定着は1日にしてならず!新卒入社職員のためにトライ&エラーを繰り返す【KAIGO HR FORUM2021イベントレポート⑥】

2022/01/25

「辞めます」

ある日突然、新卒入社職員にそう言われた採用担当者もいるのではないでしょうか。

どうして……せっかく採用したのに……。

1年以上かけた採用コストのダメージはもちろん、それ以上に採用担当者の精神的なダメージも大きいはず。

しかし、新卒入社職員も、就職活動を経てから入社した企業をすぐに辞めたいと思っているわけではありません。

レポート第6弾は、「【離職防止】辞めない!新卒入社職員の受け入れのポイントと定着の秘訣」です。

ゲストは、社会福祉法人芳洋会 広報戦略部 マネジャー 関澤孝文氏と、社会福祉法⼈弘仁会 特別養護⽼⼈ホーム美⾥ヒルズ 施設⻑ 世古⼝正⾂氏です。

【ゲスト】

社会福祉法人芳洋会 広報戦略部 マネジャー 関澤 孝文 氏
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社会福祉法⼈弘仁会 特別養護⽼⼈ホーム美⾥ヒルズ 施設⻑ 世古⼝ 正⾂ 氏
YouTubeチャンネルはこちら:特別養護老人ホーム美里ヒルズ
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10年以上採用担当として、採用~教育までを担当する関澤氏と、過去8年間における新卒入社職員の1年以内の離職率は0人だという世古口氏。これまでとは違う新しい環境に飛び込む彼らに、長く働いてもらえるような職場づくりとは? そのエッセンスをお話しいただきました。

4月の入社前から、定着へのアプローチは始まっている

改めまして、みなさんこんにちは! 社会福祉法人芳洋会の関澤と申します。社会福祉法人芳洋会は東京都内で特養を中心として、高齢者福祉事業を11事業展開しています。

私は普段、採用担当として、主に新卒採用をおこなっています。ですがここ最近は、法人全体の情報発信を強化していこうということで、YouTubeに力をいれていて、ユーチューバーみたいなこともしています(笑)

ぜひ、「Sunrise TV」のチャンネル登録をお願いします!

では、さっそく本題に入っていきたいと思います。

芳洋会では、毎年10~15名の採用を目標にして採用活動をしています。内訳としては、福祉系の学生が半分、芳洋会に就職して初めて介護に触れる学生さんが半分、ですね。

新卒採用の流れは、このようになっています。

3月~6月にかけて採用活動、内定出しをして、4月の入社までの間に何度かイベントや、顔合わせの機会を設けています。内定辞退を防ぐためでもあるんですけど、それよりも、職員と交流する機会を増やすことでお互いに“知り合い感”、“顔見知り感”を強めていって、「自分自身も芳洋会の一員である」ということを感じてもらうのが最大の目的です。いってみれば、4月の入社よりも前、ここから定着に向けてのアプローチが始まっているのかなというふうに思っています。

3月末から4月にかけておこなう最初の新人研修では、いきなり介護の知識・技術の話をするんじゃなくて、まずは芳洋会の雰囲気や風土に慣れる、芳洋会の価値観を共有する、ということを目的としてプログラムを組んでします。この研修を通して、さらに芳洋会で働きたいと思ってもらえる気持ち作りをすることを意識していますね。

それから研修中の合間合間に、高畑不動尊へ行ったり、高尾山にハイキングに行ったりする時間もあります。同期同士のコミュニケーション、気分転換の場を私たち側から設けるようにしてます。

研修が終わって現場に入ると、新人さんは写真のように、肩のところに研修バッチをつけます

いわゆる車の初心者マークのイメージですね。周りの職員が一目で新人さんとわかりますし、これをつけることで新人さんにとっても安心感に繋がります。芳洋会では、新人の育成に固定の先輩職員を教育担当としてつけるチューター制度を設けているんですが、チューターと一緒にこのバッチがとれることを目標として二人三脚で成長していく、といった仕組みも作っています。

