マニュアルも指示出しも皆無。あおいけあが定義するリーダーの役割(秋本可愛のねほりはほり探訪vol.1-2)

2024/08/13

【目次】

1. 働けば働くほど楽しい
2. 管理者の仕事は指示出しではない
3. 能力よりも、人として魅力的かどうか
4. 任せられて得られた信頼関係

全国の気になる介護・福祉法人のキーパーソンに、株式会社Blanket代表の秋本が“よい組織づくり”のヒントを探る連載企画「秋本可愛のねほりはほり探訪」。

初回は株式会社あおいけあを訪ね、代表の加藤忠相さんに、マニュアルなしで最高の認知症ケアを実現する組織について取材しました。

今回は、あおいけあで20年以上働く小池みゆきさんにお話を伺いました。小規模多機能型居宅介護「おたがいさんサテライトいどばた」の管理者として、「スタッフが自ら考えることができるようにサポートするのが仕事」といいます。

出会ったときからほとんど変わっていないという、加藤代表とのエピソードについても話していただきました。

株式会社あおいけあ
管理者(おたがいさんサテライトいどばた)
小池 みゆき(こいけ みゆき)

神奈川県川崎市出身。パートスタッフとして入職、藤沢市の別事業者のデイサービスと掛け持ちで仕事に臨み、後にあおいけあに専念。小規模多機能型居宅介護「おたがいさん」立ち上げなどを経験し、現職。自身の長女、三女もあおいけあでスタッフとして勤務している。

【事業者について】

株式会社あおいけあ
所在地: 神奈川県藤沢市亀井野4-12−93
URL:https://aoicare.co.jp/

2001年設立。認知症の進行を進ませないケアを中心に、「通い〜訪問〜宿泊」を柔軟に取り組むサービスを基本として、小規模多機能型居宅介護「おとなりさん」「おたがいさん」「いどばた」、グループホーム「結」を運営。 2021年3月には多世代型アパート「ノビシロハウス亀井野」を開始。施設内に塀などの仕切りはなく、地域住民の交流の場として親しまれている。

働けば働くほど楽しい

「おたがいさんサテライトいどばた」管理者の小池みゆきさん

現在、​​小規模多機能型居宅介護「おたがいさんサテライトいどばた」の管理者を務めている小池さん。パートスタッフとして入職した当初は、別事業者のデイサービスと掛け持ちで働いていました。偶然にも同じタイミングで、両社から「勤務時間を増やさないか」と打診があったといいます。

実は待遇面は、別事業所の方が良かったんです。ただ、あおいけあは働けば働くほど楽しかった。そこでは、みんなが同じことを同じようにやることを求められましたが、あおいけあは真逆です。『何をすべきか』考えることが仕事で、そうした介護のスタイルに私も共感していました。

20年前から、加藤さんの介護への向き合い方は変わっていないと小池さんは話します。マニュアルや決められた時間割は皆無。レクリエーションという“括り”もなし。利用者にアプローチしながら、その人と一緒に何かやろうと働きかけたり、どんな働きかけをすれば利用者の自立支援につながるかを考えたりすることが、あおいけあで働く全てのスタッフに求められる仕事なのです。

管理者の仕事は指示出しではない

小規模多機能型居宅介護で利用者の生活を支えていく

スタッフの指針として唯一存在するのは、トップゴールである「よりよい人間関係の構築」だけ。実際、マニュアルがないことで、入職したばかりのスタッフはやりにくさを感じることが多いそうです。

「いきなり、『何をすべきか』を考えろとは言いません。利用者さんとおしゃべりして、仲良くなってもらいます。『そこにコーヒーや紅茶があるから、何が飲みたいか聞いてみて。もしくは、おばあちゃんたちに入れてもらってね』といった、普通の会話を促しています」

あおいけあの管理者の仕事は、指示を出すことではありません。事業所では管理者も正社員もパートスタッフも関係なく、利用者に接しています。

では、管理者の仕事とは何でしょうか?

