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介護・福祉事業者の欲しい人材像を徹底的に掘り下げる「ペルソナ」設計 【介護経営に役立つ「人事の目線」④】

2023/02/09

ペルソナ設計どのような人材を採りたいか?

採用活動の成功のために、「採用する目的」や「人材要件」を明確にすることの重要性については以前にも述べていますが、目的が明確になり、欲しい人材像が見えてきたら、その人材像に合わせた採用計画を立てる必要があります。その際に有効なのが、「ペルソナ設計」というマーケティング手法です。

ペルソナ設計とは、サービスや商品を利用する典型的なユーザー像について、行動スタイルや考え・価値観などを掘り下げていく手法です。実在する人物のように生活環境や考えていること、趣味や休日の過ごし方などの細かな部分まで「ペルソナ」をつくり込んでいくことで、採用したい人物像を社内で統一させることができ、欲しい人材に響く採用活動のアイデアが描きやすくなります。

実際に私が携わった2つの採用活動の事例についてご紹介します。

<事例①> 採用したい人材は何を考えているか

1つ目は新卒採用活動を積極的に行う企業の例です。その企業では、毎年数十人の新卒採用を目標に活動していましたが、採用内定を出しても、その大半が他業界の企業へと就職を決めて辞退してしまうという課題がありました。

課題を分析したところ、採用ターゲットが不明確で、「興味関心をもってくれれば、どんな学生でもいい」という形で、特に戦略性のないままで採用活動が行われていることが見えてきました。

結果的に、採用内定を出したとしても、その企業や介護・福祉の仕事の魅力が伝わっていないため、「就職先候補」にはなっても、「入社したい1社」には選ばれなかったのです。

そこで、人事部門や現場職員にヒアリングを行い、ペルソナ設計で自社のターゲット人材がどのような点でその企業や介護・福祉の仕事に興味をもち、どのような点が入職のネックとなって辞退しているのかという点を掘り下げました。

図表1 ペルソナ設計例

図表1でご紹介しているペルソナイメージはその際につくったものの簡略版ですが、ペルソナ設計・分析の結果、「ターゲット人材は『人と深く接する仕事』として介護・福祉に魅力を感じるものの、『働きづらい、大変な仕事』というイメージが強いため、辞退しているのでは」という仮説が浮かびました(図表2)。

図表2 「ペルソナ設計」のポイント

そこで、採用のさまざまな場面でその企業ならではのお客様とのエピソードを伝えるとともに、介護・福祉についてあまり知らない学生でもわかるように働く環境や仕事の流れを丁寧に説明することを意識した採用活動に転換しました。

その結果、学生から「介護・福祉の仕事の魅力がわかってイメージが変わった」「不安もあったけれど、自分が働くイメージがもてた」という声が増え、内定辞退率の低下、採用人数の増加につなげることができました。

採用したい人物を深く掘り下げ、期待することはもちろん、どのような点に不安を感じるかをイメージして施策に反映させることで、採用につなげた事例です。

<事例②> ペルソナに合わせて、自社の強みを伝えていく

2つ目は中途採用の事例です。

この企業では、ある程度人材採用は順調にできていましたが、入職後にミスマッチが生じて早期離職が一定数出てしまっていることが課題でした。その理由を探ってみると、募集時には処遇や福利厚生などの制度面の情報を前面に押し出しており、勤務条件を重視する安定志向の人が応募している現状が見えてきました。

しかし、その企業は新規事業所の立ち上げなど新しい事業を始める段階にあり、採用する人材には柔軟性や新しいことへの積極的な挑戦を求めており、募集段階でミスマッチが起きていることがわかりました。

そこで、「現在の職場では、自分自身の思った介護ができずに悩んでいる20代後半~30代の介護職員」というペルソナ像を設定。そのペルソナに共感してもらえるよう、経営者の思いやめざす介護の形、現場の風通しの良さといった情報の PRを強めていきました。

その活動を通して採用した職員は、職場にマッチし、早期離職することもありませんでした。採用方法としても、結果的に効率の良い活動となりました。 今回ご紹介した2つの事例は、採用要件の明確化 ー ペルソナの設定が、実際の採用活動の戦略を決め、成果につなげた事例だと思います。

皆さんの組織においては、今、どのような人材を必要としているのでしょうか。そして、その人材を採用するために、どのような打ち手が考えられるでしょうか。

ぜひ一度、じっくり検討してみてください。

※本記事は、以下に雑誌に執筆・掲載した内容を加筆・修正し、公開しております。

社名:株式会社日本医療企画
雑誌名:地域介護経営 介護ビジョン
発行年/掲載号:2019年4月号掲載

前回の記事はこちら▼

採用戦略から介護事業経営と現場の「今」と「これから」を見つめる【介護経営に役立つ「人事の目線」②】

人材育成を起点に、良い循環を。介護・福祉事業者が意識すべき2つの「育成」【介護経営に役立つ「人事の目線」③】

この記事を書いた人

野沢 悠介

株式会社Blanket 取締役

東京都出身。立教大学コミュニティ福祉学部卒。ワークショップデザイナー/キャリアコンサルタント。2006年株式会社ベネッセスタイルケアに新卒入社し、採用担当・新卒採用チームリーダー・人財開発部長などを担当。介護・福祉領域の人材採用・人材開発が専門。2017年に参加して株式会社Join for Kaigo(現 Blanket)取締役に就任。介護・福祉事業者の採用・人事支援や、採用力向上のためのプログラム開発などを中心に「いきいき働くことができる職場づくり」を進める。