職員の定着と育成で離職率10%減!―誰もが働きやすい職場づくりのポイント【KAIGO HR FORUM 2021レポート⑤】
2022/01/18
【ゲスト】
社会福祉法人 長崎厚生福祉団 業務執行理事 千々岩源大(ちぢわ もとひろ) 氏
31.2%。
これは、何を表す数字だと思いますか?
この数字は、令和2年度における新規大卒就職者の就職後3年以内の離職率です。新規高卒就職者だと約4割(36.9%)にもなります。(出典:厚生労働省ホームページ)
せっかく確保した人材が離職してしまい、再び採用活動を……
そんな悪循環にならないために定着に向けた人材の育成と職場づくりは、採用後とても重要になります。
人材を確保する「採用」は、いわばスタート地点。それからの長い道のりが「育成」と「定着」です。
確保した人材とともに併走する企業は、「定着」「育成」のために何ができるのでしょうか。
レポート第5弾は「【離職防止】離職率 10%減!定着に向けた教育・育成の体制構築と働きやすい職場づくり」です。
ゲストにお迎えしたのは、社会福祉法人 長崎厚生福祉団 業務執行理事 千々岩源大(ちぢわ もとひろ)氏です。長崎厚生福祉団の離職率はなんと10%! 本セミナーにて、育成・定着における課題の見つけ方、そしてその改善方法の数々を赤裸々にお話いただきました。
社会福祉法人長崎厚生福祉団、業務執行理事の千々岩と申します。
2002年度から法人の新卒採用に関わり始めて、これまでざっと1,000名ぐらいの方々を面接してきました。今日は、私が採用に関わってきた18年間の中で見つけた課題や、そのときの解決策などをみなさまにお伝えできればと思います。どうぞよろしくお願いします!
さっそくですが、採用・定着・育成の取り組みを振り返ってみると、大きく5つのフェーズがありました。今回は、それに沿ってご説明していきます。
①新卒採用開始フェーズ(2002年~2006年)-法人規模の拡大、手探り状態での採用活動
そもそも新卒採用を始めるきっかけとなったのは、2003年に長崎県で特養120床、老健100床、ケアハウス50床の計270床を同時期に開設することが決まったからです。これらの施設のオープンに向けて、新卒採用を始めました。
今では考えられないですけど1,100名もの方から応募があって、その中から140名を採用することが決まりました。
ここで出た最初の課題は、組織力が弱まったことです。新規施設を開設するということで、既存施設からベテラン職員が異動します。すると、既存施設の運営体制が弱まる、さらに、ベテラン職員が異動した施設にいるのは多くの新入職員……新たに採用した職員の教育が間に合わず、全体として組織力が弱まってしまいました。それに伴って人間関係の問題もだんだんと表出するようになりました。
2006年、ちょうど2003年の新卒入社の方が3年目を迎えるころ、離職率が17%を超え、約80名の職員が離職をしてしまいました。もちろん転居や結婚など致し方ない理由もありましたが、やっぱり人間関係、組織・上司への不満が多かったです。
このような早期離職をうけて、まずは新入職員の定着を図ることが優先事項だと判断し、2007年に新入職員研修及び年2回のフォローアップ研修と新入職員の個別面談を開始。この新入職員の研修はすべて法人オリジナルのプログラムで構成して、一部の研修だけを外部にお願いしました。
この取り組みのおかげで一時的に新入職員の離職率は10%台に減少しました。
次に出た課題が、新卒採用のノウハウがないことでした。採用をスタートした2002年から翌年までは、施設のオープン効果があったので比較的順調に進んでいましたが、その後は新卒採用者も下降気味に。加えて、介護関連の学校との信頼関係がなにもない状態でした。
そのためまず最初に着手したのは、介護系の養成校・学校との関係構築。長崎県内の学校訪問を地道に行い、同時に私たちのことを知ってもらうために法人のHPの開設をしました。
そして、職員数が2倍になったことを受け、労務上、経営陣の知識や経験だけでは対応できない問題が増えてきたので、顧問社労士との契約を締結して、就業規則の抜本的見直しを図りました。
②新入職員育成フェーズ(2007年~2008年)―研修制度の充実化、しかし介護の社会的イメージの悪化をうけて試行錯誤の時期に
このフェーズでは新入職員の育成のため、より研修に力をいれました。福岡県の外部教育機関へ私が直接交渉へ出向き、契約をして法人オリジナルの研修を、現在に至るまで依頼しております。
法人内研修を始めた当初は、やっぱり研修に後ろ向きな職員がとても多かったです。「現場が忙しいのに」「会社は私たちの良さをわかっていない」「研修なんかやってられない」など否定的、というか斜に構えるような雰囲気もありました。
それでも、研修を続けていくことで、それが当たり前の雰囲気に変わっていき、研修で得た知識を使って伸びていく職員も出始めてから研修の雰囲気が変わってきたように思います。