小池さんは「スタッフが考えられるように考えること」だといいます。

パートスタッフや新入社員が、『自分で考える』をどのように身につけていくか考えるのが仕事ですね。意欲のあるスタッフだと、機械的にあれもしてこれもして、といった動き方になってしまいます。他のスタッフとも相談しながら、一人ひとりの個性や強みを踏まえたチームをつくりたいですね。

能力よりも、人として魅力的かどうか

スタッフの子どもたちが自由に出入りして遊んでいた

さらに小池さんがあおいけあの強みとして挙げるのは、スタッフ一人ひとりの強みや個性を理解していることでした。

私たちはプライベートまでべったりと仲が良いわけではありません。ただ一人ひとりが考えて、日々動いているからこそ、得意なこと、不得意なことが自然と見えてきます。不得意なことを得意な人がフォローできるのが、チームとしての利点なんだと思いますね。

チームとしてお互いをフォローし合うからこそ、一緒に働く仲間の採用は重要です。入社前に求職者に必ず参加してもらっているという2日間程度の体験入社。小池さんは人としての魅力を重視しているそうです。

話し方だったり笑顔だったり、目線の合わせ方だったり。細かい点ですが、利用者さんのことを本当に好きかどうか体験入社のときに見ていますね。あとは人間性の部分。すごく優しい性格だなとか、不器用だけどみんなに可愛がってもらえる要素を持っているなとか。能力や経験の有無でなく、人として魅力がある方と働きたいですね。

任せられて得られた信頼関係

いきなり振られた仕事だが、成長の機会になったと語る小池さん

お祭りの実行委員のように、チームで利用者にとって居心地の良い空間をつくっているあおいけあ。20年の付き合いである加藤さんについて、小池さんは「ほとんど変わっていない」と笑いながら教えてくれました。

私は性格上、言いたいことはまっすぐ相手に伝えるようにしています。加藤には言いたいことを言わせてもらっているし、やりたいことも根拠があれば必ずやらせてもらえます。違和感を口にして咎められることは全くありませんね。

小池さんはパートスタッフとして勤務していたとき、加藤さんから「デイサービスの環境を考えることを任せる」と言われたそうです。周りは先輩スタッフばかり、試行錯誤しながらやり切ったことで自信につながったといいます。

コロナが落ち着き、加藤は講演会などで事業所にいないことも増えてきました。もともと加藤がスタッフに細かく指示することはないのですが、『加藤の考えが分からない』というスタッフも出てきているかもしれません。管理者の仕事は、加藤とスタッフの間に入って双方の意思疎通を図れるようにすること。管理者は信頼関係を積み重ねてきた間柄なので、あおいけあの考えをしっかり伝える責務があると思います。

(編集後記) 秋本可愛より
常々、「自分は何もしていない。スタッフがすごいんです」と話している加藤さん。今回の取材では、加藤さんに続き、スタッフの小池さんにも貴重な話を伺うことができました。

印象に残ったのは、それぞれ別の場所で取材させていただいたのにも関わらず、加藤さんと小池さんの話にズレがなかったこと。加藤さんが望む管理者の役割を小池さんがしっかりと理解し、指示出しはせず、調整や連絡役として、あおいけあの自律型組織を支えていました。

取材後、記事のトップの写真を撮影しようと外に出たら、子どもたちが遊んでいたプールの水鉄砲で加藤さんと小池さんが撃ち合いに。笑 

お互いにまったく遠慮しない姿に、“よりよい人間関係”が見えたような気がしました。加藤さん、小池さん、取材にご協力いただきありがとうございました!


この記事を書いた

堀聡太

株式会社TOITOITOの代表、編集&執筆の仕事がメインです。ボーヴォワール『老い』を読んで、高齢社会や介護が“自分ごと”になりました。全国各地の実践を、皆さんに広く深く届けていきたいです。