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採用は経営を安定させる。人員配置基準を知って、健全な採用に取り組もう【「KAIGO HR FORUM 2022」イベントレポート③】

2023/01/24

採用計画を立て、PDCAを回しながら運用していく。

そのために必要なのは、人員配置基準についての基礎知識。人員配置基準や各種加算(以下「加算」)要件などのルールを正確に把握することで、優先順位を間違えずに有効な施策を考えることができるようになります。

実は採用と直結している人員配置基準の考え方。普段、松友さんが意識していることを話していただきました。

【ゲスト】

社会福祉法人南高愛隣会
総務課 課長
松友 大(まつとも だい)

1980年東京都生まれ。南高愛隣会に入社後、罪に問われた障がい者・高齢者の研究事業を担当。その後、総務企画部に異動し、障害者虐待防止法の行政窓口を担当。採用、人事制度構築、ブランディング、ICT導入などの組織づくりに取り組んだ。

「人が足りない」を分解する

社会福祉法人南高愛隣会 企画調整課 課長 松友 大さん

2014年から採用に関わるようになった松友さん。これまで新卒採用を約150名、中途採用を約200名と、多くの求職者の採用に関わってきました。

大事にしてきたのが経営者や事業責任者から寄せられる「人が足りない」を適切に振り分けるということ。すべて同じに聞こえる「人が足りない」という言葉ですが、実は以下の3ケースに分けられると言います。

1. 最低の人数がいない
2. 報酬を上げたい・下げたくない
3. 体制が足りない

その背景にあるのが人員配置基準です。

介護・福祉業界の人員配置基準は厳しく設定されている

松友さんが挙げた基本的なルールは3つ

そもそも人員配置基準とは何でしょうか。

国は、介護・福祉施設の種別ごとに人員配置基準、設備基準、運営基準を定めています。人員配置基準は、利用者に対して配置すべき職員の人数や技能を定めたものです。

松友さんが挙げる、人員配置基準の基本的なルールは3つです。

1. 最低限置かなければいけない職種、人数が決まっている
種別ごとに最低限置かなければいけない人数や、職員の技能や資格が決められています。これを守らないと、そもそも事業所が開設できなかったり、開設後にこの人数を割ると報酬が3割減となります。

効率的な運営が出来るからといって、職員の人数を減らすことは認められていません。医療や介護・福祉は人の命に関わる仕事のため、特に厳しくルールが定められているのです。

2. 手厚く職員を配置すると報酬が増える(加算)
福祉の報酬は、配置基準を守っていれば算定が可能な基本報酬と、手厚く職員を配置したり、専門的な支援を行った場合につく加算で求められます。

一方で決められていたルールが出来なかった場合には報酬が減算されます。収入を上げていくためには、利用者を増やすのは当然ですが、加算を多く取得するということが必要になります。加算の条件として、職員を手厚く配置するということが多いです。

3. 人員配置基準あるいは加算は細かく条件が変わる
最低の配置基準、あるいは加算には条件が定められており、注意が必要です。

加算の条件を把握すれば、無理のない採用ができる

人員配置基準・加算には3つの条件がある

松友さんは、「まずは、以下の3つの考え方を把握しましょう」と話します。

1. 「常勤」か「非常勤」か

1つ目が働く時間が会社で定めているフルタイムかどうかを見る「常勤」か「非常勤」かという条件です。

会社が定めている就業規則の「1週間あたりの所定労働時間」を基準に、所定労働時間が40時間の場合、週40時間に達している従業員は「常勤」、達していない従業員は「非常勤」とみなされます。

2. 「専従」か「兼務」か

2つ目が複数の事業所で働いているかどうかを見る「専従」か「兼務」かという条件です。

1つの事業所に勤務している場合は「専従」、複数の事業所に勤務している場合は「兼務」となります。

3. 「頭数」か「常勤換算」か

3つ目が何人という「頭数」で見るのか「常勤換算法」で見るのかという条件です。「頭数」は、従業員を何名配置しているかです。勤務時間や、専従か兼務かなどは問いません。

ただし、職員を1名雇うといっても、フルタイムと週20時間の人ではサービスを提供できる時間が変わります。これを数値で見える化したのが常勤換算という考え方です。フルタイム(つまり「常勤」)で働いている職員にすると何人分になるかと見るのが「常勤換算法」です。

具体的には、該当の従業員の1週間の勤務時間を、法人が定めている就業規則の「1週間あたりの所定労働時間」で割って計算します。例えば、所定労働時間が40時間の場合、週20時間勤務している従業員は「0.5」と算出されます。