さらに、プリセプター制度も導入しました。プリセプター制度とは、新入職員一人ひとりに先輩職員がマンツーマンでついて指導をする制度のことです。新入職員が現場に配属されたあと、実務を指導するのは先輩職員になります。これを制度化することで、新入職員と、教える立場になる先輩職員のレベルアップにも繋がります。
法人全体で実施する研修と、プリセプター制度を使った事業所ごとの研修が車の両輪のようになって新入職員が成長できる仕組みを構築しました。
ところが、2007年6月。みなさんご存じの通り、介護事業所最大手の会社の不正が発覚し、市場から撤退するという事件が起きました。これを機に介護業界に対する社会的イメージが悪化、採用環境が氷河期となりました。特に親御さんの影響を受けやすい高卒新卒者の採用が難しくなったり、、前段階である介護系の学校への進学をしないという状況に……。その影響から私たちは、新たにナビサイト(マイナビ・リクナビ)の活用を始めました。そして、これまで県内のみで行っていた学校との関係づくりも、県外の福岡、佐賀、熊本への学校訪問も実施するようにしました。
この時期は、法人も現場職員も試行錯誤を繰り返していたと思います。
③新入職員定着フェーズ(2009年~2013年)―「遅すぎます」その一言から職場づくりの重要性を実感
2009年から、経営会議として施設長・センター長会議を開始しました。それまでは事業所や施設ごとに独自の管理体制をとってしまっていたため、事業所ごとの業績や課題について全体で共有できる場がありませんでした。結果的に、この会議でわかった課題もいくつかあります。
2008年から接遇マナー研修を継続的にしていたんですが、職員への浸透や実務へ活かしきれていない現状がありました。
そこで、マナーガイドブック作成のプロジェクトを開始。トップダウンで研修を一通りやるだけでなく、各事業所から代表職員を1名選出してもらって、職員の手でマナーガイドブックを作り、職員一人ひとりに配布するようにしました。身近な職員が作ったガイドブックということもあって、好評でした。
さらに、一部の事業所で業務に関する問題があることもわかりました。サービス残業の常態化、業務時間内に収まらない業務量、それに伴った職場の雰囲気の悪化。このような現状があることが判明したんですね。改善に向けて業務改革会議を開き、現場職員も世代関係なく会議に参加してもらいました。その中で、今でも覚えているんですが、会議に参加した若手の職員から言われた一言が
「いまさらこんな会議をしても意味がないです。遅すぎます。」
でした。泣きながらそう訴える職員を前にして、私自身とてもショックな出来事であると同時に、労働環境の改善は働きやすい職場づくりに欠かせないことを実感しました。
さらに、新卒採用においては、さきほどの事件以降少しずつ応募者が減少傾向にあったため、無資格・未経験者もターゲットにいれるように戦略の練り直しをしました。
この時期、新卒者の3年以内離職率が全国平均以上の36%。このことに危機感を抱き、対策として2、3、5年目のフォローアップ研修を始めました。1年目の職員が抱える課題と、2年目、3年目、5年目の職員が抱える課題は当たり前ですが、変わってきます。その年代の課題に沿ったフォローをしていかないと離職者は減っていかない、と感じました。
④働き方改革フェーズ(2014年~2017年)―多様な改革の実施、誰もが働きやすい職場にするために
2014年、「労働安全衛生法の一部を改正する法律」にて、ストレスチェックの義務付け、2019年に「働き方改革関連法案」が施行され、社会的にも働き方を見直す必要が生じてきました。
まずは、職員の働きやすさを追求するための横断的なプロジェクトとして「ひとづくりプロジェクト」というものを会社内で始めました
プロジェクト内では職員アンケートを実施し、優先順位を決めて様々な改革を進めていきました。
例えば、時間外労働のガイドライン作成。これまでサービス残業となってしまっていた業務をプロジェクト内で精査して、きちんと時間外労働として申請を行うように推進しました。
他にも、長期休暇としてバースデー休暇とリフレッシュ休暇が案に出たので導入の検討、介護マニュアル動画の作成や、有給休暇取得促進に取り組んできました。
今では「新卒採用チーム」「働き方改革チーム」「対馬地区定着・採用チーム」の3プロジェクトを、それぞれ各事業所から職員が集まって継続しております。
この時期から新卒採用において、無資格・未経験者の正社員登用を始めました。それまでは介護福祉士の取得まで、契約職員扱いでした。しかし、私たち介護業界が採用氷河期になったことを受けて、他業界と同じ土俵で介護業界が戦えるよう、条件面を整えました。
それから、介護補助員の配置ですね。1フロアに1名、もしくは2名の介護補助員を置き、職員がコア業務、専門的な業務で自分の持つ力を十分に発揮できるようにしました。
働き方改革としてその他にも、職員用駐車場の整備、20年以上の永年勤続表彰制度、子育てをする職員に向けた事業所内保育の開設、ICT機器の導入、福祉用具の活用を実施。
このように、様々な背景をもつ職員みんなに働きやすさを感じてもらえるよう、環境づくりに力を入れました。
⑤組織力向上フェーズ(2018年~現在)―新たな採用手法の導入
