より良い組織づくりのために。採用担当者に大切な4つの「人事の目線」【介護経営に役立つ「人事の目線」最終回】
2023/04/19
現在、コンサルティングや採用・育成計画の策定、セミナーの実施など、さまざまな形で介護・福祉事業者の皆様の「人事」の支援をさせていただいていますが、どの場面においても、組織の課題と向き合い、本気で課題解決をしようとしている経営者・管理者・人事担当者ほど、「採用や研修、制度導入などの部分的な改革のみでは組織は良くならない。課題解決のためには、組織全体を多角的に捉え、さまざまな施策を行う必要がある」と、口をそろえてお話になります。
慢性的な人材不足が進み、働き方も多様化するなか、組織が抱える課題も複雑になっており、その課題が介護・福祉事業運営にも影響を及ぼします。
組織の課題を考え、より良い組織づくりをめざす「人事」の目線は、これからますます重要になると思います。
本連載の最終回となる今回は、改めて組織と向き合おうとされる方や、人事のキャリアをスタートされる方に、必要となる視点をまとめてみたいと思います。
①組織を俯瞰する
「人事の目線」として、とても重要なものの一つが、全体を俯瞰する視点です。
前述の通り、組織のあり方は複雑かつ多様化しており、そこから生まれる課題もさまざまな要因が絡み合って生じていることが多くあります。
たとえば、介護・福祉職員が離職する理由として、「賃金が低い」「職場の人間関係」「業務が大変」などが上位に挙げられますが、ある部分で不満を抱えていても、別の部分で組織に対しての満足度が高い場合は離職意向が下がる傾向にあり、一方で複数の不満要因を抱えていると離職意向が高まると言われています。
つまり、「職員が離職する」という課題の背景には複合的な要因が潜んでいるのです。その場合、個々の要素のみに着目するのではなく、組織全体を俯瞰し、全体像をつかむ視点が大切であると言えます。
全体像を知るためには、サーベイ(調査)の実施や、データを収集し分析するといった視点が求められます。
②課題の本質に着目する
①と矛盾するかもしれませんが、課題を生んでいる個別の状況に着目をする、ということも「人事の目線」として重要です。
課題の背景にある要因が複合的で、複雑であればあるほど、解決策を考えることも難しくなります。
そんな時は、課題を一つひとつ分解し、「どの部分が変化すれば、課題解決に向かうのか?」というポジティブな変化を促す「レバレッジポイント」を探します。
課題を生み出す要因のなかには、介入してもなかなか変化しづらい部分と、その部分がクリアになれば解決へと大きく動く部分が存在しています。
一度俯瞰をして全体の流れやつながりを理解したうえで個別具体の部分に着目すると、一見複雑な課題も打ち手が見えてくることが多くあります。
この「レバレッジポイント」を見つけるためには、データや数値だけを眺めて検討するよりも、課題の現場に足を運び、実際に自分の目で見て、当事者の話を聞くなど、「リアル」に触れることが大切です。
③組織の外から学ぶ
課題の本質と、対策すべきポイントが見えてきたら、解決のためのアプローチ方法を考えます。その際に重要になるのは、組織の外に目を向け、さまざまな事例から学ぼうとする姿勢です。
今ある情報やアイデアのみで解決策を考えようとすると、どうしても既存の枠組みから抜け出すことができず、結果として効果的な手法にたどり着かない場合があります。
そもそも、既存の手法で解決できるのであれば、「課題」にはならないとも言えます。だからこそ、「外から学ぶ」という姿勢が重要になります。
同じような課題に対して、効果的なアプローチをしている組織はないか、自社の取り組みに活かせるような最新の動向はないか、常にアンテナを張り巡らせることで、課題解決につながる良いアイデアも生まれやすくなります。
④パーツではなく、「流れ」で考える
最後の視点は、施策は「部分(パーツ)」ではなく、人事施策全体の「流れ」を意識してつくるというものです。
「人事」というテーマは多岐に渡っているため、気をつけないと施策は「採用」「導入」「育成」「評価」「配置」など、バラバラのパーツになってしまい、一つひとつは意図をもっていても、全体で異なるビジョンや方向性を示してつくられていて、ちぐはぐになってしまいます。それでは効果は半減してしまいます。
そのため、「人事の目線」をもち組織をより良い形にしていくためには、「わたしたちは、組織をどのようにしていきたいのか?」という目標やビジョンを明確にし、すべての施策がそのビジョンに 沿って設計・配置しているのか、ということを常にチェックしてメンテナンスをしていくことが求められます。
採用から育成、従業員の働く環境づくりまで、一貫したビジョンの下で、良い流れをつくることができれば、理念に共感した仲間が活き活きと活躍できる組織をつくることができるでしょう。
最後となりましたが、介護事業は「人」が何よりも基盤となる事業です。
「人事の目線」をもった事業運営が、良い組織・良いサービスをつくりあげていくはずです。皆様の組織が「人事」の力で、より良い経営を進められることを切に願っています。
※本記事は、以下に雑誌に執筆・掲載した内容を加筆・修正し、公開しております。
社名:株式会社日本医療企画
雑誌名:地域介護経営 介護ビジョン
発行年/掲載号:2020年1月号掲載
前回の記事はこちら▼
組織一丸で改革を進めるために求められる理念浸透【介護経営に役立つ「人事の目線」⑫】
ITツールを用いて、組織を強くする “HR Tech” 活用のポイント【介護経営に役立つ「人事の目線」⑪】
この記事を書いた人
野沢 悠介
株式会社Blanket 取締役
東京都出身。立教大学コミュニティ福祉学部卒。ワークショップデザイナー/キャリアコンサルタント。2006年株式会社ベネッセスタイルケアに新卒入社し、採用担当・新卒採用チームリーダー・人財開発部長などを担当。介護・福祉領域の人材採用・人材開発が専門。2017年に参加して株式会社Join for Kaigo(現 Blanket)取締役に就任。介護・福祉事業者の採用・人事支援や、採用力向上のためのプログラム開発などを中心に「いきいき働くことができる職場づくり」を進める。