採用に苦戦する介護・福祉事業者ほど意識してほしい「ターゲット設定」(介護の人事教室その2)

2024/08/16

介護・福祉業界の採用・人事支援を行うBlanketのコンサルタントが、介護・福祉事業者の皆さんへ採用・組織づくりにまつわるヒントをお届けします。

第二回は、介護・福祉事業所の多くが直面する人材確保の難しさと、採用成功のための“第一歩”をご紹介します。

「誰でもいいから来てほしい」というPRは、誰にも響かない。

採用活動に限らず、何らかの意図を持って情報発信をする際に、「ターゲットを意識する」ということは非常に重要です。ターゲットを定めるからこそ、どのような媒体を用い、どのような発信をするか効果的かを考えることが可能になるからです。

一方で、介護・福祉事業者の皆さんのお話を聞くと、「特に採用ターゲットを明確にしていない」「採用したいターゲットはあるが、採用活動ではあまり意識していない」という声も多く耳にします。

介護・福祉業界の採用は非常に難しく、何とか採用を成功させたい…。その思いから、「あまり多くは望まない」「誰でもいいから来てほしい」という思いが強く、「採用ターゲットを定めてしまったら、ただでさえ応募が少ないのに、もっと減ってしまうのでは…」という懸念点から、採用ターゲットを意識せず、全方位に向けて採用活動をしている事業者の方も多いのではないでしょうか。

ですが、多くの介護・福祉事業者の採用活動を支援し、様々な事例を見ていく中で私が感じるのは、「ターゲットを意識して活動している事業者の方が、採用活動で良い成果を出しているケースが多く、『誰でもいい』とターゲットを定めずに活動している事業者で、採用活動で成果を出している事業所はほとんど存在していない」ということです。

なぜ、「誰でもいいから」という採用活動は、上手くいかないケースが多いのか?

それは、皆さんが情報を受け取る立場になったことを想像してみると分かりやすいかと思います。「別に誰でもいいんです。」「どの人にも、そこそこよいです」「他との違いがよく分からない」という商品・サービスよりも、「自分の好みに合う」「自分にぴったりだ」「他と違って、ここが好き(よい)」というものを選ぶのではないでしょうか。特に自分にとって重要なものであったり、高価なものを購入する時ほど慎重になり、よりよいものを見極めたいと思う人が多いはずです。

就職・転職も同じことが言えると思います。しっかりとよい職場を見つけ、よい仕事をしたいと、真剣に就職・転職活動をしている人ほど、自分の仕事選びの軸に合わせ、よりマッチした職場を探そうという気持ちで求人情報を吟味しています。

転職や就職に対して、様々な期待を持つ一方で、環境の変化への不安も感じている。求職者は企業側が発信する情報に触れながら、期待を膨らまし、不安を解消しようとします。そのような人たちにとって、「誰でもよいから」と闇雲に発信された求人情報は魅力的に映らなくなってしまうリスクがあります。

ターゲットを設定することで、そのターゲットの期待・不安に応える採用活動を検討しやすくなります。これが、採用活動をよりよいものにする非常に重要な鍵なのです。

「採用ターゲットを定める」ことに抵抗感がある時は?

「確かに採用ターゲットを設定することは重要だと思ったが、応募が少ない中で、なかなか踏み切れない…」

ターゲット設定の必要性をお伝えする中で、このような不安をいただくことも少なくありませんし、そのご心配もごもっともだと思います。そんな時、私は「『ターゲットを設定する』ということは、『ターゲット以外を切り捨てる』ということではありませんよ」ということをよくお伝えしています。

ターゲットを意識した採用活動というのは、どこか一つに山をかけて他を見ないというギャンブルではなく、「どこならば勝てそうか?」ということを見極め、勝てるポイントで勝つためにパワーを優先的に投下するというイメージを持つことが重要です。

人もお金も時間も無尽蔵にあるならば、すべての求職者に手厚いアプローチが可能ですが、多くの場合リソースには限りがあります。だからこそ、自分たちの事業所・求人にマッチし、「ここで働きたい」「この事業所は自分に合っているかも」と思ってもらう可能性が高い層をターゲットにし、採用活動のリソースをそこに割くということが重要です。

もちろんターゲットを設定すれば、すぐさま採用活動がうまくいくという訳ではありません。ですが、闇雲に採用活動をしていた頃よりも、「このような人なら、どのような情報を欲しいと感じているか?」「自分たちのどこに興味関心をもってもらえそうか?」「どのようにアプローチすると、情報を見てもらえるか?」ということを考えやすくなるはずです。そうして採用活動に方向性・戦略性を持たせることが、採用活動のレベルを上げることにつながるのです。

まとめ

「ただでさえ応募がないのに、採用ターゲットを定めるの…?」という不安は痛いほど理解もできますが、その結果採用活動が「誰でもいいから」と「誰にも響かない採用」になってしまうのであれば、本末転倒と言えます。

採用活動をレベルアップさせるためにも、まずは「どんなターゲットを採用したいか」「どのような層なら、自社と相性が良いか」ということを考えてみましょう。

きっと何かが見えてくるはずです。

次回はもう少し踏み込んで、「ターゲット設定の際のポイント」を一緒に考えてみたいと思います。お楽しみに!

この記事を書いた人

野沢 悠介

株式会社Blanket取締役/人事コンサルタント

立教大学コミュニティ福祉学部卒。介護事業会社で、採用担当・新卒採用チームリー ダー・人財開発部長などを担当後、2017年より現職。介護・福祉領域の人材採用・人材開発を専門とし、介護・福祉事業者の採用・人事支援コンサルティングや、採用力向上のためのプログラム開発、研修講師などを中心に「いきいき働くことができる職場づくり」を進める。