それぞれの吸収ペースと成長のスピードは、みなさん異なります。一人一人に合わせて育成していくということが1番のポイントです

法人が大切にしていることを教育に落とし込む

それから僕たちは、法人全体として大切にしていることを定着・育成に落とし込んで実践しています。

まずは、「チーム一丸」。我々、採用担当は採用して、現場に配属したら終わり、ということは決してありません。それから介護職だから、看護職だから、リハビリ職だから、といったように他職種、他部門だったとしても、同じ組織の仲間、芳洋会の一員だから、新人さんをみんなで育てていくという考え方をしています

次は、「チャレンジ精神」、「何事も楽しむ」。できるできないに関わらず、まずは前向きにやってみる姿勢をサポートするようにしています。こういったことはお伺いをたてて、計画して、というステップを踏んでしまうとモチベーションが萎んでしまう可能性もあります。なので、現場判断でできるように、ある程度裁量を持たせてフットワーク軽く挑戦できる環境を整えています

最後が、「職員満足が利用者満足に繋がる」。法人ごとにそれぞれ考え方があるかと思いますが、私たちは、職員満足をあげることが、結果として、利用者の利益、サービスの質の向上に繋がると考えています。

例えば、介護用リフトをはじめとした福祉用具を積極的に活用することで、職員は腰痛や体の負担が少なくなります。それによって、利用者のケアに安心安全にあたることができる。利用者にとってもメリットになります。

他にも「釣りをしたい」という利用者の声があったとき、一番張り切るのは、利用者ではなく、釣りが趣味の現場職員なんですね。職員が企画、準備、当日の段取りまでを担当します。自分の趣味が、利用者のサービスに直結するので、やりがいにも繋がっていると考えられます

数年前から新型コロナウイルスが流行して、いろいろな制限がかかっている中でも、どう楽しむか、ということを一人一人が考えて、現場レベルでいろいろと工夫をしてくれています。

特養は利用者にとっては生活の場です。いつ最後を迎えるのかわからない方たちもいらっしゃって、どうしたら1日1日を楽しく生活してもらえるか。そのことをみんなが意識してくれているのが大きいのかなと思いますね。

「自分も職場づくりをしている」、職員みんながその気持ちをもつこと

とはいえ、ここまでは採用担当の私目線の話です。実際に現場の職員に「どうして芳洋会を辞めないのか」「なんで仕事を続けているのか」を直接聞いてきたので紹介します。

多く出たのが、「一緒に働く仲間が好き」「後輩を持つようになって、当時の自分の気持ちがよくわかるから丁寧に指導したい」「趣味が活かせて、チャレンジできる」ということ。それから「上司や先輩が親身になって話を聞いてくれる」という答えもかえってきました。やっぱり、仲間チーム話を聞いてくれる、というキーワードがマストだと思います。

さらに、現場の責任者、マネージャーたちにも、「指導・育成するときに気を付けていることはありますか」と聞いてみました。

「先輩たち、教える側も育成を通して成長していくから、教え育てる教育ではなく、ともに育つ教育を意識している」「役割を明確にして、ある程度任せる」「対話をする、公私ともに話せる雰囲気があるチームにする」という答えが返ってきました。

利用者の生活もそうですが、職員みんなが働く環境を作っている意識を持ってくれていることも新人育成や定着に重要な要素であると私たちは考えます

ただ、実は正直にお伝えすると、今年入った新人さん2名が先月辞めてしまったんですね。僕自身ショックを隠し切れないんですが、僕らのやり方でもまだまだ改善の余地があると思います。定着への道のりは一筋縄ではいかない。だからこそ、みなさんと一緒に頑張っていけたらなと思っています。

離職率は過去4年間で1桁台、新卒採用の離職は過去8年間0人

社会福祉法人弘仁会 特別養護老人ホーム美里ヒルズで施設長をしています世古口と申します、どうぞよろしくお願いいたします。ちょっと緊張しています(笑)

