資料ダウンロード

事例有り! 介護・福祉職員が自ら学び、成長する「かかわり」と「越境」のデザイン【介護経営に役立つ「人事の目線」⑤】

2023/02/16

介護・福祉職員の成長を促す学びの場をデザインする

人材育成を考える際には、①新任者の適応、②職員の能力・階層別の人材開発の2点を意識した戦略設計が必要であると、当連載の第3回でご紹介しました。

では、そのような学びの機会はどのようにつくればよいのでしょうか。今回は、いくつかの事例を交えつつ、学びのための環境デザインについ て「人材開発」の視点から解説します。

事例① 互いに学び合う組織をつくる

新人の育成は、当事者である新人職員の成長・定着のために重要であると同時に、既存の職員の成長を促す絶好の機会でもあります。

ここでご紹介するのは、リーダー層や先輩となる年次の若い職員が、階層を意識しながら、それぞれの立場で新人育成にかかわり、互いに支え合う仕組みをつくり、成果を出した事例です。

とある介護施設では、例年新卒の職員採用を行っていたものの、なかなか職場や仕事の中身になじめず、自信をなくして早期離職してしまうケースが起こっていました。

新人の育成は現場任せになっていて、しっかりとした受け入れができていないという課題認識から、新人職員の受け入れ体制の整備のお手伝いをすることになりました。

プロジェクト開始当初は、新人向けに「何を伝えるか」ということに着眼点が向いていましたが、課題を整理していくと、現場の職員から「新人を育成しないといけないという気持ちはあるが、どうかかわってよいかわからない」という不安の声も多く聞こえ、受け入れ側の職員のフォローや教育がより重要であることが見えてきました。

そこで、職員向けの受け入れ準備研修を実施し、若手職員らに「どのようなことを新人に伝えればよいか」「自分が新人のときにつまずいたことは何か」といったことを考えてもらい、新人向けの手順書を作成。

それをリーダー層の職員が確認し、先輩職員がどのように新人とかかわるかをフィードバックするというプログラムを行いました。この手順書は、既存の OJTマニュアルよりも、現場の実情にあったものになり、これまでのマニュアルと加えることで、よりきめ細やかな新人育成が行えるようになりました。

また、リーダー・先輩の立場ごとにかかわり方の目線を統一することで、新人を含めて互いにかかわり合い、学び合う風土が生まれました。このような動きを取り入れた結果、新人職員が先輩の姿から学ぶ機会が増え、その年の中途採用を含めた新人職員の定着率は向上しました。

さらに、先輩・リーダー層の職員が積極的に育成にかかわるなかで、仕事を見つめ直し、成長にもつながるという効果が見られました。これは、学習論における「正統的周辺参加」(図表1)という考え方を参考にしています。

図表1「正統的周辺参加」の概念図

教育学者のレイヴとウェンガーが提唱したこのモデルは、学習を個人の取り組みとして切り取るのではなく、職場や共同体での人とのかかわりという「状況」のなかで生まれると考えました。

親方や先輩の仕事から見よう見まねで学ぶ伝統的な職人の徒弟制度のように、簡単に行える「周辺的」な業務から、徐々に複雑で重要な「中心的」な役割を果たすようになっていく姿を「学習」と捉え、この「周辺」から「中心」までの階層が、きちんと見える化され、自然と学び合える・教え合える環境をつくることで高い学習効果を得られると考えられています。

つまり、介護・福祉の職場における学習については、「何を学ぶ」かということ以上に、どのように「共に学び合うか」という環境をデザインすることが、より高い学習効果を生むことになります。この事例においても、リーダー・ベテランから若手職員・新人がよい形で学び合う仕組みをつくれたことが、よい効果を生んだのではないかと考えています。

事例② 職場の垣根を越えた越境学習

かかわり合う、共に学び合うと言っても、職場内のみの関係性で完結していると、なかなか見えてこないものもあります。また、小規模な介護・福祉事業所にとっては、学びの場をつくることが難しいケースもあるはずです。

そこで、2つ目の事例では、「越境学習」(図表2)という視点を紹介したいと思います。

図表2「越境学習」の概念図

私たちが文京区と協働で行った「新任介護人材育成プログラム」は毎月1回、全7回の人材育成プログラムです。文京区在勤・在住・在学の介護人材や学生が集まり、コミュニケーションやロジカルシンキングを行いながら地域の先進的な取り組みについて学びました。

参加者の多くは、同世代の人との職場を越えた学びの場に刺激を受け、仕事への意欲の向上にもつながったようでした。また、学びを通して新たな発見もあり、学んだことをそれぞれの現場で実践するようになりました。

職場外のかかわりをもつ人材は、職場内のかかわりのみの人材と比較すると、「視野の拡大」「自己効力」「内発的モチベーション」といった項目の成長実感が高いという効果が得られているという調査結果もあります。(富士ゼロックス総合教育研究所、2008年)。

この事例は自治体が音頭をとっ  て進めたものですが、地域の法人が声を掛け合って、職員育成を合同で行っているケースもあります。それぞれの地域・施設の状況に合わせて、より効果の生まれる学びの場をつくっていただければと思います。

※本記事は、以下に雑誌に執筆・掲載した内容を加筆・修正し、公開しております。

社名:株式会社日本医療企画
雑誌名:地域介護経営 介護ビジョン
発行年/掲載号:2019年3月号掲載

前回の記事はこちら▼

人材育成を起点に、良い循環を。介護・福祉事業者が意識すべき2つの「育成」【介護経営に役立つ「人事の目線」③】

介護・福祉事業者の欲しい人材像を徹底的に掘り下げる「ペルソナ」設計 【介護経営に役立つ「人事の目線」④】

この記事を書いた人

野沢 悠介

株式会社Blanket 取締役

東京都出身。立教大学コミュニティ福祉学部卒。ワークショップデザイナー/キャリアコンサルタント。2006年株式会社ベネッセスタイルケアに新卒入社し、採用担当・新卒採用チームリーダー・人財開発部長などを担当。介護・福祉領域の人材採用・人材開発が専門。2017年に参加して株式会社Join for Kaigo(現 Blanket)取締役に就任。介護・福祉事業者の採用・人事支援や、採用力向上のためのプログラム開発などを中心に「いきいき働くことができる職場づくり」を進める。