組織変革の進め方で大切な3つのポイント。多様な人材が活躍する組織をつくるために【介護経営に役立つ「人事の目線」⑧】
2023/03/09
未曾有の「人手不足時代」を生き残るために
介護・福祉業界に限らず、「人手不足が深刻です。約半数の企業が正社員の人員不足を感じており、その数は10年前の約4倍近くになっています(表1)。
その一方で、人口減少が進展するなかでも、労働力人口自体は増加傾向であり、65歳以上のシニア層や女性の労働人口の増加が、その背景に考えられます。また、外国人労働者も近年増加しています(表2)。
労働力人口は増加する一方で、企業の「人手不足感」は高まっていく……。
この相反する状況は、企業側が労働者に求めてきた従来の働き方が、現代の多様な働き手のあり方に対応しきれていないということを表しているのではないかと思います。今後の人材獲得・経営の行方は、多様な人材を迎え、誰もが働きやすい職場づくりにかかっているといっても過言ではないでしょう。
それは、人材確保が急務な介護・福祉業界でも同様です。
組織変革の3つのポイント
多様な人材が活躍する組織をつくるためには、以下の観点が重要です(図)。
一点目は、【変革の方針設定・組織の課題抽出】です。
何か施策を考える際、つい「何をすべきか?」という打ち手から考えてしまいがちですが、方針の定まらないなかで打ち手だけを決めても、結果を出すことは難しいでしょう。「どのような組織にしていきたいか」という中長期的な視野に立ち、組織の進むべき方向性を定めることが変革の第一歩となります。
次に「何が人材の参入・定着を阻害しているか」という現状の組織分析を行うことも大切です。阻害要因は、勤務時間や日数・曜日・時間帯等の勤務条件かもしれませんし、未経験者の受け入れ態勢の未整備や、習得が複雑な業務フローかもしれません。組織のなかで、できていること・できていないことを客観的に分析し、ポイントを整理することが重要です。
二点目のポイントは、【制度・ツールの策定・改善・導入】。
つまり見えてきた課題への打ち手となる部分です。この際に重要なのは、闇雲に他社の成功事例や取り組みを導入したり、安易に現状維持を選択してしまうのでなく、「何が課題の本質なのか?」という視点で、今本当に必要な施策を見極め、選択することです。
自分たちの組織の現状や課題にマッチしていないものを導入しても上手くいきませんし、「今までやってきたから……」と、現状維持思考でいれば何も変わりません。しっかりと組織の現状・課題の本質を見極め、思い切って変化させるべきものは何か、変えずに残すべきものは何なのか、組織のなかでの検証を深め、本当に大切な対応を見極めることが重要です。
三点目は、【組織の風土・マインド醸成】です。
特に人事制度や雇用制度の変更で多様な働き方に対応するということは、すでに働いている職員にとって、「自分たちはこの形で働いてきたのに……」と、不公平感を抱かせてしまうことにもつながります。
また業務フローの改善やシフトの変更、ツールの導入の直前直後は職員に負担を強いる場面も出てきます。どれだけ良い制度やツールを取り入れても、意図が伝わらず、共感をしてもらえていないと、ただただ不公平感・負担感・不満だけが高まり、職場の多様性は分断を産むリスクを生じます。
新たな取り組みを進める前に、しっかりと取り組みの意図と、その先にあるめざす姿を伝えるとともに、既存の職員にとっても働きやすい環境をつくるための実践も重要となるでしょう。「誰もが働きやすく、活躍できる組織」という目標に共感をしてもらうことで、組織一丸でのアクションが可能となるはずです。
最後に繰り返しとなりますが、今後、多様な人材の受け入れ・定着の促進は、必須の経営視点であると言っても過言ではありません。一筋縄ではいかない大きな変革になると思いますが、組織の未来のため、働く職員のため、できることから一歩ずつ進めていただきたいと思います。
※本記事は、以下に雑誌に執筆・掲載した内容を加筆・修正し、公開しております。
社名:株式会社日本医療企画
雑誌名:地域介護経営 介護ビジョン
発行年/掲載号:2019年8月号掲載
前回の記事はこちら▼
介護・福祉業界の人事担当者必見! より良い組織づくりのための人事制度活用の3つのポイント【介護経営に役立つ「人事の目線」⑦】
より良い組織をつくる「人事の目線」! 自組織に必要なものを見極める力をつけよう【介護経営に役立つ「人事の目線」⑥】
この記事を書いた人
野沢 悠介
株式会社Blanket 取締役
東京都出身。立教大学コミュニティ福祉学部卒。ワークショップデザイナー/キャリアコンサルタント。2006年株式会社ベネッセスタイルケアに新卒入社し、採用担当・新卒採用チームリーダー・人財開発部長などを担当。介護・福祉領域の人材採用・人材開発が専門。2017年に参加して株式会社Join for Kaigo(現 Blanket)取締役に就任。介護・福祉事業者の採用・人事支援や、採用力向上のためのプログラム開発などを中心に「いきいき働くことができる職場づくり」を進める。