社会福祉法人弘仁会は三重県で事業を展開していまして、津市にユニット型の美里ヒルズ、名張市に従来型の国津園という特養2か所、特養に併設する在宅サービスでデイサービス、ショートステイもしています。あとは保育園を3園、運営しております。

平成17年(2005年)に開設した美里ヒルズは、ちょっと変わっていまして、1つ1つのユニットが全く違う外観を持っています。

10人で生活していただく平屋のシェアハウスが並んで建っていて、それがひとつの特養になっています。普通の暮らしの場をいかに作っていけるか、ということで設計にもこだわりを持っています。7ユニットあるうちの1つがショートステイのユニットになっています。

オープン当初は、ユニット型施設運営に対する僕たちの理解不足があり、ユニットケアをすることがどういうことなのか、カタチになるまで時間がかかりました。なんとかみんなで試行錯誤をして、今ではユニットリーダー研修の実習施設に選んでいただいたり、離職率は過去4年間で1桁台、新卒採用の離職は過去8年間0人という数字になりました。

そんな僕たちがどんなことをやってきたのか、これからお話したいと思います。

ビジョンからメッセージを、メッセージからケア方針を

まず初めにしたことは、「理念を具体化する」ことです

美里ヒルズは、「特養を施設ではなく住まいに、今までと変わらず普通に暮らし続けられる場所にします」というビジョンを掲げています。これは象徴的な言葉ではあるのですが、どういうことか問われると答えられない人もいます。だからこそもっと具体的に、自分たちがどんなケアをすることが理念の達成になるのか、ということをまずメッセージに落とし込みます。それがこちらです。

次に、このメッセージをより現場レベルで、落とし込んだのがこちらのケア方針です。

理念をわかりやすく伝えるメッセージ、理念を具体化するケア方針の作成、そして、このケア方針が教育マニュアルになるように意識して作成しました。

このような流れで教育マニュアルを作ったので、かなり丁寧に作りこんだ教育マニュアルが僕らにはあります。このマニュアルは、簡単にいうと介護の技術を学ぶものではなくて、施設が暮らしの場であることを学ぶためのマニュアルです。

これらがあるからこそ、採用時も、理念・ケア方針に対する共感度をとても大切にしています。なぜ美里ヒルズを選んでくれたのか。「近いから」「ハローワークで紹介されたから」という人は、正直に言うと、採らないようにしています。

面接を通してそこをクリアにすることで採用後、現場に配属してもミスマッチが起きないですし、現場で教える職員さんたちも、「同じようにケア方針を理解している人がきてくれた」という実感とともに指導にあたれるようになります。

新卒入社職員に活躍してもらうための仕組みづくりー利用者目線を忘れない

次に新人を支える仕組みづくりにも、かなり力を入れています。

それぞれの法人の形態によって合うやり方は、違ってくると思うので、本当に合っているやり方かどうか、見直す対象にしてもいいかもしれません。

私たちは、チーム支援型のチューター制度という体制をとっています。

新人さんそれぞれにつく先輩職員、チューターはいるんですが、固定ではありません。

もともとは固定の教育担当者をつけていたんですが、そうすると、新人さんのことを“教育担当者任せ”にしてしまう。新人さんがうまくいかなかったとき「それは教育担当のせい」という雰囲気が出てしまったことがあったんです。でも、新人さんはみんなで育てていくものだ、との思いからチームで新人さんを育てていく、チーム支援型にしています。

でも、もう1つ起こった問題がありました。新人さんから出た「昨日教えてもらった人と、今日教えてもらった人で言ってることが違う」という悩み。この問題を解決する方法は、教える人が統一される、又は、教える内容が統一される、のどちらかですよね。そこで私たちは、教える内容を統一する方法をとりました。

じゃあ何を教えるかというと、まずは利用者さんのこと。そこに暮らしている利用者一人一人のこれまでのエピソード、1日1日の生活の流れ、どのように暮らしていきたいのかという意思や希望。それらを新人さんたちに最初に教えます。

