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SNSが介護の魅力を広げてくれる!フォロワー6万人超えの担当者が教える、Instagram運用術

2023/08/23

株式会社ICT総研が2022年5月に発表した「2022年度 SNS利用動向に関する調査」では、日本国内でのSNS利用者は8,270万人を超えたそうです。

中でも株式会社Meta社が発表したデータによると、2019年6月時点での日本国内のInstagramアクティブアカウント数は、3,300万人を超え、2023年6月には新しいテキスト投稿型SNS「Threads(スレッズ)」もリリースされました。

企業が公式アカウントを持ち、コンテンツを発信することも増えてきた今、介護業界で順調にフォロワー数を伸ばしているアカウントがあります。それが、兵庫県丹波篠山市にある介護老人福祉施設 やまゆりの里です。やまゆりの里が特に注力しているSNSは、Instagram。

今回、運営を担当する稲葉さんをゲストに迎え、日々どのように運用しているのか、Instagramをはじめたことで起こった変化をお話いただきました。

【 ゲスト 】

介護老人福祉施設 やまゆりの里 稲葉 夏輝 氏

相談員 介護福祉士。京都医療福祉専門学校卒 平成29年よりやまゆりの里の相談員となり、「夢を叶える介護」の実践をInstagramにて発信。 現在、Instagramフォロワーは6.3万人。

Instagram:@yamayurinosato
TikTok:@yamayurinosato

地域を超え、多くの人へ施設の魅力を届けられるのがSNS

セミナーのタイトル発表時には2.5万人だったInstagramのフォロワー数は、1つの動画が反響を呼んだことでセミナーが開催された7月には5.1万人に増加。さらに本レポートの執筆時は6.3万人になり、順調にフォロワー数を伸ばしています。

そもそも、なぜ、やまゆりの里はSNS運用を始めたのでしょうか?

やまゆりの里は、兵庫県丹波篠山市にある特別養護老人ホーム。3年前の2020年に移転するまで、丹波篠山地域でもっとも年月を重ねた施設でした。

Instagram運用を担当している稲葉さんがやまゆりの里に入職したのは、2017年のとき。

「『新しく移転する施設がある』とのお話をもらい、やまゆりの里へ入職しました。

そのとき副施設長から『移転しても、あと30人ぐらい人がいないとオープンできない』との話を聞いて、僕から『SNSの発信をしてみるのはどうでしょうか』と提案。この提案がきっかけとなり、やまゆりの里はSNSの活用を始めました」

介護老人福祉施設 やまゆりの里で相談員を務める稲葉さん

やまゆりの里がある丹波篠山市は約4万人が暮らす、のどかな田舎町。65歳以上の高齢人口が約35%を占め、人が集まりにくく生産人口が減少しつつある地域です。そのため、不特定多数の人たちへやまゆりの里の情報を届けられるSNSを使い、採用に向けた運用を始めました。

SNS運用を始める前に、やまゆりの里が行った事前準備

SNSを活用する、特にInstagramに力を入れることにした稲葉さんはまず、やまゆりの里の何を求職者へ届けたいかを考えたそう。

「給与や待遇、働く環境などの発信はInstagramと合わないですし、そうではなく、やまゆりの里の介護の魅力を伝えたい。

何を大切にしていて、どのような想いをもって介護をしているのか。それらを発信することで、求職者が『自分の理想の介護が、やまゆりの里でなら実現できるかもしれない』と感じ、入職を希望してほしいと職員たちと話し合いました」

2018年9月からInstagram運用を始め、2019年にはやまゆりの里の介護方針「夢を掲げる介護」をコンセプトに、毎日投稿を開始。毎日投稿を始めるまでの約9ヶ月間は、事前準備として2つのことを行いました。

「始めにしたことは、個人情報の取り扱いを徹底すること。全利用者さんと利用者さんのご家族に個人情報についての手紙を送付し、次の3つの同意を得ました」

⑴施設内掲示物への写真掲載
⑵ホームページや、ブログ、SNSへの写真掲載
⑶広報誌、パンフレットなどへの写真掲載

「Instagramだけでなく、撮影した写真はホームページややまゆりの里のパンフレットにも掲載したいと考えていたため、事前に使用用途については同意を得ました。

現在も、新規の利用者さんには初回面談時に必ず写真掲載についての意向をお伺いし、問題なければ承諾を得るようにしています」

次にしたことは、毎日投稿できるよう社内での仕組み作り。

「Instagramで毎日投稿をするためには、投稿するための写真が必要になります。僕1人ではまかないきれないため、全職員に写真撮影を依頼しました。撮影した写真は、社内の情報共有ツールで僕に送ってもらえる体制を構築。

また、無理に笑顔を引き出すのではなく、自然と利用者さんの笑顔になるようなケアをするため、3つの委員会を設置しました」

⑴暮らしの委員会
 → 新しい業務が増えるため、業務改善をしながら利用者さんの生活を守る委員会

⑵学びの委員会
 → 料理や施設内のイベントなど、利用者さんに楽しんでもらえる取り組みを考える委員会

⑶遊びの委員会
 → 利用者さんの思い出の場所や、観光地への外出を企画する委員会

フォロワー低迷期……脱したきっかけは、サプライズ結婚式だった

利用者さんからの承諾、そして社内での仕組化も完了し、運用が本格化。しかし、フォロワー数を増やす道のりは簡単ではありませんでした。

「委員会のおかげでたくさんの企画や、それに伴い投稿内容も十分にあるはずなのに、フォロワー数に伸び悩んでいた時期もありました。

また、SNS運用が本格化したことで、周囲からも様々な意見もいただいて」

『そもそも利用者さんの写真を撮影するのはどうなのか』
『利用者さんのためのイベントやレクリエーションが、SNS発信のためになっている』
『やまゆりの里のフォロワー数がどうなろうと、私たちには関係ない』