採用の前に考えるべきこと

採用計画は3つのステップに分けられる

この人員配置基準の考え方を理解すると「人が足らない」ということを3つのケースに分けることができます。

1. 最低の人数がいない

1つ目は、最低限の人がいないというケースです。

2. 報酬を上げたい・下げたくない

2つ目は、人員配置基準のルールに基づき、職員を手厚く配置することによって報酬を増やしたい、退職や休職によってこれまでとっていた加算が取れなくなることを防ぎたいというケースです。

3. 体制が足りない

3つ目は、「最低限の人はいる、かつ報酬に影響はない」けれど、現実的に事業が回らない場合です。

優先順位が高いのは「1. 最低の人数がいない」、次に「2. 報酬を上げたい・下げたくない」、最後に「3. 体制が足りない」という順番になります。このように、「人が足りない」にも、優先順位がつけられるのです。

「『人が足りない』を3つのケースに分解した上で次の3つのステップで採用計画に落とし込んでいくことが望ましい」と松友さんは話します。

ステップ1:「ほしい人」の条件整理をする

ステップ2:優先順位をつける

ステップ3:採用計画の作成に取り掛かる

現場から採用の要請があった際、「何名必要なのか」「なぜ必要なのか」をヒアリングすることは欠かせません。「人が足りない」ときの状況を見極め、人員配置基準の基本的なルールを念頭に、採用の必要性を判断していきます。

例えば「採用しないと報酬が下がってしまう」という場合、数ヶ月間の猶予があるケースがほとんどです。補充するのが、1ヶ月後でなくてはならないのか、半年後でも良いのか。それによって採用活動の方法も大きく変わるはずです。

人員配置基準のルールを把握することのメリットは、「ペルソナや採用戦略が明確になる」ことだと松友さんはいいます。

配置基準を理解することでペルソナや採用戦略も明確に

例えば、重度の障がい者対象の「生活介護」というサービスでは看護職を配置しなければならないとなっています。ただしそれは「非常勤でも可」という配置基準のルールが決まっています。

このルールを知らないと、生活介護の責任者から「看護職を採用してほしい」と言われても、「フルタイムが良いのか、パートが良いのか」「バリバリ働きたいキャリア志向なのか、ワークライフバランス重視でゆったり働きたい人なのか」が分からず、PRポイントが不明確なので、採用戦略が立てられません。

「非常勤可」というルールを知っていると、「子育て中で9:00〜15:00に働きたい方や、病院を定年退職した後の方」「夜勤がなく、時間に融通のきくパートタイム勤務を希望している方」と、ターゲット層が明確になります。夜勤がないことをPRしつつ、時給を高く設定して短期間で募集するという採用戦略を立てられるのです。

また松友さんは、「『人が足りない』ときは、業務を見直す機会になる」ともいいます。「3. 体制が足りない」にあてはまる場合、採用しても報酬が上がらなければ、単に経費がかさむだけ。そもそも事業としてうまく回っていない可能性があるため、体制不備を見直したり、提供するメニューの数を減らしたりするなどして、継続的に事業ができる仕組みを考えていくのも必要かもしれません。

中長期視点で、「人が足りない」を解消しよう

適切な採用は、事業者の経営を安定させる

事情がめまぐるしく変わる介護・福祉の現場において、採用計画が机上の空論になることは多いもの。

松友さんは「だからこそ、人員配置基準を踏まえた中長期的な採用計画が必要」と話します。中長期で採用計画を捉えることで、短期の「人が足りない」状況を回避することができるからです。

松友さんが勧めるのは、「採用目標は、最低基準に+1名とする」こと。人員配置基準ギリギリの従業員で事業をしていると、やむをえず職員が退職となった際にリスクが大きいからです。

吟味せずに採用したり、採用した職員がトラブルを起こしたり、早期離職を招いたり。悪循環に陥らないためにも、人員配置基準よりも1名多く採用することで、採用担当者の負担も減るし、経営も安定につながるといいます。

過去の平均退職者と定年到達者を計算し、必要な人員を想定すること。その上で「+1名」を目標に加えるといった中長期の視点。ぜひ皆さんも実践してみてください。

この記事を書いた人

堀聡太

株式会社TOITOITOの代表、編集&執筆の仕事がメインです。ボーヴォワール『老い』を読んで、高齢社会や介護が“自分ごと”になりました。全国各地の実践を、皆さんに広く深く届けていきたいです。