そのとき、24時間シートというのを使って、1日の暮らしぶり、どんなサポートを必要としているのかという、すでに現場が共有していることを新人さんにも共有します。

介護職員一人一人の価値観で教えるということではなくて、利用者一人一人の1日にどういうふうに関わったらいいのかを学ぶ。スタッフが変わっても利用者が同じ生活を送ることができる。そういう仕組みを作っています。

美里ヒルズのビジョン「特養を施設ではなく住まいに、今までと変わらず普通に暮らし続けられる場所にします」を達成するためには、利用者、入居さんのみなさんが安心して、自分らしく生きることをしっかり保証してもらう場所でなきゃいけないと思うんです。そのために僕たちはどんな心構えで臨んでいくべきなのか、というのを具体的なケア方法として新人さんにも理解してもらうようにしています。

最後にやっぱり、新人さんとのコミュニケーション、面談の機会を設けることが大事ですね。チームとして話しやすい職場づくりはもちろんですが、悩んだときに相談できたり、必要なアドバイスができたりする関係性も大切です。

「ちょっといいですか」と言われたときには手遅れになってしまう状況を減らすためにも、定期的な面談を行っています。

まとめると以下のようになります。

ありがたいことに来年4月の採用も決まっていますが、僕らは、入社前のフォローアップが正直まだまだできていません。

芳洋会さんも仰っていましたが、定着・育成は、1日にしてならず! 自分たちの持っている課題と向き合って、魅力的な職場づくりを続けていきたいと思います。

本日はありがとうございました。

新卒入社職員は右も左もわからず、新しい世界に不安と期待を持っています。実践方法を伺った2法人は、そんな気持ちを汲み取り、丁寧な教育体制を構築しています。しかし、「それでも改善の余地がある」とお2人は仰いました。採用が激化する中、獲得した人材が活躍できるような職場づくり、教育体制づくりの熱が感じられました。関澤さん、世古口さん、本日はありがとうございました!

(文/田邉なつほ 編集/森近恵梨子)

【ゲスト・登壇者プロフィール】

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社会福祉法人芳洋会 広報戦略部 マネジャー 関澤 孝文 氏

介護福祉士 社会福祉士。大学卒業後、新卒でひのでホームにケアワーカーとして就職。介護現場で経験を積みながら、マネジャーとしてスタッフの教育・育成にも注力。その後、生活相談員を経て、現在は採用担当として、主に新卒採用に携わる。

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社会福祉法⼈弘仁会 特別養護⽼⼈ホーム美⾥ヒルズ 施設⻑ 世古⼝ 正⾂ 氏

経歴 1980年(昭和55年)三重県津市⽣まれ、いて座/O型 
2004年(平成16年)社会福祉法⼈弘仁会に⼊社、特別養護⽼⼈ホーム国津園に配属 。2005年(平成17年)特別養護⽼⼈ホーム美⾥ヒルズ開設時に異動 。2012年(平成24年)施設⻑に就任、現在に⾄る 。

役職  ⽇本ユニットケア推進センター 理事/⽇本ユニットケア推進センター ユニットケア研修運営委員/⽇本ユニットケア推進センター ユニットリーダー研修実地研修施設現地調査委員/⽇本ユニットケア推進センター 中部ブロックユニットケア連絡会 代表/ 全国⽼⼈福祉施設協議会 ⽼施協総研運営委員会 幹事/三重県⽼⼈福祉施設協会 理事/三重県⽼⼈福祉施設協会 21世紀委員会 委員⻑/ 美⾥地区社会福祉協議会 理事/津市 介護認定審査会 委員/鈴⿅オフィスワーク医療福祉専⾨学校 ⾮常勤講師/⾼⽥短期⼤学 ⾮常勤講師/ 三重介護福祉専⾨学校 外部講師/ユマニテク医療福祉⼤学校 外部講師/三重県社会福祉協議会三重県福祉⼈材センター 外部講師

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