など、稲葉さんのもとにはたくさんの意見が寄せられました。

その一つひとつに対し、SNS運用の意義を説明するも、職員の理解と協力を得るのは一筋縄ではいきませんでした。

そんな中、1つの投稿が大きな転機となったそう。

「それは、職員のサプライズ結婚式の投稿でした。新郎と職員、利用者さんがみんなで協力して、新婦さんに向けたサプライズ結婚式をやまゆりの里で行いました。

そのときの様子をInstagramで発信すると、たくさんの暖かいコメントが届き、フォロワー数が急増。そこで私は改めて、コンセプトである『夢を叶える介護』に沿った発信の重要性を実感しました」

サプライズ結婚式の様子。新婦さんにサプライズを仕掛けました

その後、ついにフォロワー数が1万人に到達。伸び悩んだ時期を乗り越え、やまゆりの里らしい介護を発信することが、職員内で定着してきました。

SNS運用をすることで、職員、利用者さん双方に好影響が生まれた

セミナーでは、やまゆりの里が考えるSNS投稿のコツをお話いただきました。

「やまゆりの里では、4つのポイントを大切にしています。

1つ目は、笑顔の写真を1枚目にすること。最初に目に入る1枚目の写真は、利用者さんが喜んでいる写真にするようにしています。

2つ目は、工程や過程を見せること。例えば料理の投稿であれば、完成形だけでなく、包丁を使っているシーンや、盛り付けのシーンなど、料理をしている行程も投稿するようにしています。レクリエーションであれば、準備段階から。利用者さんや職員がどのように関わっていて、どういった流れで出来上がったのかを届けることを意識していますね」

3つ目は、文章は基本的には読みやすく、タイミングを見て想いを込めること。Instagramは写真がメインのSNSですが、職員や利用者さんのご家族が見てくれている場合もあるため、状況に合わせてやまゆりの里が大切にしていることをテキストで投稿しています。

4つ目は、アイコンとなる利用者さんを作ること。やまゆりの里では、チャーミングさ満点の100歳を超えるおばあちゃんや、可愛らしい笑顔が特徴のおじいちゃん、さらには利用者さんと介護職員のお馴染みペアなどが、投稿によく登場します。

そのような方々が登場すると、「待ってました!」とコメントやいいねが殺到。いわゆる「推し」のような、フォロワーさんにとってスター的な存在がフォロワー数増加の鍵になっているのかもしれません。

さらに稲葉さんは、SNS発信を通して、利用者さんと職員の双方にメリットがあることに気がつきました。

「利用者さんに与えるメリットとしては2つ。

1つ目は、撮影されることで張りのある生活になること。身だしなみを整えたり、お化粧をするようになったり、装いに気を遣う方が増えました。

2つ目は、一人ひとりの夢を実現できること。SNSにご自身のことが投稿されると利用者さんも嬉しいようで、『〇〇をやりたい』といった話を積極的にしてくれるんです」

また、職員に与えるメリットとしては

⑴モチベーションの維持と向上
⑵「夢を叶える介護」というケアの方向性が浸透する 

を挙げてくれました。

介護業界全体で、「介護の魅力」を発信していきたい

一方で、施設運営にとってもたくさんのメリットがありました。

「まずは当初の目的であった、入職者の増加。SNSをきっかけに入職してくれた職員は20代前半の若手が多く、『〇〇さんに会いたくて来ました!』『ずっとInstagramを見てます!』と、僕らが伝える前からやまゆりの里がどういう介護をしているかを知った状態で入職してくれました」

「加えて、退職者数も減り、やまゆりの里らしい介護方法がSNSを通して職員に伝わっていることを実感しています。さらに、新規の入居希望の方も増えましたね」

やまゆりの里はこれまで、利用者の多くが地域住民でした。しかし、SNSをきっかけに遠方からの利用希望者も増えたそう。直近では、鹿児島県にお住まいだった方がSNSを見て、入居を決めました。

写真だけでなく、最近は施設長とともにショート動画の投稿も行っているそう。SNS運用を始めて約6年経った今も、投稿時間・投稿内容などは試行錯誤の最中。「投稿直後のいいね数やコメント数を指標にしている」と稲葉さんは話します。

「やまゆりの里は、地域住民を対象とした採用や新規の入居希望者を募るのは人口が少ないこともあり、難しい状況でした。となると、わざわざ近隣県や遠方から来てもらい、『ここで働きたい』『ここで過ごしたい』と思ってもらえるようなケアや施設作りが重要だったのです。

『夢を叶える介護』というやまゆりの里らしさを、不特定多数の人に伝えられる方法としてInstagramを取り入れたことで、目的は少しずつ達成できているかなと思います。最近はInstagramで前向きな発信をする介護施設も増えたので、これからも業界全体で『介護の魅力』の発信をしていきたいですね」

「夢を叶える介護」を掲げ、職員が一丸となって発信していく姿から、やまゆりの里は今年の2月に行われた株式会社HERO’S が主催する「社会福祉HERO’S TOKYO 2022」で BEST HERO賞 を受賞。

プレゼンテーション動画はこちらから

「SNS運用がうまくいかない……」「なかなか社内体制が整わない……」という方も、本記事を参考に、できることから1歩ずつ進んでいきましょう。

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この記事を書いた人

田邉 なつほ

ライター

新卒で建築業界の営業に従事し、ライターに転身。編集プロダクションで編集者も経験。現在は取材記事の執筆、メディア運営、コンテンツ制作に携わる。 介護士の母が楽しそうに働く姿を見て「介護の世界」に興味を持ち、Blanketでイベントレポートや取材記事などを担当。