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介護・福祉業界の人事担当者必見! より良い組織づくりのための人事制度活用の3つのポイント【介護経営に役立つ「人事の目線」⑦】

2023/03/02

終身雇用・正規雇用が一般的で、働き方も評価の基準もある程度一律でも機能していた日本型の雇用は終焉を迎え、働き方も人材も多様な時代を迎えています。

なかでも介護・福祉業界は、需要の拡大や人材不足などの課題から、雇用形態、年齢、性別、国籍もさまざまな人材を迎え入れたうえでの組織づくりがより重要になると言えるでしょう。

今回は、そのための術となる人事制度にスポットを当て、自組織にフィットした制度づくりのヒントを考えてみたいと思います。

人事制度は従業員へのメッセージ

人事制度には、等級制度や評価制度といった組織のあり方を規定する制度を指す狭義の意味と、そこから派生する報酬(給与)制度や福利厚生制度、人材育成制度等の諸施策も含めた広義の意味の2つの意味合いがありますが、特に重要なのは狭義の意味でしょう。

人事制度を整備する目的は、事業理念の実現と、そのための経営計画を推進するための組織をつく り、人材が活躍する環境を整えることです。

その初手として、「どのような組織をつくりたいか」ということを明確にしておく必要があります。

等級制度における昇級基準や、評価制度における日々の業務の評価基準を制定することは、従業員に対して「私たちはこのような組織をめざします」、または「このような人材を高く評価します」というメッセージでもあるのです。

この2つの制度が、経営理念や事業計画と連動した形で制定・運用されていると、制度を通じた理念浸透が進み、組織のめざす方向性は統一されていきます。

制度を制定することが目的ではなく、その制度を通じて組織をどのように形づくっていくかということ意識し、経営者から従業員へのメッセージとして丁寧に発信していきましょう。

「納得感」を意識する

「経営理念に沿う形で人事制度はつくられているけれども、上手く機能していない……」。

このような話もよく耳にします。人事制度は制定しただけでは意味がなく、実際に運用されて初めて意味を成すものです。そこで、制度の運用を成功させるポイントを説明します。

まず、重要なのが前述の通り制度のねらいや意図がきちんと共有されているかという点です。せっかく良い制度があっても、誰にも知られていない、意識されていないのでは意味を成しません。

人事制度を上手く活用している組織は、入職時や職員面談・評価などのさまざまなタイミングで、制度をコミュニケーションのツールの1つとして繰り返し活用しています。

制度を根づかせていくためにも、つくって終わりにしてしまったり、評価時に思い出したように取り出すのではなく、きちんと従業員に意図・ねらいを「伝える」というプロセスを大切にすることをお勧めします。

次に、制度設計をするなかで現場の実態と大きく乖離してしまうと、従業員が日々の業務のなかで意識することが難しかったり、管理者やリーダーの評価・育成との連動ができなくなるなど、制度の十分な効果が期待できません。

冒頭にも述べた通り、人材は多様化の一途を辿り、すべての人材にフィットする制度をつくることは至難の業となってきています。だからこそ、できる限り自組織の状況に即し、多様な人材が活躍できる「生きた制度」になるよう、多くの声を集めることが必要となります。

制度策定の際には、理念・経営という視点と共に、現場の日々の業務と地続きで設計していく必要があります。

制度の新設・見直しには、職員との意見交換の場を設けたり、策定段階からプロジェクトメンバーとして参画してもらうなど、組織内のさまざまな立場の声を聞き、協働していくことで、より納得感が得られる、実のある制度となるはずです。

人事施策との連動

理念・経営計画を土台にした等級・評価制度づくりができたら、次に重要となるのがそれらを基盤とした人事諸施策の見直しや制定です。

等級・評価制度は立派なものができたけれど、そこでの評価と報酬が連動していなかったり、制度で求められる経験・スキルを学ぶ育成の機会が不足していたり、規定する組織のあり方を可能にする福利厚生や雇用形態などの環境整備も同時に進めなければ、人事制度の効果は半減します。

人事施策において、経営理念や事業計画に紐づいた等級・評価制度があり、その下で各人事施策が機能している――という形をつくることがとても重要です(図表1)。

図表1 組織づくりにおける人事施策の位置づけ

逆に言えば、何らかの人事施策の制定・見直しを検討されている場合、その上段となる等級・評価制度といった組織のあり方を規定する施策がきちんと存在しているかという点からチェックをしてみましょう(図表2)。

図表2 人事制度づくりのチェックポイント

未曾有の人材不足に悩む介護業界では、どうしても入口となる人材の確保に目が向きがちです。ですが、どれだけ人材を確保できても、その人材が活躍できず組織を離れてしまっては意味を成しません。

人事制度を軸に、共に前に進む組織づくりを実践することは、結果として従業員の満足度やモチベーションを向上させ、「ここで働きたい、働き続けたい」と思える職場をつくり、結果的に人材不足を解消する一手となるはずです。

※本記事は、以下に雑誌に執筆・掲載した内容を加筆・修正し、公開しております。

社名:株式会社日本医療企画
雑誌名:地域介護経営 介護ビジョン
発行年/掲載号:2019年7月号掲載

前回の記事はこちら▼

より良い組織をつくる「人事の目線」! 自組織に必要なものを見極める力をつけよう【介護経営に役立つ「人事の目線」⑥】

事例有り! 介護・福祉職員が自ら学び、成長する「かかわり」と「越境」のデザイン【介護経営に役立つ「人事の目線」⑤】

この記事を書いた人

野沢 悠介

株式会社Blanket 取締役

東京都出身。立教大学コミュニティ福祉学部卒。ワークショップデザイナー/キャリアコンサルタント。2006年株式会社ベネッセスタイルケアに新卒入社し、採用担当・新卒採用チームリーダー・人財開発部長などを担当。介護・福祉領域の人材採用・人材開発が専門。2017年に参加して株式会社Join for Kaigo(現 Blanket)取締役に就任。介護・福祉事業者の採用・人事支援や、採用力向上のためのプログラム開発などを中心に「いきいき働くことができる職場づくり」を進める。