ここ数年で、ようやく組織力向上のフェーズに移行してきました。
2018年から、年1回組織力診断というのを取り入れています。取り入れる前は、直接職員から意見をヒアリングしていたんですけれども、情報に偏りがあったり、優先順位を読み間違えたりすることもありました。もっと客観的な情報が必要との意見から、この診断を始めました。
簡単にいうと事業所ごとの通知表のようなもので、業界平均と比べて数値が低い項目がある事業所は、経営会議に取り上げ、具体的な対策に取り組むことにしたのです。客観的な指標として活用しています。
あとは、管理職である施設長・センター長と職員の1on1面談の導入。これは人事考課以外にも、コミュニケーションをとる機会を増やし、話しやすい環境づくりをすることが目的です。
現在、新卒採用に関しては、毎年15名を目標に採用活動をオンライン・オフライン併用で行っています。そして、留学生採用の取り組みも始めているんですね。新卒採用の社内担当は、私と、介護職員が2名、兼任で担当をしてくれています。結果からいうと介護職員の離職率は7%、うち長崎エリアは4%を下回っている状況です。2020年度に採用した新卒者の離職率は0%という成果をあげています。
さらに、新卒採用や中途採用以外にも職員の紹介で求職者を採用するリファラル採用や一度退職した職員が再び復職するリターン採用制度の構築もしました。令和2年度には、職員紹介のリファラル採用が27名、リターン採用が9名という実績を出しています。
これからも新たな改革を進めていきますが、今月から職員に研修を担当してもらおうと思っているので、職員研修のインストラクターを養成する研修なんかも始めています。
日本全国で介護を誇れる仕事にしていくために、一番大事なのは「人」
ここまで見ていただいてわかるように、採用・定着・育成には経営陣のコミットが大前提になります。どうしても現場だけではまかなえない制度やシステム導入もありますので、課題やその対策については管理職が関わっていくことが重要だと感じます。
職場環境の改善に関しては、ボトムアップで実施することが大切です。離職率低下に繋げていくために、やはり職員の生の声を聞く機会を設けること。個別の面談、上司に伝えやすい環境づくりがあることは、職場環境改善の第一歩だと思います。その場合、必ず守ってほしいのが守秘義務です。本人が「上司に伝えてほしくない」と言ったことは施設長やセンター長には伝えない。もし伝えないといけない場合は本人の了承を得る。そのような信頼関係の構築も忘れないでください。
あとは、職員同士が話しやすい環境を作ることも私たちの役目かな、と考えております。例えば研修の中で職員同士が話し合う時間を設ける。そこで愚痴の言い合いになったとしても、職員がお互いに「相談できる」環境づくりを行う。このことは、働く職員にとって、働きやすさになると思います。
これから、いや、もうすでに、採用が激化していく中で一番大事なのは「人」です。人がいないと事業っていうのは成り立たないですよね。つまり、事業の根幹に直結します。事業の根幹になるということは、経営の課題とイコールなんです。
そのことをまずは、管理職の方が肝に据えてほしい。そうして私たちから取り組みをしていくと、職員もだんだんと応えてくれるようになるんです。みんなから知恵や工夫がたくさん出てきて、職員との信頼関係構築にもなり、新しいことを任せられるようになります。
もはや採用・定着・育成は片手間ではできなくなってきている、と私は感じます。だからこそ、会社全体が採用活動や働きやすい職場づくりに関わる必要があるんです。
私たちのハッピーニュース(上記画像)がありますが、日本全国で介護が誇れる仕事になるよう私たちも頑張るので、みなさんも一緒に頑張っていきましょう。
今日は、どうもありがとうございました。
社会福祉法人 長崎厚生福祉団さんの現在の従業員数は600名を超えているにも関わらず、離職率は10%台を持続しています。職員みんなの声を聞くこと、働きやすさにコミットする制度、「こんなのあったらいいな」を実現する姿勢がとても印象的でした。会社全体で取り組む重要性を実感していただけたのではないでしょうか。千々岩様、お話いただき誠にありがとうございました!
(文/田邉なつほ 編集/森近恵梨子)
【ゲスト・登壇者プロフィール】
社会福祉法人 長崎厚生福祉団 業務執行理事 千々岩 源大 氏
福岡の大学を卒業後、福岡、宮崎で大手コンビニエンスストアの店長・店舗指導員を 5年経験。長崎厚生福祉団入団後は 法人本部事務局長、業務執行理事を務める。2002年度より法人の新卒採用に関わり、2007年度から新入職員研修を開始。現場にて取り組んでいたプリセプター制度と組み合わせて新入職員の成長を支援。2014年度からは法人内に「ひとづくりプロジェクトチーム」を立ち上げ、職員の働きやすさを追求。その結果、17%だった離職率を9%まで下げることができ、特に介護職員の離職率は7%となっている。地元の伝統的なお祭り「長崎くんち」をこよなく愛する長崎人。
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