で、その良さが学生に十分伝わっていない場面もあり、「これは本当にもったいないなぁ」と感じたのも正直なところです。また、欲しい人材を絞りすぎると人が集まらないのではないか、大切な想いだけれど“今っぽく”ないため学生には響かないのではないか、といった不安やジレンマを抱えていらっしゃったようにも思いました。加えて、採用に十分な時間や体制を割くことが難しいという現実もありました。
そうした課題の中で私が感じたのは、「大切なことは大切にしたまま、その想いに共感して『ここで働きたい!』と思ってくれる人に出会えればいい」ということです。一般的に広く“うける”ことを狙う必要はなく、弘済学園様ならではの強みや価値をしっかりと打ち出せば、それに惹かれる人は必ずいるはず。そこが他法人との違いを生み出す部分だと感じました。
そして今回の変化は、鉄道弘済会さんと弘済学園さんが採用の課題に真摯に向き合い、ひとつひとつ解決に取り組んでこられたからこそ生まれたものだと思っています。コンサルティングが一段落した今も、皆さん自身が試行錯誤を重ね、改善を続けてこられた。その歩みがあったからこそ今の成果につながっています。最初の一歩を踏み出すパートナーとして、携われたことをとてもうれしく思っています。
(文/田邉なつほ、編集/Ayaka Toba)
公益財団法人 鉄道弘済会について
公益財団法人 鉄道弘済会
所在地:東京都文京区小石川1-1-1
URL:https://www.kousaikai.or.jp/
1932年(昭和7年)、当時の鉄道省によって設立された公益財団法人。公益事業として義肢装具の支援、高齢者施設の運営、障害のある方や児童・青少年への福祉支援、社会福祉の研究など、さまざまなかたちで暮らしを支える活動を行う。また不動産賃貸や開発事業などを通じた収益事業も展開し、安定した運営基盤のもとで支援を続けている。