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より良い組織をつくる「人事の目線」! 自組織に必要なものを見極める力をつけよう【介護経営に役立つ「人事の目線」⑥】

2023/02/22

これまで「経営人事」をテーマに介護・福祉事業経営において非常に重要な「採用」「育成」について、事例を交えながら紹介してきました。

これまでの記事

「人」が根幹となる介護・福祉事業だからこそ、経営で「人事」の視点を重視すべき【介護経営に役立つ「人事の目線」①】

採用戦略から介護事業経営と現場の「今」と「これから」を見つめる【介護経営に役立つ「人事の目線」②】

人材育成を起点に、良い循環を。介護・福祉事業者が意識すべき2つの「育成」【介護経営に役立つ「人事の目線」③】

介護・福祉事業者の欲しい人材像を徹底的に掘り下げる「ペルソナ」設計 【介護経営に役立つ「人事の目線」④】

事例有り! 介護・福祉職員が自ら学び、成長する「かかわり」と「越境」のデザイン【介護経営に役立つ「人事の目線」⑤】

今回は、これまでご紹介した採用・育成の視点を踏まえ、「人事の目線」で経営・事業運営をより良くするアプローチの方法についてまとめていきたいと思います。

採用・育成、そして人事制度や評価制度といった数々の人事施策は、突き詰めていくとすべてのものが「良い人材が定着、活躍し、成長していく組織(仕組)づくり」という目標に収束していきます。

経営戦略と人事施策の整合

なぜそのような組織・仕組づくりが必要なのかといえば、介護・福祉事業に限らずすべての事業は「人材」なしには、事業運営が不可能だからです。

組織・人材のパフォーマンスが発揮できる環境がなければ、たとえどれだけ立派な事業理念や実効性のある経営計画を立てても、機能せずに絵に描いた餅になってしまいます。

その一方で、優秀でモチベーションが高い人材が揃っていたとしても、めざす理念や経営方針が定まっていなければ、高い成果を出すことは難しくなります。

経営戦略と人事戦略は、いわば「マップ」と「エンジン」のようなもので、どちらが欠けても機能しない、切っても切り離せない関係にあります。

そこで、人事戦略を描くにあたっては、「そもそも私たちはこの事業を通じて、何を大切にして、何をめざすのか」というところから再確認してみましょう。

遠回りに感じるかもしれませんが、私が採用・育成でご支援させていただく際は、まずここを明確にすることから始めます。計画としては存在していても、日々の事業運営では、誰も意識をしていない、すなわち “生きていない” 理念や計画は意外と多いものです。

そうした実態のない理念や戦略をもとに組織づくりをしても、経営・人材双方に意味のあるものにはなりません。

経営・事業運営に携わる人たち、現場で働く人たちとの対話のなかから、その組織が本当に大切にしたい「マップ」を描くことが、良い組織づくりの第一歩となります。

理念実現・事業運営に必要な人材とは?

良い「マップ」が描けたとしても、それだけでは目的地に到達できません。原動力となる「エンジン(人材がパフォーマンスを発揮できる環境)」が必要となります。

しかし、すぐに施策策定に取り掛かってしまうと、大切なことを見落としかねません。「マップ」に描いた方向性によって、必要な「エンジン」の “性能” や “特徴” が異なるからです。

どのような「エンジン」が必要かという全体の設計図ともいえる人事戦略を考える前に、採用計画や人材育成計画、人事制度といったパーツをつくり始めてしまうと、一つの「エンジン」としてまとまらずに歪な形になってしまうことにもなりかねません。

これまでにも繰り返しお伝えしてきた「人材要件の明確化」という観点が重要になります。理念・目標を達成させるためには、どのような組織が必要であり、どのような人材が必要なのかを関係者間の対話を深め、共通の認識をつくっておくことが重要です。

理念に基づく一貫した人事施策のデザイン

めざすべき場所の「マップ」をつくり、そこに到達するための「エンジン」の設計図も描けた。ここまで来て初めて、「エンジン」の「パーツ」となる各人事施策の具体的な設計(検討)に入ります。

めざすべき方向性とそのために必要な人材・組織が明確になっていると、その方向に沿った施策が設計しやすくなります。

たとえば、「高い質のケアの提供」を目標に掲げた場合、経験豊富な人材を確保するために、採用計画では経験者にどのように訴求するかという観点から設計できます。また、未経験の人でも高い専性をもつことができるように、人材育成施策では研修に力を入れることになるはずです。

そして、技能・知識の習得により専門性を高めることが評価される人事制度や、職員のスキルアップを支援する仕組みなどを導入することにより、職員の成長のモチベーションを高め、定着率を上げていくことも必要になります。

このようにめざす姿から逆算することで、各施策が共通の目標に沿ってデザインされていくのです。ただし、「考えただけ」「つくっただけ」では意味がありませんから、企画・実行をするなかで必ず制度の効果を検証し、改善策を講じるなど、ブラッシュアップも必要不可欠と言えるでしょう。

本当に必要なものは何かを見極める

パワーもコストも限られるなか、思いつくすべての施策を一気に実行することは不可能です。そうだとすれば、「何を行い、何を行わないか」という取捨選択が求められます。

その際には、【経営戦略 ⇒ 人事戦略 ⇒ 人事施策】という流れを意識することで、「本当に必要なものは何か」を考え、選択することができます。

今の自組織に本当に必要なものは何かを見極める「目」をもつということが、経営・事業運営に人事の目線を活かすということなのではないかと思います。

※本記事は、以下に雑誌に執筆・掲載した内容を加筆・修正し、公開しております。

社名:株式会社日本医療企画
雑誌名:地域介護経営 介護ビジョン
発行年/掲載号:2019年6月号掲載

この記事を書いた人

野沢 悠介

株式会社Blanket 取締役

東京都出身。立教大学コミュニティ福祉学部卒。ワークショップデザイナー/キャリアコンサルタント。2006年株式会社ベネッセスタイルケアに新卒入社し、採用担当・新卒採用チームリーダー・人財開発部長などを担当。介護・福祉領域の人材採用・人材開発が専門。2017年に参加して株式会社Join for Kaigo(現 Blanket)取締役に就任。介護・福祉事業者の採用・人事支援や、採用力向上のためのプログラム開発などを中心に「いきいき働くことができる職場づくり」を進める。