無人島研修で働きがいを高める?人に依存しない「成長する組織」を作ろう【KAIGO HR Guest Seminar #2】
2023/12/18
ここ数年で、人材を取り巻く環境は大きく変化しました。
売り手市場で人材採用の難易度は上がり、転職前提の雇用環境の中で社員の育成や定着にかかるコストも上がっています。人事担当者だけでなく、経営者にとっても人材に関する悩みは尽きないのではないでしょうか。
今回登壇いただいたのは、株式会社3eee 代表取締役の田中紀雄さん。創業時から順調に事業は拡大している同社、年間の採用枠が70名程度に対して、毎年700〜1,200名の応募があるそうです。コロナ禍においても、社員の雇用継続率は23.4ポイントも向上したそうです。
「重要なのは社員の働きがい」と断言する田中さん。社員の士気を高め、いきいきと働く組織づくりに成功している株式会社3eeeの実践から学びを得てください。
【ゲスト】
株式会社3eee
代表取締役
田中 紀雄 (たなか のりお)
2010年8月に株式会社3eeeを創業。2011年2月にデイサービスを開業後、およそ4年で100店舗を展開する。2022年にはクラウドAIシステム「Dr.ZNOO(ドクター・ズノー)」を開発。2023年デイサービス5選など受賞歴も多く、同社の事業は国内でも注目を集めている。
ICT導入だけで、労働環境は改善しない
介護・福祉業界でたびたび挙がる生産性向上というキーワード。しかし田中さんは「業務がいくら効率化しても、業績や給与が上がらなければ意味がない」と話します。
そのために必要なのは、社員にとって働きがいのある会社づくり。新しいことへの挑戦など、前向きな見通しを持ってもらえるような労働環境を整えなければなりません。
国内外の様々な調査で、日本人の「会社に対するエンゲージメント(愛着心や思い入れ)」の低さが示されています。
ビジネスパーソンとしての成長意欲や、管理職への昇進意欲も低く、結果的に日本型雇用の機能不全や国際競争力の低下を招いています。
優秀で成長意欲のある「誰か」に過度な期待をかけるのでなく、組織としてしっかりとした人事戦略を立てる必要があるといえるでしょう。
社風を伝えるにはSNSが効果的
創業以来、働きがいのある会社づくりに取り組んできた3eee。アメリカのギャロップ社によるエンゲージメントサーベイ「Q12」を導入したところ、一般社員、管理職ともに国際平均を大きく上回る数値が出たそうです。
田中さんが要因のひとつに挙げているのは、採用。年間700〜1,200名から応募があり、採用率は9%ほど。応募数の多さは必ずしも採用の成否に直結するわけではありませんが、多くの求職者の中から採用可否を決められるということは、会社が求める人材を採用できるチャンスも高くなるといえるでしょう。
「事業概要や会社の理念は、比較的伝えやすい。難しいのは、社風をどう伝えていくか」と語る田中さん。特に若い世代はSNSで情報収集する傾向があるため、3eeeでは個人によるSNSでの情報発信を推奨しているそうです。
創業時は発信を嫌がる社員もいたそうですが、「採用は、社員一人ひとりが戦略的に考え、実行しなくてはならないものだ」と社長自ら説得することもあったとのこと。SNS活用は、時代に合わせて変化している企業というブランディング効果にもつながると田中さんはいいます。
なぜ新人研修先が無人島?
3eeeのユニークな取り組みとして知られているのが、新入社員の研修先が無人島であることです。研修を始めたきっかけは人事施策の一貫というわけではなく、実は2018年に発生した北海道胆振東部地震だったといいます。
停電などの影響によって、事業所が軒並み営業できなくなった反省から、BCP(事業継続計画)に力を入れ始めたという田中さん。
BCPとは、企業が自然災害、大火災、テロ攻撃などの緊急事態において、事業継続のための手段を取り決めておく計画のこと。3eeeでは厚生労働省が提示するガイドラインよりも手厚い計画を立てているそうです。
長崎県にある無人島での研修は、自ら寝食の環境を整える必要があります。過酷な環境で生き抜く術を覚え、結果的に個人の主体性や仲間とのコミュニケーション力を育むことができました。
「何回か研修を重ねたことでノウハウも蓄積できた。興味がある事業者さんがいれば、何か一緒にやりましょう」と呼び掛けていました。
「対人でなく対システム」という大転換
事業が成長するにつれ、社内のノウハウや成功事例を組織で共有することは非常に重要になります。ですがマネージャーや管理者によっては、ナレッジ共有が上手くいかないというケースもあるでしょう。
田中さんは「介護・福祉業界は、人から人へと技術を伝える傾向にある」と警鐘を鳴らします。コミュニケーションが上手くいかないと、人間関係にヒビが入り、最悪な場合には離職につながってしまうといいます。
田中さんは発想を転換し、人ではなくシステムに頼ればいいと思い至り、社内でナレッジ共有プラットフォーム「Dr.ZNOO」を開発しました。画像、動画、eラーニング、ドキュメント……。ありとあらゆる素材を格納し、誰もがアクセスしやすい状況を作りました。
田中さんは「心理的安全性の高い組織は強い」と話します。Google のリサーチチームが提唱した心理的安全性とは、誰もが不安を感じることなく、自分の考えや意見を率直に発言できる状態のことをいいます。
コミュニケーションで齟齬が出ないか怯える状況を極力作らず、難しい業務はシステムで代替すればいい。結果的にマネージャー業務の80%が削減され、働きやすい環境も作れたと田中さんは胸を張りました。
特別なことは何もない。ひとつずつ地道に改善しよう
最後に田中さんは「今日の話で、特別なことは何もない」と伝えました。採用や人材育成、社員の定着など、どの会社も課題として取り組んでいることを、ひとつずつ丁寧に向き合っているだけだといいます。
印象的だったのは、田中さん自身が「もっといいものはある」と改善を繰り返している姿勢でした。3eeeで開発した「Dr.ZNOO」も、AI自動応答システムを搭載したり、社員同士の相互投稿機能を可能にしたりと、進化を続けています。
こういった地道な取り組みが、「2023年デイサービス5選」を受賞したり、北海道における「事業所評価加算」 適合事業所数10年連続No.1として認定されたりといった評価に結びついているのでしょう。
3eeeの実践を参考に、ぜひ自社における人材活用施策に生かしてもらえたらと思います。
前回の記事はこちら
モテる会社をつくろう。年間600名採用する介護・福祉事業者の採用成功術【KAIGO HR Guest Seminar #1】