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みんなで介護の魅力を伝えよう。他社連携で介護の輪を広げていく【成功事例・プロから学ぶ「介護福祉業界の採用PR講座」イベントレポート④】

2022/11/22

2025年までに約38万人の介護人材が不足するといわれている介護業界。どの事業者も「良い人を採用したい」と望んでいるかと思います。

ですが、自社の魅力発信だけを続けていても、本質的な解決にはなりません。他業種からの参入を促したり、介護業界を志す学生を増やしたりするなど、介護人材の底上げが必要です。

一般社団法人フクシスタイル(以下、フクスタ)は、大阪を中心に事業展開する4法人の人事・採用担当者によって2017年4月に結成されました。彼らが一貫して目指すのは、「介護の魅力をもっと世の中に発信しよう」というもの。1社では難しいことも、他社連携によってできることが増えると、代表理事の辻本真吾さんは強調します。

介護の魅力を発信したいけれど、このやり方で良いのか悩んでいる方は多いはず。フクスタの取り組みを参考に、「他社と連携する」ことの可能性を感じてもらえたらと思います。

【ゲスト】

一般社団法人フクシスタイル 代表理事
社会福祉法人優心会 人事部
辻本 真吾(つじもと しんご)

大学卒業後、福祉介護業界にて22年間人事・経理に携わる。2017年にフクシスタイルを開始、「他社連携」という新たな視点での介護の魅力発信を行い、介護人材の発掘に成功している。

悩みを共有できる、横のつながりがほしかった

大学卒業後、福祉や介護の業界で22年間働いてきた辻本さん。実は現場経験がほとんどなく、人事や総務などの管理部門の仕事に従事してきたそうです。その中で「介護の専門職と違い、管理部門には横のつながりがほとんどない」と気付きます。

例えば採用。他の事業者は何の媒体を使っているのだろうか。イベントではどんなプレゼンをしているのだろうか。ノウハウがほとんど共有されないため、各社がゼロから試行錯誤するという効率の悪さが続いていました。

辻本さんは「ライバル会社ではあるけれど、そもそも人材の取り合いをしている場合ではない」と危機感を募らせていました。もっと介護業界の魅力を発信しなければならない。ひょんなことから、同じような思いを持った仲間が集まります。飲み会でも意気投合、事業者という枠を越えて協力し合おうと盛り上がったそうです。

「福祉に興味ゼロ」の学生を集める

フクスタがまず始めたのは、独自のイベントを開催することでした。

様々な業界が参加する合同説明会では、学生は他の業界のブースに行ってしまう。介護業界だけのイベントでは、そもそも人が集まらない。「1日出展しても、話を聞いてもらえるのは10人以下。そこから実際に見学に来るのは1人いるかどうか」という惨憺たる状況に、どの会社も陥っていたそうです。

他のイベントと差別化するために、フクスタは2つのアプローチを試しました。

・福祉に興味がない学生にもアプローチすること

・大学1〜3年生。まだ就職活動していない学生を集めること

介護人材を増やすという思いはあれど、最初のころは苦労の連続。誰もイベントを開催したことがなく、特に集客は苦戦続きだったそうです。「福祉に興味のない学生に、『介護のイベントに来て』と言っても来るわけがない」と、辻本さんは苦笑しながら当時を振り返りました。

それでも回を重ねるごとに、フクスタは集客に成功していきます。陶芸ができるおしゃれなカフェで開催したり、「カメラ講座」という学生に需要のありそうな企画を考えたり。「『採用担当者のぶっちゃけトーク』というコンテンツも盛り上がった」と辻本さんは胸を張りました。

自己満足では、好循環は生まれない

その後イベントは軌道に乗り、これまでにオフライン4回、オンライン1回と開催を続けます。長期インターンシップも開催し、学生主体の「フクスタカフェ mini」など、学生を巻き込んだプロジェクトへと成長していきました。

それでもフクスタは、あくまで有志によるプロジェクト。お金が潤沢にあるわけでも、メンバーが自由に時間を費やすことができるわけでもありません。「会場費無料、人数分の飲食費のみ」といった運営上の努力も常に行ってきました。

意欲的な学生を集客することは大変ですが、好循環を生む起点にもなるようです。

協賛企業:フクスタと関わることで学生に企業の魅力発信が届き、良い採用活動につなげることができる

学生:就職や仕事観を考える上での有益な情報を得ることができる

「社会性の高いイベントを開催している」という自己満足だけでは、好循環は生まれません。ときには協賛企業向けの勉強会などを実施するなど、コストを度外視して関係者へのリターンに苦心していたそうです。どんな価値を与えられるかを真剣に考えたからこそ、フクスタの輪は広がったのかもしれません。

他社と連携することが、学生に響いている

採用を目的としていないフクスタですが、他社連携の活動を通じて採用への良い効果もあると辻本さんは話します。「他企業との交流がある」「関係者みんなで福祉業界を盛り上げている」ことが学生にとっては魅力的に映っているのだそう。

フクスタの参加者にアンケートを取ると、福祉業界を就職先に選んでいる学生は8〜9割にのぼっています。「学生が希望するのが介護・福祉業界だったら全力でバックアップする」と話す辻本さんの言葉からは、閉鎖的なイメージのある介護業界に一石を投じようという強い意思を感じました。

マイナビによる「2023年卒向け大学生業界イメージ調査」によると、「介護・福祉サービス」は40業種中32位。「介護の魅力が伝わっていないだけ。上位にいく可能性は十分にある」、フクスタで一般学生と日々接している辻本さんだからこそ説得力があります。

みんなで、介護人材を増やす

コロナ禍でフクスタの活動を見直した辻本さん。「本気で介護人材を増やすため、一緒に連携して盛り上げてくれる仲間を探したい」と思いを強くしたそうです。

フクスタがこだわるのはナレッジシェア。フクスタのコンセプトに共感してくれれば、フクスタの名前も使っていいし、ノウハウもどんどん共有するとのこと。実際に長崎県では、フクスタの名前を使った活動が継続的に行われています。

辻本さんが最後に参加者に伝えたのは「介護職を一般労働職として位置付ける」という思いでした。介護の魅力を伝えるとき、他の仕事と異なる「特別なもの」として訴えがち。しかし辻本さんは、営業職や研究職などと同じような位置付けで介護の仕事を捉えてもらうべきだと話しました。

そのためには、介護業界に関わるひとりひとりが手を携え、みんなで介護人材を増やすんだという共通認識が大切になります。これからフクスタの輪がどのように広がっていくのか、楽しみでなりません。

(文/堀聡太)